やりがいのない「忙しさ」を捨て、「商い」に調和を生む
AI音声解説
「巨人・大鵬・玉子焼き」の時代、「ヨキミセサカエル」の8部門の時代から、小売業の業容は爆発的に拡大しました。
しかし、商品部門の数やそれに関わるバイヤーの数(体制)、人間の認知能力そのものは、業容の拡大にほとんど比例していません。
下表は、AIとの推論によって導き出された現状です。
仮に全店の品揃えを完全に標準化したとしても、約10倍に膨れ上がった品揃えSKU数が、バイヤー数と「人間の認知限界」をオーバーフローしている現状は変わりません。
さらに、人口減少に伴う「消費減」と「人手不足」というダブルパンチが、現状からの脱却が、いかに根性論的で無理筋なものであるかを物語っています。
このような品揃えSKU数の爆発的増加は、一般に買い手である「顧客のニーズが多様化したため」と説明されます。
しかしこれは逆に、売り手であるサプライチェーン各社が、利益追求と競争原理に則って、次々と新商品や類似商品を投入し、「顧客ニーズの多様化を煽り、加担してきた結果」であると言うこともできます。
一方で多様化した/された一つ一つの顧客ニーズに寄り添い、慮る体制は、冒頭の通り既に破綻しています。
顧客は最大のステークホルダーであるにも関わらず、製配販の間で行われる商談に声を上げることも叶わぬまま、自身の中に形成されたニーズが、売り場から失われて行く様を呆然と見送り続けるしか無いのです(「私のお気に入り」は、何故か棚落ちしやすい)。
<図:「メーカーよし」「小売よし」「顧客よし?」>
以上3点から導き出される結論は、極めてシンプルです。
製配各社(メーカー・卸)が、今後も儲け続けたい(自社のエゴを通したい)と願うのであれば、もはや「小売の破綻している商品管理」から目をそらし続けることはできません。
単純計算で10倍の数と労力が必要な筈の重点SKU(顧客ニーズの代表)を適切に管理・販売し続けるためには、製配販で顧客の声なき声であるID-POSデータを共有、商談の机上に上げ、明確な業務体制の下で「協働」すること = サプライチェーン・マネジメントが、もはや「必然」なのです。
同時に、小売側も「データ販売による収益化」や「製配(メーカー・卸)から何らかの良い提案がある事に期待する」といった悠長なことを言っている場合ではありません。
さて、まずは「重点商品とは何か?」そして、その大前提となる「ニーズとは何か?」というお話です。
顧客ニーズが多様化した現代、もはや棚割作業単位である「カテゴリー」が、イコール 「 顧客ニーズ」でないことは明白です。
顧客ニーズの多様化は、そんなカテゴリーという粗い括りの中に、「その顧客が、そこしか通らない小さなハブ」を無数に生み出し続けてきました。
「そこしか通らない」=「それ以外選択しない」のですから、このハブこそが「顧客ニーズ」です。
<イメージ:カテゴリー中に存在するハブ:「その中のいずれかしか通らない」選択肢の束(LANケーブル)から形成されている。>
このようなハブ(顧客ニーズ)の存在は、そのハブの中のいずれかのケーブル(選択肢)を通る = 選択という傾向と、他のハブを通らない=非選択という傾向から、ID-POSデータを使って下図のように統計的に可視化することができます。
この顧客ニーズの階層構造を、「帳票」として整理、可視化したものが、次の図です。
カテゴリーの子ハブである「目的範囲」(外部との非選択が卓越した選択肢の束)と、その下にぶら下がる孫ハブである「選択範囲」(内部での選択が卓越した選択肢の束)の階層構造が、帳票に表現されています。
<図:「ニーズの見える化」分析結果画面:「AIエージェント」⇨「目的範囲・選択範囲のニーズ要約」から、ニーズ名を推論、要約済のもの。>
図中の「目的範囲」という子ハブの中で、最も流入量(利用ID数)の多い「代表ポート」には、1stという「重点レコメンド」が振られています。
子ハブの下にぶら下がる、「選択範囲」という孫ハブの中で、最も流入量(利用ID数)の多い「代表ポート」には、2ndという「重点レコメンド」が振られています。
顧客のお買い物は、単一の部門内に留まるものではありません。各部門の各カテゴリーに、無数に散らばるこのような「ハブとハブ」「ニーズとニーズ」を、個々人が思い思いに繋ぎ合わせていく選択のネットワーク、いわば「お買い物ネットワーク」です。
<お買い物ネットワークのイメージ:「ニーズ」というハブの中、カートが最も多く通過しているポートが「代表ポート」=「重点商品」。>
このお買い物ネットワークの結び方(買い回り)は、個々の顧客の置かれた状況と、持っている価値観の違い(状況 ✕ 価値観 = ニーズ)の組み合わせに応じて、実に千差万別ですが、店内の「お買い物ネットワーク」全体を俯瞰して見れば、顧客が各「代表ポート」のいくつかを通過する確率は、俄然高くなります。
また、これら「代表ポート」は、ハブ内の他のポートが万一不通(欠品/カット)となった際にも、その流量の可用性から、最も代替経路として選ばれやすいポートであるとも言えます。
これこそが、多様化した顧客ニーズに確率のネットワークを重ね、お買い物ネットワークそのものを守る、本来の「重点商品」です。
ID-POSはこのようにお客さまのお買い物を「ネットワーク」として捉え、カテゴリー中の「ハブ」や、その「代表ポート」をあぶり出し、活用することで、多様化した顧客ニーズに高確率で応えていくものであり、それによって部門/カテゴリーに留まらず、店全体の利用ID数、利用頻度(ID回数)、客点数(バスケットサイズ)を高めていくものです。
ですので、すべてのお取引先さまにID-POSを使っていただきたいのは山々なのですが、ここまでお読みいただいたように、顧客の「状況 ✕ 価値観」の組み合わせは千差万別であり、多勢である「顧客を理解し、寄り添うことは難しい」が故に「ID-POSは難しい」のです。
「重点商品」の考え方一つとっても、従来の部門ごとに部分最適を狙った「売上/粗利至上主義」とは180度異なります。
そう、理屈の理解より何より、この慣れ親しんだ「セリング」という「部分最適・売り手のパラダイム(物の見方)」から、サプライチェーンに関わる全社の、「『お買い物ネットワーク』『ニーズ』という買い手のパラダイムとの調和」、すなわち「全体最適・マーケティングへのパラダイムシフト」こそが、何よりも困難なのです(筆者としてはいずれ単なる”常識”となるパラダイムだと考えていますが)。
ですので、ことID-POSによる分析・計画(戦略)については、カテゴリー毎の最大帳合にしてエキスパートたる「カテゴリーキャプテン」にお任せするというのが、ID-POSとそのパラダイムが未だ一般化していない「現状における最適解」となります。
カテゴリーキャプテンは、本稿の親記事である『ID-POSの技術と実務』にあるような、MD(マーチャンダイジング)から販促に至るまで、カテゴリーのマーケティング政策のすべてに関与していただくこととなります。
いかにID-POSによる完璧な計画(戦略)があったとしても、現実の売り場は、統計的な変動という荒波に、激しく洗われ続けています。計画を遂行し続けるためには、日々の適応(戦術)が必要です。
一方でカテゴリーキャプテンと言っても、その認知限界は余人と大差はありません。
図(再掲)で言えば、391SKUからなるカテゴリーの中に147のハブ(ニーズ)が存在しており、これはすなわち「147の代表ポート=重点商品」の存在を意味しますから、冒頭の表で挙げた人の認知限界「50SKU前後」を優に超えています。
<図:再掲>
※表外のものも含めて7つの目的範囲と、その配下の147の選択範囲から形成されています(このカテゴリーの総SKU数は391)。
そこで、計画実施後の個々の重点商品の異常値を監視していただくのが、その他の取引先、中でもその売上が自身の成績に直結し、商品へのアテンションと解像度が、サプライチェーン中で最も高い担当営業さんです。
単純計算ですが、カテゴリーに 147重点SKU ÷ 50(認知限界SKU数) ≒ 3社以上 のメーカー/取引先があれば、監視対象は人間の認知限界中に収まります。
下図のように「採用順(ポートとしての重要度順)」で昇順に並び替えたものを、カテゴリーキャプテンがEXCEL出力し、「重点レコメンド」の付いた重点商品に絞って、バイヤー経由でカテゴリーに関連する全社に配布します。
<図:採用順昇順のリスト>
各取引先営業マンには、そのリストの中の自社商品が、監視すべき「重点」であることを認識してもらいます。
その多くが「売れ筋順」で寡占的であった、旧来の「重点商品」とは異なり、「お買い物ネットワークにおける重要度順」であるID-POSの「重点商品」は、商品に独自のニーズさえあれば、たとえ零細な取引先の、大々的には売れていない商品であっても「重点」としてレコメンドされてきます。
さらに、重点商品の監視だけであれば、慣れ親しんだ、敷居の低いPOS分析が提供できれば充分です。
このように実践的な【製配販協働の体制】とは、カテゴリーキャプテンのID-POSによる計画(戦略)と、その他のお取引先様によるPOSによる適応(戦術)から成り立つものです。
なお現在、BiZOOPe POS分析開示版に、重点商品を登録さえしておけば、「異常があった時のみ」登録者にアラートメールを飛ばす機能を開発中です。
リリースの暁には別途、当該機能の具体的な操作方法を掲載させていただく予定です。
<図:ID-POS(計画)+POS(適応)のピラミッド構造>
※活動を始める順序としては、より敷居の低いPOS分析開示 → ID-POS分析開示の順とするのが一般的です。
さて、カテゴリーキャプテンが計画(戦略)を立て、その他の取引先が適応(戦術)を担うのであれば、その時バイヤーは何をするのでしょうか?
決して、バイヤーの仕事がなくなって「お気楽になる」わけではありません。むしろ、冒頭の表で示した無理筋な現状(数十~100店舗×数千SKUの管理)という、事実上実行不可能な、報われない毎日の連続から解放され、本来の「顧客ニーズに応えるバイイング業務」「サプライチェーンにおける商人の役割」に回帰できることを意味します。
具体的には主に以下の3つの仕事、「今日から将来にわたってお金を儲け続ける事」に仕える、本来の「仕事」への回帰とシフト(昇華)です。
① データの外側にしか無い「価値」の創出(バイイングへの回帰)
日々の、お金を生み出さない数値管理から解放されることで創出された時間で、商人の勘と経験と度胸とハッタリからしか生み出せない価値を創造します。
例えば、足で探したローカル商材の発掘で顧客ニーズに応える、世の中にないものはプライベートブランド(PB)として自ら作るなど、顧客と直接接点を持つ小売業ならではの「競争力」を創り出す「仕事」です(小売マーケティング)。
② 理屈では無い売り場の「熱狂」、買い物の「楽しさ」の創出(商人への回帰)
サプライチェーンというエコシステムにおける小売業の主たる役割、プロとしての矜持は「商い」にこそあります。
自社の売り場を利用する顧客と駆け引きし、喜ばせること。企画や催事、エンド陳列、POP等、「ドンと積んで、ガンと売る」本来の「商人」という「仕事」への回帰、その情熱に火をつけることこそが、勝利への必要条件です。
③ ジャッジメント(サプライチェーンの先頭でドラムを鳴らす、リーダーへのシフト)
企業理念や目指したいフォーマット、今期方針等、小売には小売の「エゴ」と「都合」があります。それらすべてがソースデータ(科学)の範疇に収まることは、絶対にあり得ません。
カテゴリーキャプテンから上がってきた計画(戦略)にせよ、取引先各社から上がってきた異常値(売上の急増や欠品リスク)の報告にせよ、その処遇を「ジャッジ」するのは、あくまでもその「エゴ」と「都合」を抱え、現に売り場を利用している顧客への「責任」を背負ったバイヤーです。
重点商品は、究極的には値入や物流といった、サプライチェーン全体に連動するものです。
だからこそ、マーケットの最前線に立つバイヤーには、そのチェーンの先頭で的確かつ勇猛果敢なドラムを打ち鳴らし、自身も含めたエコシステム全体の歩調を市場のニーズに合わせるという、「三方」に対する責任があります = 本質的サプライチェーン・マネジメント(SCM)。
製配販の協働とは、バイヤーからお金儲けという「仕事」を奪うものではありません。
むしろバイヤーを、お金を生まない「事務処理マシーン」から、本来の「仕事」 = 「バイイング」「商人」へと回帰、専念させるための手段であり、それがサプライチェーン全体の命運を握っているのです。
そしてそれらはすべて、製配販と、商談室に入れない顧客との調和「三方よし」のためなのです。
モノを運ぶプロダクトドリブンなSCMから、市場と調和するマーケットドリブンなSCMへ。
以上、製配販協働の技術と実務(サプライチェーン・マネジメントへの道)についてでした。