やりがいのない「忙しさ」を捨て、「商い」に調和を生む
商品利用において、顧客は商品を「併買(選択)」する存在です。
それはID-POSのレシート上に記録されます。
それと全く同様に、顧客は利用時間を「併買(選択)」する存在です。
それもID-POSのレシート上に記録されます。
商品も時間も、顧客にとっては「選択肢」なのです。
さて、小売業の業務において、販売、作業(レイバー)、在庫(物流)は、利益を構成する三要素であり、密接に関わるものです。
リードタイム分のズレがある為、その作業表上の時間帯には必ずズレが生じますが、各作業票を決める上で「起点」とする時間帯については、「一企業において一つ」であるべきでは無いか?というのが、本稿の基本的な考え方です。
それでは販売、作業(レイバー)、在庫(物流)は、何の時間帯を「起点」、すなわち作業開始を告げるドラムとすべきなのでしょうか?
サプライチェーン的、そしてマーケティング的に考えればそれは、源流である顧客の時間、顧客が「くらし」の中で選んでいる、選択肢としての時間帯です。
余談ながら、この表を書きながら、LSPにおいてRE値(Reasonable Expectancy:合理的期待値)の計測が容易で、スケジューリング負荷も少ない「15分単位」が設定に無いことに気づきました。ユーザー様からの「エンハンス目安箱」へのエンハンス要望の投稿をお待ちしております。
下図が分析結果の例です。
その範囲外との「非選択」が卓越、すなわち他の時間帯をほとんど利用していない閉じた時間の範囲が、図中の「目的範囲」です。
その範囲内での「選択」すなわち利用が平均以上に発生している時間の範囲が、図中の「選択範囲」です。
<図:時間帯ごとの併買(選択)の多さで、クラスタリングした結果>
各時間帯(選択肢)はその相互関連性の高さ(図中の「関連順」)に基づき並んでいるため、必ずしも綺麗な昇順/降順に並んではいません。
しかし、各範囲毎の最小値と最大値を取れば、一部例外はありつつも多くの場合、ほぼFrom〜Toで表すことのできる時間帯を形成している(図中で言えば、選択範囲=f1_n1の19:10〜20:09、f1_n2の20:10〜20:59等)ことが分かります。
この統計的事実から分かることは、「目的範囲」内の利用顧客は勿論、「選択範囲内」の利用顧客についても、ほぼ他の時間帯(目的範囲や選択範囲)を、利用していない/利用できないということです。
極端に言えば、各時間帯(目的範囲や選択範囲)の利用者は、確率的にそれぞれ「別人」だということです。
本分析対象の営業時間は、07:00〜22:30(分析画面上は07:10〜22:29の表記)です。
時間帯という言葉が頻繁に使われる上、帳票上も時間帯が入れ子になっておりややこしい為、以降では便宜上「目的範囲」の時間帯のことを「目的時間帯」、「選択範囲」の時間帯のことを「選択時間帯」、「選択肢」の時間帯のことを単に「時間帯」と表記させていただきます。
この帳票上の時間帯は、レシート上に印字された顧客のチェックアウト時刻というファクト(事実)に基づくものであり、顧客の入店 ⇨ 回遊の時刻とはズレがあります。
認知流暢性の為、本文では分析結果の時間帯をそのまま「ピーク時間帯」等と呼びますが、作業に応じて下表のようなズレがあることを、自明なものとして認知願います。
また、利益の三本柱の一つである「物流」に関しても、往々にしてリードタイムが時間帯のレベルを超える事から、これも認知流暢性の為、本稿での言及を控えさせていただきます。但し「『ピーク時間帯』に間に合わせる」という概念は、販売、作業と同様ですし、それに応じたバッファとリードタイムの設計が必要なことは言うまでもありません。
一方で図(再掲)の「目的時間帯f4」を見れば、開店時間直後と閉店時間間際の、全く異なる2つの「選択時間帯」が、一括りになっていることが分かります。
これは他から相対的に非併買(非選択)な、非常に特殊な2つの選択時間帯であるが故に、統計的には一括りと見做されてしまっていることを意味しています。
統計的にはある人間の集団(母集団)があった時に、0.01%に未たない集団を「特殊な集団(外れ値)」と見做しますので、それに該当する営業時間帯については、経済合理性に見合わないと判断することができます。
図中の「利用者率」を見れば、「選択時間帯f4_n6」の22:00〜22:29は、丸ごと経済合理性に適っていませんし、「選択時間帯f4_n5」にしても、その中の「時間帯」08:50〜08:59 以外は、経済合理性に適っていないこととなります。
ここから導き出される経済合理的な営業時間は「08:50〜22:00まで」※ということになります。
営業時間が変われば、レイバースケジューリングも、この分析結果(顧客の動き方)そのものも変化しますから、まずこれが、すべての時間管理の第一歩です。
※.実際そこまでの厳密性は不要ですので、「09:00〜22:00」で結構です。顧客は「併買」をする存在でもありますから、「08:50〜08:59」の利用者については、9時台を併買(利用)していただくことに期待しましょう(目的時間帯f4の利用者に「営業時間変更のおしらせクーポン」を出すというのも一つの手です)。
各選択時間帯中、最も多くの利用ID数を集めている時間帯には、「重点レコメンド」が振られています。
これは選択時間帯中のピーク時間帯であり、選択時間帯の利用者が、確率的に最も利用する時間帯です。
「目的時間帯」中のピークでもある時間帯に重点レコメンド1stが、「選択時間帯」中のピーク時間帯に重点レコメンド2ndが振られています。
先程の目的時間帯f4を無いものとするならば、今回の分析においては9つの目的時間帯と9つの1stレコメンド、12の選択時間帯と3の2ndレコメンド(トータルで12の重点レコメンド)が存在しています。
前述の通り、各選択時間帯の利用者がほぼ「別人」であると考えるならば、より多くの顧客に同じクオリティの顧客満足を提供するには、選択時間帯毎の売り場差異を、極力減らしたいものです(満足が「見切り」にある顧客もいらっしゃいますが)。
例えばLSPにおける生産部門においてこれを実現するには、この開始時間帯からピーク時間帯までを見越して生産もしくは仕越しを行っておき、そこまでのこの選択時間帯の累計販売点数から、この選択時間帯の生産予定総数を調整して行くというのが、確率的に言えばベストな方法です。
一方で、顧客が「選択時間帯」内で確率的に利用時間帯を選んでおり、「重点レコメンド」が、その中で最も利用確率の高い(利用しやすい)選択肢であるならば、「選択時間帯」内の利用を、極力ピーク時間帯に集約することができれば、計画上はこれほど楽なことはありません。
そのためには、顧客がその時間帯を能動的に選択することへの、販売面での「動機づけ」「来店動機」が必要であり、そのアイデアの一つが、タイムセールです。
やや奇抜なアイデアですが、例えば12の選択時間帯あるいは9の目的時間帯それぞれのピークにおける「30分タイムセール」※を明示的に実施すれば、顧客にはその時間帯への明確な「来店動機」が生まれます。
※.但し、現場に負荷がかからないような手法/時間帯数を採らなければ、LSP上の意図が本末転倒なものとなってしまいます。
他にこのようなことを真似る店、真似たとしても確率の高い12ないしは9の時間帯を知る店は限られるでしょう。
これは「その時間帯にしか利用できない」という状況に置かれた顧客に対して、「その時間帯に利用したい」という価値観、すなわち「状況 ✕ 価値観 = ニーズ」、あなたの店を敢えて選ぶ「来店動機」を与えるという副産物をもたらします。
このように、売り手のLSP上のエゴと、買い手のお得が欲しいというエゴ、2つのエゴの調和を図るのが、ID-POS = マーケティングの考え方です。
次の図は、列見出し「点単価」を(2回)クリックし、昇順にソートしたものです。
「マーケット計」すなわち平均の点単価が229.62円ですので、粗々ですが、これを下回る点単価の時間帯において、見切りが発生していると捉えることができます。
その範囲には、例によって目的時間帯f4を無いものとするならば、3つの1stレコメンドの時間帯と、1つの2ndレコメンドの時間帯が含まれています。
これを時間帯昇順で表にまとめると、以下のようになります。
この4つのピーク時間帯を利用して、生産物に応じた、または段階的(10%→30%→50%等)な見切りを実施して行くことで、ロスを効率的に減らすと共に、先のタイムセールに代わる「来店動機」を作り出して行くことができます(タイムセールを見切りタイムで代替すると、重点レコメンド1stのみとする場合、見切りタイムが3、タイムセールが6、2ndも含める場合、見切りタイムが4、タイムセールが8となります)。
誤解なきよう申し上げておきますが、9の目的時間帯、12の選択時間帯があるからと言って、LSPの作業時間帯を9〜12に「分けなければならない」訳でも、9〜12の重点時間帯(目的/選択時間帯毎のピーク)があるからと言って、毎日9〜12回のタイムセールを「やらなければならない」訳でもありません。
同じく見切り時間帯中に3〜4のピークがあるからと言って、見切りを3段階、4段階に「分けなければならない」訳でも無いのです。
『ニーズの見える化 』が提供しているのは、顧客の選択と、そのような選択をする顧客のID数(マーケットサイズ)という事実です。
また、本稿『ID-POSの技術と実務 』が提供しているのは、その事実を各種業務において、どのように使えるか?というガイドラインに過ぎません。
どうか「そんなことできるわけ無いじゃないか!机上の空論だよ!」などとおっしゃらずに、各社の状況と価値観に合わせて、商人のハックを助けるものとして、「うまいこと」ご利用ください。
以上、営業時間・LSP・見切りの技術と実務(顧客の「くらし」を起点とした時間管理)でした。