ID-POS分析の勘所

拡大解釈とマーケットサイズ

マーケティング政策における仮説とは、マーケットの 拡大解釈 にあります。
そもそもID-POS分析自体が「会員にとっての利用メリット = 非会員、未利用者にとっても利用メリット」と捉える拡大解釈に依拠しています。

それに対して期間、商品、店舗と言った全ての分析条件は、マーケット参加者の人数=マーケットサイズを規定します。
主たる目的が商品管理/成績管理にある POS分析とは異なり、ID-POS分析においては拡大解釈 に相応しいマーケット参加者数を確保するに留意する必要があります。

ここではこういったID-POS分析を行って行く際の勘所について記述します。

勘所=基本の考え方である為、省力化の為には「絶対に駄目」という訳ではありませんので、おおらかに捉えてみて下さい。

期間の指定

直近性

マーケットは生き物であり、常に前に進み続けています。
一年間の内に利用顧客の約10%が入れ替わりますし、90%の継続顧客にしても一年も経てば、子供の誕生/就職等、ライフステージは大きく前に進みます。構成単品カテゴリーによっては半数が入れ替わります。

部門やカテゴリーの売上数値があたかも毎年繰り返しの様相を見せていても、その中身については不可逆的に変化し続けています。

マーケットをキャッチアップし続けて行く為にも、(特に単品については)前年のデータを見る事に余り意味はありません。

極力直近で集計する事が今現在のマーケットを最も正確に理解する事に繋がります。


基本集計単位=13週

ID-POSデータは「私はこれが好き/これは好きじゃない」という、利用行動を介した顧客の素の意思表明です。

カテゴリー内であれば最低限、商品Aを2回買えば「Aが好きなのかもしれない」、商品Aを1回、商品Bを1回買えば「A、Bどちらでも良いのかもしれない」といった仮説が立てられますが、こういった利用行動を充分な数得る為には相応の利用期間が必要です。

とは言え期間を長く取れば取る程直近性が薄められて行く為、食品スーパー/ドラッグストアで基本となる集計単位は13週です。

基本は13週ですが、カテゴリーの回転と政策意図によっては集計期間を伸ばして行きます。
回転が極めて遅い為26週で集計してみる/ターゲット販促でターゲット人数を極力多く取りたい為39週で集計してみるといった具合です。

52週集計でも意味の有りそうな結果が得られないカテゴリーについては、無理にID-POS分析を適用する必要が無いカテゴリーとお考え下さい。


商品(分類/単品)の指定

◯◯マーケット の ◯◯ 部分の定義は売り手次第です(食品スーパーマーケットに衣料品部門を含むか否か/海産乾物マーケットに中華干しエビを含むか否か等)。

よって、商品の指定とはマーケットの定義そのものです。

また商品の集計単位を部門とするか、カテゴリーとするか、単品とするかは、顧客との接点をどの単位で持つ事を想定した政策なのかによります。

ex.1)フアレイアウト:顧客接点=集計単位=部門

ex.2)カテゴリークーポン:顧客接点=集計単位=カテゴリー

私たちが実際にコントロール可能なのは商品だけですので、ID-POS分析と言えども分析軸の基本は商品となります。

親となる商品分類を跨がない

クロスMDを目的とした同時併買の分析のように分類を跨ぐ事を前提とした場合を除き、カテゴリーの分析であれば部門を跨いでカテゴリーを指定しない、単品の分析であればカテゴリーを跨いで単品を指定しないで分析するのが基本となります。

既に売り手の感覚で売場レベル/ゴンドラレベルにセグメント済のマーケット同士は、買い手の感覚的にも相互が選択利用の対象とはなり難い為です。

その為親となる商品分類を跨がず分析した方が、仮説の精度がより高まります。


店舗の指定

分析というのは基本、標準政策実施の為に行いますので、標準政策実施単位毎に分析をします。
日配品、米等の分析の際にはエリアを考慮に入れる必要もあります。


「選択しようにも選択できない」店舗利用者を出さない

ID-POS分析では商品Aを買っていて商品Bを買っていない人が居れば、「商品Aと商品Bを選択していない」と見做します。しかし取り扱いの問題により「選択しようにも選択できない」店舗の利用者と、商品の組み合わせが出て来てしまいます。

顧客の意思表明を正確に受け止める為には棚割パターン別の店舗群毎に分析するというのが理想ですが、実際には標準化がままならず棚割パターン数 ≒ 店舗数のような小売業さんもあるでしょうから、省力化の為には最大パターン採用店舗群分析結果を、各パターンの店舗にも適用するというのが次善の策です。

商品の中にはそれ程売れていなくても、一部顧客にとっては来店動機、利用動機となっているような商品も多い為、少なくとも一度は最大パターン採用店舗群でそのような商品を炙り出し、他店での導入を検討する事は、来店機会に直結する為重要です。

最大パターン採用店舗が少ない/各パターンに適用するにはエリアやコンセプト面で乖離がある ような場合には、最頻パターンで分析した結果を、各パターンにも適用するといった手も考えられます

品揃えの差異が無視できる/そこまでの労力を掛ける事が難しいのであれば、省力化の為にも、マーケットサイズを矮小にし過ぎない為にも思い切って全店で集計してしまって下さい。

買い手には買い手の都合があるでしょうが、当然売り手にも売り手の都合があります。

BiZOOPeでは店舗コードをテキストファイルから読み込んで来る事もできます。詳しくはマニュアルのファイル読込仕様をご覧下さい。

ID数を重視する

POS分析では通常金額や粗利を重視しますが、商品レコードに記録されたID数という指標 = 顧客は「その商品だけ」を買っている訳ではありません。

全ての利用はすべからく「なるべく多くの顧客」に来店して頂く事から始まりますので、ID数を重視する事は自部門を越え、店全体の繁栄に通じます。

商品1の裏にはAさん1人分の店舗利用が、商品2の裏にはBさん、Cさん、Dさん3人分の店舗利用が紐付いています

カテゴリー内でも「その商品だけしか利用していない」非併買のID数が多い商品は、来店動機に直結している可能性がある為とりわけ重要です。

ID数は唯一生きた数値、数値改善の為にはその数値を上げてくれている人たちを「思う」必要のある根幹指標です。

最後に

厳密に厳密を期し過ぎてもキリがありません。

却ってマーケットを矮小にし過ぎる事で間違った判断を生み出したり、時間を掛けすぎる事でチャンスを逃すのが関の山です。

勘と経験と度胸とハッタリの拠り所とするに足る数値、ガイドラインの存在そのもの(誤解を恐れずに言えば多少間違っていようとも)が重要です。

以上、ID-POS分析の勘所でした。