” ニーズが見える ” ID-POS分析
ID-POS分析ってどんなものが出て来るのか?どんな役に立つのか?
実際に自身が業務で携わっているカテゴリーを例にしてくれないと、人間なかなかピンと来ないものですよね。
そこで、不定期に色々なカテゴリーをつまみ食いしながら、ID-POS分析結果の一例として、クラスター分析結果の5図表を例示してみたいと思います。
クラスター分析の結果は顧客の利用メリット認識を元とした商品セグメントであり顧客セグメントでもあります。
顧客政策だけで無く、商品政策をご利用、ご来店に繋げるのがID-POS分析であり、その意味ではマーケティングそのものです。
毎回文章構造はほぼそのままに、掲載する図表(図表クリックでダウンロード可能)を替えて連載して行くつもりですが、図表を開いて「自分だったらどうするか?」を想像しながらお読み頂ければ幸いです。
第十四回目は ドラッグストアを支える代表的24カテゴリーより、2ndレコメンド、採用順20位の 大人用紙おむつ(パンツタイプ) カテゴリーを取り上げます。
尚、主に業務に使う図表は「明細表」以降の図表となります。
集計には実データを用いていますが、見易さと提供元への配慮から、以下のような仕様で集計を行っています。
現状や、真実を反映している訳では無い点にご留意下さい。
また、勘違いされる方が居らっしゃいますが、サイバーリンクスでは市場データの販売は行っておりませんので悪しからずご了承願います。
利用メニュー:BiZOOPe の Tapir_MK(テンポラリーTapirにおいても利用可能なメニュー)
期間:2018年5月28日 〜 26週間
店舗:静岡地区の複数店舗
商品:デモデータのカテゴリーの一つから、PBを除いたID数トップ50商品(デンドログラムの見易さ重視)
表示:一部の列を追加/削除/非表示しています。
※.全く同じ商品で集計しても、期間や店舗によってマーケット参加者である顧客とその利用目的が変化しますので、
分析結果も異なります。(故に時宜に適した、各チェーン/地区等で固有の完全に差別化された政策立案が可能です。)
※.お客さまの分類体系をほぼそのまま利用した24カテゴリーである為、商品数が50を下回ってしまうケースがあります。
悪しからずご了承願います。
この表が全てのスタートです。
(表をクリックで開きます)
全ての商品間には「距離」=「顧客にとっての、商品を利用する事で得られるメリットの類似性」があります。
距離行列表は縦軸と横軸に同じ商品が、同じ順番で並んだクロス集計表で、中身の数字が商品相互の「距離」になります。
先頭行の商品と先頭列の商品は同一商品 = 同一利用メリットなので、距離=0 のように、自分自身との距離については0となっています。
距離は顧客による相対的利用行動の相違から算出されますが、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
業務への利用と言うよりは主にロジック、根拠を示す為の図表と言えます。
これ以降の図表はこれを業務に使えるよう、クラスター化したものになりますが、商品間の距離は実際三次元的なものですので、ブランドスイッチにおいて「この商品を最も脅かすライバル商品は何か?」を厳密に知りたいといったケースにおいては、この表が役立ちます。
前出の距離行列表をクラスター分析(クラスター = 塊を作る為の分析)にかけた結果で、カテゴリーにおける顧客の利用メリット認識を現します。
近い商品同士の組み合わせから順繰りにくっつけて行き、全商品が一つの塊になる迄これを繰り返します。
図表の各商品名の位置から、トーナメント表のような結合部迄の”高さ”が距離を表しています。
距離行列表中、最も遠い商品同士の距離と同じ高さで、デンドログラムを水平に切った際にできる塊(後述のseg_f)が、青と緑の線の交互で表現されています。
距離行列表中の商品間距離の平均と同じ高さで、デンドログラムを水平に切った際にできる塊(後述のseg_n)が、赤と黄の線の交互で表現されています。
デンドログラムが作られる過程で、商品が関連する順序に並びますので、図表の右から左、もしくは左から右の商品の並びが、後述する明細表の「並び順」になります。
距離行列表と同じく、主に「何故、そのようなセグメントが作られたのか?」のロジック、根拠を示す為の図表と言えます。
同じセグメント内の商品同士にどの程度の距離の違いがあるのかを目視したいと言った場合にも使えます。
(ご覧頂く相手に対して「ウケが良い」という話もありますw)
季節や時流で顧客の利用目的も移り変わって行きますので、デンドログラムの形も普遍ではありません。
その意味では形の変化=心の変化とも言え、後述の「採用順」「レコメンド」の算出にはこの形が大きく影響しています。
最も業務で使う最重要帳票です。
主要な項目について説明します。
(表をクリックで開きます)
【seg_f】
セグメントfar(遠い)の略で、デンドログラム上で青と緑の線の交互で表現されていた塊を表し、「別の塊との間でカニバリゼーションを起こさない」境界線=マーケット・セグメンテーションそのものとなります。
顧客にとっての大きな来店動機もしくは売場の利用目的別による顧客セグメントであり、商品セグメントとも言えます。
(但し顧客は併買を行う為、一人の顧客が複数セグメントに属す事は有り得ます。)
【seg_n】
セグメントnear(近い)の略で、デンドログラム上で赤と黄の線の交互で表現されていた塊を表し、この塊中の商品同士は「選択利用されている」「類似利用メリットである」「カニバリゼーションを起こすライバル商品である」と、様々な表現で解釈する事ができます。
顧客にとってより具体的な来店動機もしくは売場の利用目的による顧客セグメントであり、商品セグメントとも言えます。
(但し顧客は併買を行う為、一人の顧客が複数セグメントに属す事は有り得ます。)
【並び順】
クラスター分析の過程で生成される、ざっくりと「より数字が近いもの程、顧客にとっての利用メリットが近い/商品同士の関連性が高い」事を表す指標です。
【採用順】
デンドログラムをその最上部付近、2本の垂直線と交わる位置で水平に切ると、2つの塊(クラスター)が生まれます。
これは売場をデンドログラムの左と右、顧客にとって大きくかけ離れた2つの利用メリットの塊に分けた事を意味します。
それぞれの利用メリットを代表する(= ID数が最も多い)商品を一品づつを選抜し、これに1位、2位と順位を振ります。
これを「売場を3つの利用メリットに分けて」から、最終的には「売場を商品数に分けて」迄繰り返しながら順位を振って行ったのが採用順です。
より離れた利用メリットを代表するものから順に採用されて行くので、より多くの顧客にとって欠かす事の出来ないもの順、価値観に重複無く響く順となります。
【レコメンド】
各seg_fを代表する商品に一品づつに「1st」、各seg_nを代表する商品一品づつに「2nd」と振られます。
レコメンドがついた商品が、顧客、売場に必要とされる「最低品揃え」=最低限利用メリットの代替、吸収が可能な1商品と考えられます。
これらの算出ロジックについて詳しくはこちらをご覧ください。
【棚割り(プラノグラム)とフロアレイアウト/ゴンドラレイアウト】
利用メリットの存在に気づいてもらえなければ、そこに利用メリットは存在しないも同然です。
まずseg_fで大まかにゾーニングする事で、遠目に利用メリットが塊として目に飛び込んで来る「気づき易い」売場になります。
次いでseg_nでゾーニングする事で、棚前迄近づいた際に、自分の選択範囲が固まっている「選び易い」売場になります。
最後に並び順を参考に最終的な商品配置を整える事で、関連性が生まれ「あれもこれも」と手に取りやすい売場になります。
結果として「買い逃し ≒ 他店利用機会を削ぐ」売場になります。
本表を単品では無く、部門やカテゴリーと言った集計単位で作成した場合、同じように床割り(フロアレイアウトやゴンドラレイアウト)に用いる事ができます。
【単品クーポン】
マーケット・セグメンテーションの定義上、単品が所属するseg_fの顧客が、クーポンを喜んでもらえる可能性のある限界となる対象です。
メーカー予算に応じてseg_f、seg_n、単品いづれかの顧客セグメントにクーポンを発行する事により、顧客にとってはSPAMにならず利用メリットがあり、小売にとっては無駄なく来店が増え、メーカーは売上が増えブランドスイッチが狙える”三方よし”のクーポン政策になります。
個々の顧客の価値観はまちまちですので、ここを超えて大勢の顧客にクーポンを発行するよりも、同じような方法でなるべくバラエティーに富んだ(別セグメントの)クーポンを発行する事が、より多くの人の来店頻度を効率的に高める事に繋がります。
【商品カット/品揃え絞り込み/全店品揃え】
採用順が下位且つレコメンドが立っていないものの中から差し支え無さそうなものをカットして行きます。
来店動機は「他店では得られない利用メリット」(最も強力なのは”近さ”)に起因しており、その一部は「他店では売っていない商品」に起因しています。
何故他店では売っていないのか?と問われれば、それはしばしば「売れていない」からです。
ID-POS分析では商品単体が売れているか/いないかよりも、その商品を来店動機としているかもしれない顧客の一群から、来店動機そのものを奪ってしまう事を恐れます。
最低限レコメンド=1st〜2ndの商品は、余程の支障が無い限りカットせず、最低品揃えとして全店扱いした方が良いと考えられます。
【チラシ/エンド陳列】
採用順上位で、レコメンドがついた商品をチラシ/エンドに採用してあげれば、店舗/売場に自分にとっての利用メリットが存在する事を、幅広い顧客に、重複無く明示、気づきを与える事が可能です。
また、チラシ採用商品だけでクラスター分析にかければ、棚割と同じ寸法で効果的な紙面配置を行う事ができます。
この時、おおよそseg_fがライフスタイルを伝える紙面キャッチの単位となります。
seg_fのサマリ結果です。
(表をクリックで開きます)
seg_fは、顧客にとって利用メリット認識がかけ離れている商品セグメント/価値観の異なる顧客セグメント(またはその時々の顧客の利用目的の違い)を表しています。その為 ー
一方のマーケット分野における価格変化が、他方のマーケット分野における価格変化を誘導しない場合、この二つのマーケット分野は互いにセグメンテーションされている。
マーケティングとは、新しい策を打ち出す事ではなく、マーケット・セグメンテーションのメリットを活かすことにある。
というゴールドラットの定義に基づけば、この表は正にマーケット・セグメンテーション表、マーケティング戦略表と言えます。
地味な割に重要な表です。
【新商品の開発/投入】
マーケティングにおいて最も強力な打ち手の一つは「マーケット創造」です。
明細表と見比べながら、seg_fの行間を読み、ここに存在しない/存在しても良い利用メリットは無いか?を考えます。
既存のマーケットセグメントに新商品を投入する際には、SKU数の多いレッドオーシャンのマーケットについては、追加では無く入れ替えによる売場の鮮度維持という考え方になります。
商品の追加であれば、マーケットサイズ(ID数)に対して商品数の少ないセグメントを狙って行くのが得策です。
商品の入れ替え、追加はマーケット創造の可能性だけで無く、「面白みのある売場」という顧客にとっての来店動機を生み出す事にも通じます(”新商品探し”のような利用メリットを求める顧客も居ます)。
【マーケット/売場理解】
年代構成比を添える事で、各マーケット・セグメントの顧客が持つ価値観、求める利用メリットへの理解を深め、売場全体への理解を助けます。POP作成等で役に立つ事でしょう。
間違ってはいけないのは年代毎の政策立案では無く、あくまでもマーケット・セグメント毎の政策立案でなくてはならないという点です。(20代の支持が厚い商品の60代の利用者率が0%となる事も、その逆もほぼありません。何を利用メリットと思うか?は人それぞれです。)
中でもランチェスターの弱者の戦略よろしく、どのマーケット・セグメントにおいて圧倒的No.1になるのか?を決め、徹底的に理解する事が重要です。
seg_nのサマリ結果です。
(表をクリックで開きます)
顧客はそれぞれのseg_nを"異なる利用メリット"として認識していますが、seg_f間の場合と異なり、同一seg_f内にあれば、一方のマーケット分野(例えばf1_n1)における政策変化が、他方のマーケット分野(例えばf1_n2)における利用の変化を誘導する程度には”近い”セグメントです。
同一seg_n内の商品同士は通常カニバリゼーションの関係にあり、類似利用メリット、代替可能品と見做されます。
ところがカテゴリーに登録された品種が、一つのマーケットとして捉えるには広範に渡っており、特にその回転も遅いようなケースにおいては、seg_n内の商品同士が必ずしも同一利用メリットとはならず、同一の価値観を持った顧客群にとっての主たる利用目的、買い回りの範囲のように解釈される結果となる為、留意が必要です(例えば「和風調味」カテゴリーで、砂糖と醤油が同一seg_n内に分類されるといったケースがありますが、砂糖と醤油が代替可能であるという事はあり得ません。このような場合、「砂糖または醤油をその売場の主たる利用目的としている顧客群が居る」と解釈されます)。
【品揃え検討】
seg_nに所属する商品の数は、同一利用メリット内で利用者に対してどこまでの選択肢、バラエティーを提供するか?を表します。
利用メリット(seg_n)毎最低限1商品を基本に、マーケットサイズ(ID数)に応じた選択肢をバランスよく備える事が重要です。
同じ売場であっても、その時々(気分やイベント、ライフステージ)で顧客の利用目的は変わります。
その為、顧客の一部はセグメント間の併買も行います。
例示されている図表群のID数を合計すると合計行の値を上回るのはその為ですが、腑に落ちない方は併せて「ID-POSの基本指標:ID数と客数(ID回数)」をご覧ください。