売り場利用者の ”ニーズが見える” ID-POS分析
「スーパーの生鮮三品に対して、ID-POS分析はPOS分析よりも有効か?」
という質問をよく頂きます。
「有効です」と答えるのは簡単ですが、決してバラ色なだけでは無い部分迄含め、短い言葉で真実はなかなかお伝えし切れない為、シン・Tapir-1.0※で、雑ながらも段取りだけは踏みつつ、実際に分析して行く過程をご覧に入れます。
POS分析よりも有効そうかどうか? は一連の流れからご判断下さい。
「どの部門/中分類/小分類/単品を重点とすれば、店や売り場の利用が増えるのか?」という重点戦略の観点だけに絞って(それでも長くて恐縮ですが)、分析して行きます。
ID-POSを征する者がマーケットを征します
※.BiZOOPeの分析メニュー、シン・Tapir-1.0のエンハンスリリース予定日が2025/7/1(火)に決定。
分析対象とする生鮮部門を決めすがら、まずは スーパーマーケットのマーケット構造を概観する事で、市場認識を深め、重点戦略の在り方について考えて行きましょう。
「スーパーな市場」という業態名の初心に立ち返り、本章に限っては各部門をお店に見立て、お店が軒を連ねた市場(いちば)をそぞろ歩くようなイメージでデータを見て行きます。
表は、来場者によるお店相互の選択状況を可視化したものです。
目的範囲は、f1内や、f2内からお店を選択している人に比べて、f1-f2間からお店を選択している人が少ない※1事、すなわち来場目的 (市場へのニーズ)が大きく2つある事を示しています。
f1-f2間でお店を利用する人がいない訳ではありませんので、例えばf1内のお店を主たる来場目的としている人にとっては、f1内のお店がよく利用する主力/準主力的存在、f2内のお店がついでに利用する品揃え的な存在です(その逆についても同様です)※2。
※1.ニーズが無く選択していないか、異なるニーズである為選択では無く、併せて利用している人が多い。
※2.そのお店が来場者にとっての主たる来場目的であるかどうかと、お店の利用者数の多寡は無関係です。
目的範囲配下の選択範囲についても、「範囲内で選択している人が平均以上に多い」とニーズの解像度が上がるだけで、考え方については目的範囲と同様です。
例えば洋日配屋さんと野菜屋さんという選択肢の組み合わせは、来場者によって顕著に選択されているニーズの一つであり、単純に言って次のような事を意味します。
・洋日配屋さんの利用者数が増えれば、その中で野菜屋さんを選択する利用者数も増える
・洋日配屋さんでセールを開催した時に、それが刺さる人の割合は、他店比で野菜屋さん利用者が最も多い
・野菜屋さんでセールをするよりも、利用者数の多い洋日配屋さんでセールをした方が、トータルのセール利用者数は多くなる
口を開けて待っているお店が軒を連ねた市場にとって、最重要事項は来場者数です。
来場促進の為「1DAYセールを2店舗で開催する」とした時に、市場としては「不人気店」2店舗よりも「人気店」2店舗でセールを開催したいと考えるのが自然でしょう。
これが何を”重点”と見るか?という考え方です。
このストーリーに則れば1DAYセールは、人気No.1、2の洋日配屋さんと食品屋さんの2店舗で開催されます。
これを来場者の視点から見れば、来場目的がf1の人にとっては、来場目的である確率の高い「主力/準主力的」2店舗のセールが同日開催される一方で、来場目的がf2の人にとっては、来場目的である確率の低い「品揃え的」2店舗でのセール開催となります。
市場視点の「人気No.1」は利用者数No.1の洋日配屋さん1店舗ですが、来場者視点の「人気No.1」は大まかに見ても、来場目的f1の「人気No.1」洋日配屋さんと、来場目的f2の「人気No.1」デリカ屋さんの2店舗が存在します※1。
であるならば、1DAYセールは洋日配屋さんとデリカ屋さんで開催するのがベターだという事です。
そこで表では、大きなニーズである各目的範囲の人気No.1に最重点の1st、より顕著なニーズである各選択範囲の人気No.1に重点の2ndというレコメンドを振っています。
POS分析と比較し、「選択を見越した来場目的のカバー※2」及びそれによる「来場者数増」を意図している点が、ID-POS分析による重点戦略の違いです。
※1.人気No.1は究極お店の数だけ存在しますが、それでは「重点は無い」事になってしまいます。
※2.各範囲の最多利用人数を重点とする事で、全体のカバー確率が上がります。
さて、ここからは話と比喩をスーパーマーケットの生鮮三品に戻しましょう。
先の表で重点レコメンドが付いた生鮮三品は畜産の2ndだけで、1stの最重点部門はありませんでした。
「生鮮三品へのニーズってその程度※なの!? 日本人の魚離れ? 店舗や県によってはニーズが高い所もあるのでは?」
と思いつつ、店舗毎や県毎に分けて分析するのは面倒だったので、ざっくり海あり県と海なし県の2つで分析してみました。
※.ニーズ = 人気 = 利用者数が他部門より低くても、売上/粗利の高さでPOS分析的には ”重点” となりますが、それが ”盲点” となっているような気がしてなりません。人口減少の中 ”人気のスーパー” であり続ける為の ”重点” は、やはりニーズ = 人気 = 利用者数では無いでしょうか?
目的範囲f2については、県を分ける前と同じ傾向でした。
目的範囲f1内では畜産に入れ替わり、和日配が独自のニーズ※を占めています。
これにより生鮮三品から重点レコメンドされる部門は無くなりました。
※.地域特性は勿論、競合要因(畜産人気で劣っている/和日配人気で勝っている)がこのようなニーズの違いに現れる場合もあります。
ここまで一貫して目的範囲f2の最重点部門だったデリカが、海なし県では目的範囲f1内の「畜産かデリカ」というニーズに変わり、重点部門ですら無くなりました。
これによって水産が、目的範囲f2を支える最重点部門1stに一気に躍り出ています。
畜産もデリカ超えの2ndレコメンドに返り咲いている事から、海なし県の方がより生鮮指向である事が伺えます(デリカの利用者率も海あり県より高い事から、より ”スーパーマーケット指向” 或いは ”このチェーン指向” (であれば海あり県は?)なのかもしれません)。
【ポイント】エリアによって顧客の売り場へのニーズは、最重点部門レベルで変わる。⇨ 標準化戦略はマーケット構造が似たもの同士で。※
海あり県/海無し県のように、対象マーケットを定義(期間、店舗、商品)し、マーケットにおける自部門の位置付けを理解しておく。
ここまでが分析の前段階です。
以降では採用順2位の水産を、海無し県における最重点部門の一つと位置づけ、分析を進めて行きます。
※.店長会議に自店の分析結果を持ち寄ってもらい、お互いの差異要因について議論するのも面白いかもしれません。
基本的な表の理解や、重点戦略の考え方についてはこれまで同様です。
季節性と政策実施迄のリードタイムの長さから、マーケット変化の最前線である直近データに頼りにくい※1点が第一の問題点です。
その一方でノンPLUコードの使いまわしによって、サマリレベルが単品に近づけば近づく程 & 分析するデータが過去になればなる程、過去データが当てにならない※2※3点が第二の問題点です。
政策リードタイム次第ですが、単純化の為に割り切るならば、分類は前年データ、単品は直近データで分析、予想して行きます。
但し分類は直近データでも分析しておき、それをEXCELで残しておけば、ノンPLUコードの使いまわしの影響を受けない固化した状態で、翌年以降の政策に役立たせる事ができます。
何にせよ「拠り所が何も無い」事に較べれば、有用な筈です。
※1.ID-POS分析の基本はあくまでも最新のマーケット状況を分析する事にあります。前年データは通常販促時に、季節性によってハネる(レコメンドが変わる)分類を知る目的で使います。
※2.単品実績を、商品コードがキー項目である商品マスタに従って、動的に積み上げる為です。
※3.商品改廃が激しい為、PLUについても単品は直近で分析する必要があります。
水産売場の利用目的を代表する「塩干魚」、「冷凍魚」が売り場を支える二本柱となる最重点中分類です。
選択範囲を代表する2ndレコメンドの「貝類」、「魚惣菜」が、柱を更に支える重点中分類です。
2ndレコメンド迄の採用順累計ID数がマーケット計に届かなかった場合、それがマーケット計に届く中分類迄3rdレコメンドが振られます。
3rdレコメンドの「珍味・海藻」は、水産マーケットへのニーズをカバーする為の最低必要中分類です。
戦略的には最低限、1stレコメンドの2つの中分類を強化します。
以降では、採用順1位の「塩干魚」を強化すべく、更にその中で重点となる具体的な小分類を探して行きますが、ノンPLUの使いまわしによる影響が、分析結果を信頼できないレベルに迄及ぶ場合、「塩干魚、冷凍魚で地域No.1になる!」という戦略方針に留めておくか、直近データでこの先の分析を進めて行きます※。
※.季節性と言いますが、必要性の観点から通年流通しているもの程重点化し易い傾向にあります。派手さはありませんが、そういった商材を大事にし続ける事が、日頃からの顧客接点強化に繋がるのかもしれません。
塩干魚売場の利用目的を代表する「ちりめん」、「鮭(鱒)」が売り場を支える二本柱となる最重点小分類です。
選択範囲を代表する2ndレコメンドの「開干し」が、柱を更に支える重点小分類です。
戦略的には最低限、1stレコメンドの2つの小分類を強化します。
以降では、採用順1位の「ちりめん」を強化すべく、更にその中で重点となる具体的な単品を直近データから探して行きますが、季節性の影響が、直近の分析結果を信頼できないレベルに迄及ぶ場合、「ちりめん、鮭(鱒)で地域No.1になる!」という戦略方針に留めておきます。
ちりめん売場の利用目的を代表する「しらす干し」、「フレッシュ釜揚げしらす」が売り場を支える二本柱となる最重点単品です。
戦略的には最低限「しらす干し」、「フレッシュ釜揚げしらす」の二品を地域で一番安心、安全、お得で新鮮に提供する事が、何よりもちりめん売り場の利用増に繋がり、ひいては塩干売り場>水産売場>店舗の利用増にも繋がって行くというのが、重点戦略の大枠です。
採用順1位は勿論競合他社に一歩も退けない最重点単品ですが、利用者数1位である以上、当然のように仕入れに勝る大手と競合し、大きく差別化する事が難しいケースも多くなって来ます。
その際に、必ずしも利用者数だけに依らない採用順2位以降の1stレコメンドや、2ndレコメンドの単品の強化が全体としての差別化の、下支えとなってくれます※。
※.1stレコメンドについてはなるべく全てを重点として扱うべきですが、2ndレコメンド以降については形だけの重点扱いは却って害悪ですので「何単品迄の重点扱いを徹底できるか?」に則って設定して頂ければ良いと考えます。それが4単品であるのならば、採用順4位迄を重点として扱います。
ここまでの分析では、レコメンド1stの最重点部門、最重点中分類、最重点小分類、最重点単品がそれぞれ(たまたまですが)2つづつ出て来ました。
今回追わなかった採用順1位の部門、採用順2位側の中分類、小分類、単品においても同様だったとするならば、売り場全体から 2最重点部門✕2最重点中分類✕2最重点小分類✕2最重点単品 = 16の最重点単品が分かるという事になります。
「最低限の16単品をどこよりも徹底する事で、店の利用を大きく動かす」それが、ID-POSによる重点戦略のテコの力です。
実際には各部門にバイヤーやチーフが居り、「部門に限っては全てが重点」のようなものですから、最低限12部門✕2最重点中分類✕2最重点小分類✕2最重点単品 のざっと96単品が、市場でテコの力の猛威を振るう事となります。
しかもこれは重点戦略という、ID-POSマーケティングの一側面に過ぎません。
ID-POSを征する者がマーケットを征します
めちゃくちゃ楽しみじゃありませんか!?