お客様のニーズが見える ID-POS分析
9月または10月の月次エンハンスにて、「シン・商品併買」と「顧客セグメント×顧客セグメント」の2つの新メニューをリリースする予定です。
前回の「シン・商品併買」のご紹介に引き続き、今回は「顧客セグメント×顧客セグメント」をご紹介いたします。
「顧客セグメント×顧客セグメント」は、優良顧客、顧客選別、顧客育成といった、最近とみに増えて来た検索ワード、優良顧客=顧客満足のような、流通事業者の考え方への、アンチテーゼとして開発しました。
顧客セグメント✕顧客セグメント画面例(顧客ランク✕年代)。画面中の「ロイヤル」が、文中の優良顧客。
あなたが「優良」と呼ぶ顧客が、どのような状況に置かれ、どのような価値観を持った顧客なのか?
「優良」と呼ばない顧客が、どのような状況に置かれ、どのような価値観を持った顧客なのか?
その状況と価値観に、今一度思いを寄せて頂く事を目的とした分析メニューです。
以降、はじめは概念の話をし、最後の二章でその実態を、データから御覧頂きます。
RFMであれデシルであれ、優良顧客とは、売り手の都合に適った顧客、つまりあなたのお店に多くのお金を落としている顧客です。
一方、優良でない顧客とは、売り手の都合に適わない顧客、多くは他店にお金を落としている顧客です。
自店の非優良顧客は、他店の優良顧客。
他店の優良顧客の視点から見れば、あなたのお店は買い手の都合に適わないお店※です。
あなたに選別される以前に、あなたのお店は顧客に選別されています。
その結果を、売り手視点から一方的に解釈したものが、顧客ランクです。
※.買い手の都合には「家から近い」といったニーズも含まれますので、その全てに応える事はできません。但し、カード会員には「カードを作った」という事実があります。
人口減少の中、自店の利用を取り戻し、他店の利用を奪取すべく、主に「優良で無い顧客をランクアップさせよう」とする試みが、「顧客育成」と言われています。
「顧客育成」とは、買い手の都合を、売り手の都合に従わせようとする試みです。
「この売り場(のまま)で、もっと買い物して下さい」=顧客の成長という論理です。
顧客育成 = 顧客の成長?
これに対し、「ニーズに応える」とは、売り手の都合を、買い手の都合に従わせようとする試みです。
「もっと買い物してもらえるよう、私たちと、売り場が変わります」=お店の成長という論理です。
ニーズに応える = お店の成長。
論理破綻している論理は、実現不可能です。
簡単に言えば、競合に勝つ為には、小手先で顧客を動かすのでは無く、あなたが動かねばなりません。
戦略的にマーケットを絞り込むことは、経営において非常に重要ですが、残念ながら「優良顧客マーケット」などという売り手に都合の良いマーケットは、この世に存在しません。
マーケットとは顧客だけで構成されるものでは無く、商品✕顧客の組み合わせだからです。
顧客の絞り込み ≠ マーケットの絞り込み。
あなたのお店に欲しい商品が無ければ、当の顧客は、各々の「買い手の都合」に従い、勝手にお店の選別を始めます。
あなたのお店の品揃えに枠はあっても、顧客の望む品揃えに枠は無いのです。
その為、顧客選別は、マーケットの絞り込み戦略にはあたりません。
もしかしたら「優良顧客は、我が店で満足している顧客」という慢心が、そういった「顧客選別」の思想に繋がるのかも知れませんが、優良顧客=顧客満足という図式も成り立ちません。
優良顧客は、なりたくてなるものではないからです。
たとえば、二人の子育て中の夫婦は、合計4つの胃袋を抱えているため、購入量が多くなります。
子供が高校生ともなれば、尚更でしょう。
結果として、彼らは「優良たらざるを得ない」状況に置かれています。
世帯人数が多ければ、出費が多いのはやむを得ない。
商品面での妥協はあっても、移動面での妥協は少ない?
彼らがあなたのお店で買い物をする理由は、必ずしも満足しているからとは限りません。
「食費を節約したい」「通勤帰路で買い物を済ませたい」といった切実な理由から、あなたのお店で妥協しているのかもしれません。
この場合、状況が変われば※、彼らは勝手に未利用化します。その逆に、勝手に優良顧客になる顧客も居ます。
※.例として、より食費が節約できるお店や、通勤帰路に左折入庫で入れるお店ができたり、転職で可処分所得が増えたり、通勤経路が変わったりもします。
一方、二人の子が巣立った夫婦は、可処分所得は増えても、胃袋は2つしかありません。
購入量は自然と減るため、彼らは「優良たり得ない」状況に置かれています。
彼らを「もっと買うように育成する」という考え方は無意味です(自然に、もっと買わなくなって行きます)。
世帯人数が少なければ、出費が少ないのはやむを得ない。
商品面での妥協は少なくとも、移動面での妥協が生まれ始める?
一方で、彼らは以前のように妥協せず、「ちょっといいもの」を求めて、お店をスイッチするかもしれません。
逆に彼らの考える「ちょっといいもの」を、あなたのお店が品揃えしていたならば、彼らは優良では無くとも、あなたのお店に満足しているのかもしれません。
このように顧客は、自らを取り巻く状況に翻弄され、価値観の変化と共に、勝手に変わって行きます。
状況と価値観、すなわちニーズが異なる為、前者は後者が、後者は前者が、絶対に選択しないようなものも選択します。
顧客生涯価値(ライフタイムバリュー:LTV)という言葉がありますが、「優良足らざるを得ない」状況にも、「優良たり得ない」状況にも、陰日向無く真摯に向き合えばこそ、ライフサイクルを通じてご愛顧いただけるお店になれるのかもしれません。
以降の表は「顧客セグメント ✕ 顧客セグメント」を、縦軸=顧客ランク※、横軸=年代で出力した、ドラッグストアのデータ例です。
基本の見方としては、合計欄の年代構成比に対する、顧客ランク毎の年代構成比の大小を較べて行きます。
※.顧客ランク設定の詳細についてはこちらを御覧ください。
優良顧客を指すロイヤル顧客の年代構成比が、合計の年代構成比を上回っているのが、20代〜50代です。特に30代、40代では、ロイヤル顧客の年代構成比が、合計の年代構成比を約5%上回っていますから、「ロイヤルたらざるを得ない」状況に置かれている方々が、多い年代だという事が分かります。
60代以降では、プロスペクティブ(将来性)という顧客ランクの年代構成比が高くなりますが、若い年代ならまだしも、この年代で将来性を期待されるのは、キツイものがあります。このような方々が「ロイヤルたり得ない」人たちです。
各年代中の最大構成比を追って行けば、それが平均的な顧客のライフサイクルのイメージです。とは言え、状況の変化により、生涯を通じて利用を全うする顧客というのは稀です。
ロイヤル顧客の多い「20代〜50代の子育て家族に徹底的に寄り添う」事は、一つの幹となり得る戦略仮説ですが、忘れてはならないのは、ロイヤル顧客にも単身世帯はおり、プロスペクティブ顧客にも家族世帯はいるという視点です。
また、部活帰りにアイスやリップを買ってくれる20歳未満、養命酒を欠かさず買いに来てくれる70歳以上等、満足して利用してくれている人たち、それも「ロイヤルたり得ない」人たちを、無碍にして良いのか?という視点です。
優良たり得ない人々。買い手は満足、でも売り手は不満?
顧客ランクは、「売り手の都合」という単純明快さ故に、どうしてもこういった視点を曇らせ勝ちですが、年代と組み合わせる事で、あなたのお店を利用する顧客の生活史、消費史に、思いを馳せて頂く事ができます。
顧客ランクの恣意性を排除する為に、顧客をお店の利用実態から、8つのペルソナに類型化したものが、顧客PFV※です。PFVはPurchase Feature Value(購買特徴量)の略になります。
以降の表では、各々異なる顧客を、8PFV ✕ 7年代 の、56のペルソナとして捉えています。
※.顧客PFV設定の詳細についてはこちらを御覧ください。
ざっくりとですが ー
「週3来店7点利用」顧客や「週1来店6点利用」顧客は、「きっと近隣にお住まいで、コンビニエンスにご利用頂いているんだろうなぁ」と想起されます。
「週1来店12点利用」顧客や「月2来店22点利用」顧客は、「頻度買い/まとめ買いの好みの違いはあれど、多分家族世帯なんだろうなぁ」と想起されます。
「月1来店5点利用単価2倍」顧客や「月1来店3点利用単価5倍」顧客は、「ドラッグストアを、あくまで薬粧店としてご利用頂いているんだろうなぁ」と想起されます。
56のセルの一つ一つが、異なる状況に置かれ、異なる価値観を持ったペルソナの存在を示しています。
何が優良で、何が非優良という訳ではありません。
あなたのお店の顧客は、例え年代は同じでも、置かれた状況も、価値観も異なる、一人ひとり別な人間だというだけです。
「顧客選別」の観点では、30代〜60代の多くのセルで構成比が10%を超えており、その他でも、殆どの構成比が1%以上を占めているというのが実態です。
「顧客育成」の観点では、遠方にお住まいの方や、仕事の都合でまとめ買いしかできない方を「週3来店するように育てる」事は困難でしょうし、単身世帯の方や、まとめ買いを好まない方を「22点カゴに入れるように育てる」事も困難でしょう。
この表から来店頻度の低い高齢者を抽出し、その居住地を出店に活かすといった「技術」が生まれる可能性はあります。
しかし、小売業務の技術と精神で言えば、この表が重きを置いているのは「精神」であり、一つ一つのセルの顧客が置かれた状況と価値観に、思いを寄せて頂く事=顧客理解こそが目的です。
「顧客セグメント✕顧客セグメント」はこのように、顧客年代、顧客ランク、顧客PFVの3つの顧客セグメントから、任意の2つを選択し、クロス集計表として出力する分析メニューです。
以上、新メニュー「顧客セグメント✕顧客セグメント」のご紹介でした。