” ニーズが見える ” ID-POS分析
サンプルとなる個人を選抜するにあたり「誰にしたものか?」と思いましたが、たまたま前回書いた 来店動機商品徒然草 でカット商品の愛用者として「サムライエッジ替刃な人」、「リステリンオリジナルな人」の二名が出て来ましたので、この二名にお出まし願おうと思います。
「サムライエッジ替刃な人」、「リステリンオリジナルな人」の一年間の利用行動を見てみます。
「サムライエッジ替刃な人」は一度の買い物で平均して4点、1,413円の買い物をしており、年間51回来店する事で72,083円を店に落としています。年間利用カテゴリー数は25カテゴリーで内2回以上利用しているのが15カテゴリー(60%)です。
「リステリンオリジナルな人」は一度の買い物で平均して4点、1,171円の買い物をしており、年間68回来店する事で79,628円を店に落としています。年間利用カテゴリー数は21カテゴリーで内2回以上利用しているのが15カテゴリー(71%)です。
以下はいづれも「接点がある」カテゴリーですので、確率論的にざっくり言ってしまえば、どのカテゴリーのクーポンを出しても構いません。
その上でわざわざ「来店動機」を探るのは「より深い接点」にクーポンを出す事で、関係をより強固なものとする為です。
個々の顧客では、来店期間も世帯人数も商圏距離も来店手段も異なります。
よって ー
1)「来店動機」か否かは他者との比較では無く、各個人の中で計られるべきです。
各指標の個人の平均値と標準偏差を利用する事にします。
2)同じ「必要」でもまとめ買いする人/モノと、頻度高く買いに来る人/モノがあります。
客点数、ID回数(頻度)を別個に扱わず、客点数✕ID回数 = ID点数として評価すべきです。
3)一般的に「来店動機」ではあっても、点単価の高いカテゴリーのID点数(年間必要点数)は自ずと低くなります。
反比例に近い関係にある点単価を取り込んだ、点単価✕ID点数=ID金額(年間投下金額)が「来店動機」として使えそうです。
やや恣意的にサムライエッジ替刃=カミソリカテゴリー、リステリンオリジナル=オーラルケアカテゴリーが「来店動機」に入る前提で数字を見て行くと、ID金額 ≧ 平均 が「お財布から店への年間支出の半分以上を占める」という経済的観点からも「来店動機」と見做せそうです。
言ってしまえば「個人にとっての売れ筋商品」です。
「サムライエッジ替刃な人」で6カテゴリー、「リステリンオリジナルな人」で8カテゴリーがこの「来店動機」の定義に合致しますので、売り手側の都合ではありますが、リスクヘッジの為にもう少し絞り込んでも良さそうです。
【客点数】
客点数<1のカテゴリーは返品絡みですので、「来店動機」に該当するものがそれしか無い場合を除き、避けた方が良いかもしれません。
【ID回数(頻度)】
ID回数<2のリピートが無いカテゴリーは「買ってみたががっかりした」可能性や、本当に年一回以下の必要頻度しか無いものである可能性がある為、「来店動機」に該当するものがそれしか無い場合を除き、避けた方が良いかもしれません。
以上をまとめると
来店動機 = ID金額 ≧ 平均 ∧ 客点数 ≧ 1 ∧ ID回数≧2
となります。
カテゴリーと同じ考え方を商品にも適用してみると以下のようになります。
「サムライエッジ替刃な人」は年間利用63SKUで内2回以上利用しているのが13SKU(21%)です。来店動機商品は9SKU、リスクヘッジをすれば8SKUとなります。
「リステリンオリジナルな人」は年間利用283SKUで内2回以上利用しているのが31SKU(11%)です。来店動機商品は18SKU、リスクヘッジをすれば11SKUとなります。
図の商品を見ると、ID回数=1は確かに「来店動機」からは外しても良さそうに見えます。
「リステリンオリジナルな人」の「ティッシュ5P」の3SKUについては利用メリットが重複しています。
「アセスL」は一回買って「アセス」に戻っていました。
悪意は無いのでしょうが、一度買って返品し、容量違いやテイスト違いに買い直すといった利用行動や、純然たる返品行動をしばしば見せており、それが客点数<1に結びついています。
【カテゴリークーポン】
・「オーラルケア」等カテゴリー名は往々にして顧客には伝わりません。
・一般にカテゴリークーポンは小売業の「持ち出し」が必要となります。
【単品クーポン】
・「同一カテゴリーからは一商品しか選ばない」等利用メリット重複に配慮する必要があります。
・単品の容量違いやテイスト違いは誤認を引き起こす可能性がある為、アイテムクーポンが望ましいのかもしれません。
・来店動機商品は個々人で異なる為、予め協賛を依頼する事は困難です。
【共通】
・返品時のポイント等インセンティブの扱いについて考慮する必要があります。
・そもそも売り手側が商品/カテゴリーを決めている商品キーの政策に、このように膨大な計算は必要ありません。
単にその商品/カテゴリーを「買った事のある」或いは「2回以上買った事のある」顧客にクーポンを出せば良いだけです。
本稿が机上の空論とならないのは、小売業が「持ち出し」で顧客毎にカスタマイズされた「カテゴリー/SKU制約の無い」クーポンを出すような特殊ケースのみと現状では考えられます。
よって面白くはありますが、余程の発想の転換が無い限り、本稿は机上の空論と言えます。
つまるところ我々の政策は 1:多 の商品キーの政策であり、直接的には商品(売り物)しかコントロールできないのです。