ID-POS意思決定支援クラウドサービスBiZOOPe
【実証実験報告】
買っていない人に買わせたい!カテゴリークーポン

【MD】ドライグロサリー定番棚割 平均1%の売上増
      ドライグロサリーで売上高を変えずに10%の商品をカット

【販促】チラシ商品利用者数 実施前比 140〜170%
    seg_fの顧客への単品クーポンヒット率 5%以上。利用者の来店回数0.3〜0.4回/月増

今までもTapir_MKこのような実証実験成果を挙げて来ているのですが、企業秘密に当たる為、迫力不足ながらこれからのID-POS活用を真剣に考えてみよう! 等の中で一般論として取り挙げるに留めて来ました。

今回はBiZOOPeユーザーさまからのご厚意で面白い実証実験報告を頂きましたので、相変わらずボカしてではありますが公開させて頂きます。

今後も各社さまからこのような報告が頂けるのであれば【実証実験報告】シリーズとして掲載して行きたいなと夢見ていますw

マーケティングの基本は「喜ぶ人に喜ぶ事をする」「嫌がる人に嫌がる事をしない」事ですから、本HPではマーケティングとは「買い手が喜ぶ事をし、嫌がる事を避ける」事と見つけたり等の記事で散々「買っていない人に買わせる」パラダイムを否定して来ましたが、今回はまさかのユーザーさまからの「買っていない人に買わせる」実証実験報告ですw

また、「小売業が持ち出しでクーポンを出す筈が無い」と不遜な事を思っていましたが、まさかの気高い持ち出しカテゴリークーポン実験です!
(一応前日譚として【これからのID-POS活用を真剣に考えてみよう!】重点カテゴリー設定とカテゴリークーポン があります。)

実験概要

生活して行く上で当然必要とされるようなカテゴリーを自店では買っていない顧客が居ます。

これは大雑把に言えば「他店で買っている」と捉えられます。

多くの顧客は来店に際して丸っと客単価分の買い物をしますので、顧客が当該カテゴリーを他店で買う際に、自店は丸っと客単価分の売上を失っている事となります。

また「ライフスタイル」に迫る 〜 顧客も色々 でも書いたように、単品に対する嗜好は余りに千差万別である為、協賛が得られるとは言え、単品クーポンで「買っていない人」を網羅し、その琴線を動かすと言うのは、相応の企画数が無い限り現実的ではありません(500SKU前後の企画で利用者率40〜50%となります)。

そこで「買っていない人」に対して、買う事で10倍ポイントが付与される「カテゴリークーポン」を発行する実証実験を行いました。

発行にはストアメディアを用いましたので、比較的店に対するロイヤリティーの高い顧客が発行対象になったと目されます。

「買っていない人」の定義

例えば衣料用洗剤は一般人目線では「生活して行く上で当然必要とされる」「顧客の100%近い人が買っていても不思議では無い」カテゴリーでしょう。

ところが図のように利用者は店舗利用者の37.97%に過ぎません。最も利用者率の高い「紙・ティッシュ」ですら店舗利用者の半分も利用していないのです。

「喜ぶ人に喜ぶ事をする」「日頃のご愛顧に報いるに従い買い手の都合に合わせれば、衣洗利用者の560,694人に衣洗のカテゴリークーポンを出すという政策になりますが、そこはお互い様で、売り手の都合だってほんの一寸は汲んで欲しい所ですので「喜ぶかもしれない人に喜ぶかもしれない事を」となるような限界を探って行きたいところです。

それがマーケット・セグメンテーションによって導き出されたseg_f=f2の「衣洗的な利用目的と接点を持った事のある」≒「衣洗にも全くの無関心では無いであろう」「衣洗のクーポンを出しても不快では無いであろう」1,097,145人です。

マーケット・セグメンテーション、seg_f算出に関する計算上の理屈については(単品を例とした解説ではありますが)Tapir_MKによるマーケティングの教科書 を御覧ください。

今回はこの1,097,145人と、衣洗利用者の560,694人の顧客コードをダウンロードし、BiZOOPe ベン図でポン!  に掛ける事によって抜き出した、1,097,145人 560,694人 = 536,451人 (ベン図の緑色部分)を「買っていない人」と定義し、クーポン発行対象としました。

流石BiZOOPeユーザーさま!衣洗を「買っていない」事は確かなのですが「全くの無接点」では無い顧客と言う定義です(安心w)!

冒頭の図を見るとf1が、より「ホームセンター競合品」のように、f2がより「最寄品」のように見える為、衣洗とは接点が無いものの、衣洗を買うようなライフスタイル、近隣都度購入的なライフスタイルと親和性の高い「何某かの最寄雑貨と接点のある」顧客と仮説できます。

逆の視点で言えばf1の利用者は「ホームセンターで買うような商材も大概近隣で賄いたい顧客」、f2の未利用者は「最寄品をホームセンターでまとめ買いしときたい顧客」なのかもしれず、興味深い事です。

実験結果

衣洗カテゴリークーポンの発行対象者に対して、ストアメディア利用によるクーポン発行率は12.4%とやや低調でした。

内、クーポン利用者率は20.6%とかなり高い利用率を示しました。

実験を行った他のカテゴリーについても発券率、利用者率共概ね同様でしたが、利用者が確実に限定されてしまう「ペット」についてはこの方法では利用者率2.1%と桁違いの低調な結果に終わりました。

本政策はやはり汎用性の高いコモディティーなカテゴリー向けであり、そうで無いカテゴリーについては「買っている人に買っているものを」の方が向いているようです。

実験全体での売上増は約2千万円、販促費率は目標5%に対して約7%という結果でした。

尚、カテゴリー内の何を買っても10倍ポイントという形態であったにも関わらず、初利用という事もあってか?クーポン利用者のカテゴリー点単価はいづれも平均を下回りました。

拡大解釈が過ぎますが、「本来ホームセンターで買いたい派」の人がポイントの為、形だけの利用を行ったという線も有りや無しや?

まとめ

利用者が概ね限定されないカテゴリーにおいて、ライフスタイル的に関わりのありそうな未利用者であれば、その20%がクーポン利用に動く。
 (但し今回に関してはストアメディア利用者という前提有。また逆に言えば80%がクーポンを発行してすら動かないという事実。)

未利用者との間に今まで存在しなかった「新たな接点を築け」事が最重要ポイント。

さて、折角コストを掛けて未利用者との間に築いた接点ですが、このやり方を継続してしまうと、この接点は容易に失われてしまう事でしょう。

「そもそも本来自分が好む商品が無いから」と言った未利用の根本的原因も一つですが、単純にこのやり方では、この瞬間利用者となったこの方々に、以後クーポンは発行されなくなるからです。

図では各カテゴリーの利用顧客をRとTに分けてみました。今回の場合Rが2回以上利用者、Tが1回利用者です。

今回クーポンで接点を築けた20%の未利用顧客は、次回からは衣洗のTの顧客としてカウントされ、発券対象である未利用顧客から外れます

それに対して現状の利用者のR率は50.50%と、およそ半数の顧客が1回しかこのカテゴリーを利用していません。

「釣った魚に餌はやらない」とは良く言ったものですが、「接点はある」がそれが店/売り場との「深い絆とは言えない」というのがほぼ全てのカテゴリーが、常に置かれている状態です。【参考】顧客接点は数か?深さか?<離反の科学> 

今回実験は敢えて未利用顧客をターゲットとする事で、その利用率を明らかにした事に大きな意義がありますが、通常実施政策においては殊更に衣洗利用者の560,694人を除外する必要性は無く、単純にseg_f=f2の顧客にクーポンを発券すれば良いだけだと考えます。

Tの顧客は、場合によってはRの顧客と相反する趣味嗜好を持つが故にTに留まっている筈ですから、特にこの方々のクーポンのブーストによる継続利用から分かる重要なポイントは、クーポン発行によって「何を利用するようになる人が多いのか?」「そであっても、何は利用しない人が多いのか?」という観点から、現状のマーケット構造に変化が生まれ、それが今後の政策における重要なヒントとなり得る点です。

となれば、予算等の都合から強いて外すのはRの283,176人でしょうか?これとてCRMの常套句である「顧客に報いる」「ご愛顧に報いる」に全く相反する思想ですので、今回こそ衣洗のseg_n=seg_fとなってしまいましたが、より人数の少ないseg_nの顧客に絞る/関連性を表す「並び順」的に近いカテゴリーの利用顧客に絞る(図で言えば柔軟剤〜食洗迄の利用顧客をターゲットとする等)等、他にもやりようはある筈です。

「買っていない人」に予算が付き、「ご愛顧」に予算が付かないのであれば、それこそ本末転倒であり、寧ろ衣洗の利用者560,694人こそ、カテゴリークーポンの必須ターゲットです(あなたがR顧客だったとして、このような政策に納得が行きますか?)。

何故持ち出しコストを掛けて迄顧客との間に接点を築くのか?と言えば、それは接点=顧客の価値観に触れる事の出来るポイントを築く為であり、折角築いた橋頭堡を敢えて利用しないという手はありません

そのパラダイムが受け入れ難ければ受け入れ難い程、競合他社との強靭な差別化に繋がる筈ですから。。。

謝辞

実証実験結果をお寄せ頂き、公開させて頂ける事に感謝申し上げます。

本ホームページの殆どのページは、このように皆様から寄せられる情報や疑問、要望、ご意見に基づいて、もしくはインスピレーションを得て作成されています。

それを考え、データを分析し、文書化するという作業により私自身も成長させて頂いている実感があります。

改めて御礼申し上げます。