” ニーズが見える ” ID-POS分析
品揃えの世界では「商品構成グラフ」というものが、半ば常識として知られています。
商品構成グラフは、価格幅であるプライスゾーンを横軸に、プライスラインを1円単位/10円単位のように区切って目盛りとし、縦軸に単品数もしくはフェイシング数といった品揃え/棚割情報と、売れ数等の実績情報を取った図のようなグラフです。
既知の方が多いでしょうから細かい言及は避けますが、一般論として ー
1)業界/競合のプライスゾーンに価格・品揃えを合わせる
2)プライスラインの単品数を実績に比例させ、特に大きな山となっているプライスライン=プライスポイントに注力する
3)グラフの山を業務改善によって、業界/競合より左(安い方)に寄せて行く
4)プライスライン毎で棚割のゾーニングを行う
といったような事が言われていますが、背景にある仮定は「顧客は価格を基準に商品を選択している」というものです。
「安さ」というのは顧客にとって間違い無く重要な店/売場の利用メリットです。
顧客が価格を選択の基準にしているのであれば、低価格帯、高価格帯等の一定のプライスゾーンの中での買い回り、すなわち併買が発生している筈です。
併買と来ればID-POSです。
単純に顧客の所得がおおよそ低、中、高の3つに分かれていれば、低価格帯のプライスゾーン、中価格帯のプライスゾーン、高価格帯のプライスゾーンのような併買のグループが、ID-POS分析によって表出して来る筈ですが、さてどうなるでしょうか?
※.見易く、理解し易くする為に、以降では利用ID数が3桁に満たないプライスラインを分析から除外しています。
図は10円単位のプライスライン相互の併買(あれを買ったりこれを買ったりする利用行動)の多さから、グループ化を行った樹形図(デンドログラム)です。
併買の多いプライスライン同士から順にくっついています。
逆説的に言えば、離れた位置にあるプライスライン程、非併買(どちらか片方のプライスラインしか買わない)と言えます。
この図から抜き出して来た2つの併買グループが、以降で見て行くseg_fとseg_nで、図では交互に色分けがされています。
最下層である各プライスラインを、クラスターのリーフと呼びます。
順を追って分析結果を見て行きましょう。
seg_fはこの範囲外のプライスラインとの間にほとんど併買が発生していない※事を示す併買グループです。
すなわち「他でも無い それらの内のどれかを買いに来ている」為、来店/売場利用の目的ウィンドウと言えます。
図のseg_f=f1中の最高額が190円、seg_f=f2中の最高額が690円ですから、概ね前者が低価格帯、後者が高価格帯のプライスゾーンと見做せそうですが、実際には双方のプライスゾーンはf1が30円〜190円、f2が10円〜690円ですので、綺麗に分かれる訳では無く、一部重なっている事が分かります。
※.顧客は多様ですので「全く発生しない」訳ではありません。
図は再掲です。
seg_nは、この範囲内のプライスライン間で、マーケット平均以上の併買が発生している事を示す併買グループです。
よって「主にそれらの中からチョイスしている」=買い回りのウィンドウと言えます。
図のf1_n1の30円〜70円、f1_n2の120円〜150円、f1_n3の80円〜90円のようなプライスラインの連続を見ると、確かにプライスゾーン内での併買傾向が伺えますが、それでも各seg_nのプライスゾーンも一部重なっている事が見て取れます。
seg_f、seg_nの両セグメント共にかなりプライスゾーン的片鱗を見せてはいますが、「顧客は価格を基準に商品を選択している」という仮定を正とするには苦しい感じです。
それは何故でしょう?
顧客は「安さ」を利用メリットの一部としつつも、それ以前に用途・機能或いは商品そのものを買いに来ているからです。
一般に類似した用途・機能は類似した価格を持ちますので、プライスゾーン的片鱗は、それがデフォルメされた表れと捉えることができます。
これをリーフを単品として分析した際の選択ウィンドウで見てみると、図のように一つの選択ウィンドウf1_n4が、プライスで分けた場合50円台〜70円台の3つの連続するプライスラインにバラける事が分かります。
それでも確かに私たちには「価格を基準に商品を選択している」瞬間があります。
それはどんな時でしょうか?改めてそのシチュエーションを整理してみます。
①自らが同一用途・機能と見做す商品間に価格差があった場合(前図で「ジューCサイダー」を選択するようなケース)
②同一の商品が安い店と高い店があった場合
③同一の商品が安い日(特売)と高い日があった場合
①〜③のいづれもが、まず求める用途・機能/商品があった上で、その次に価格が来る事が分かります。
であるならば、商品構成グラフの仮定は同一用途・機能の分析であった場合のみ正となります。
ところが、その商品がその人にとって同一用途・機能なのか、全く異なる価値を持つものなのか、はたまた全く無関心なのかは、顧客によって異なるのです。
再掲となりますが、図の50円台の「ジューCサイダー」と60円台の「森永ラムネ」は同一用途・機能と見做している顧客が多いが故に同じ選択ウィンドウf1_n4に入っていますが、それは万人にとって漏れ無くそうでしょうか?全バイヤーが同じように判断するでしょうか?
まとめればー
・顧客は価格では無く、まず用途・機能/商品を求めて店/売場にやって来る
・顧客は選択対象間で価格を比べる
・何が選択対象に入るか/入らないかは顧客によって異なる
となります。
用途・機能という人によって異なる漠然とした概念にプライスラインを適用する事は困難ですが、前出のシチュエーション②、③のように商品に関わるものであれば、同一用途・機能どころか同一商品ですので、プライスゾーンがはっきりと出て来そうです。
クラスター分析には最低でも3つのリーフが必要ですので、今回はチョコ・ポケット中で最も多くのプライスラインが確認できた「いちごポッキー」で分析してみました。
プライスゾーンが安ければ買う人=f1と、少々高くても買う人=f2に分かれている事が分かります。
商品が定まってさえいれば「顧客は価格を基準に商品を選択している」事が証明できた訳です。
このようにプライスラインは品揃えには不適ですが、プライスポイントが分かりますので、素直に売価政策に使えば十分参考にできると思います。
図はチョコ・ポケットを1円単位のプライスラインで区切り、採用順※昇順に並び替え、レコメンド※付のプライスポイントのみに絞ったものになります。
※採用順、レコメンドについて詳しくは【ロジック】実際には大量の計算が必要なのでBiZOOPeが計算します を御覧ください。
79あるカテゴリーのプライスの中から、プライスポイントが重要度順に14並びましたので、商談時にはこれを参考に売価決定を行って行けば良いわけです。
価格政策は価格政策、品揃え政策は品揃え政策でお互い別物!まぜるなキケン!
参考までにプライスで昇順に並び替えたものも掲載しておきます。
さて、冒頭の商品構成グラフの一般論に対比して言うならば ー
1)業界/競合のプライスゾーンに価格・品揃えを合わせる
⇨品揃えは自店の顧客の声なき声=利用行動に合わせる
2)プライスラインの単品数を実績に比例させ、特に大きな山となっているプライスライン=プライスポイントに注力する
⇨品揃えの豊富さとはプライスポイントの単品数の多さでは無く、用途・機能の豊富さ
3)グラフの山を業務改善によって、業界/競合より左(安い方)に寄せて行く
⇨”三方よし”の安さの追求に異議なし
4)プライスライン毎で棚割のゾーニングを行う
⇨顧客が正にその中から選んでいる買い回りグループ毎でゾーニングを行う
というのが本項の結論です。
それでは具体的にどのように品揃えすれば良いのか?についてはID-POSバイヤー業務大全 を参考にして頂ければ幸いです。