” ニーズが見える ” ID-POS分析
みなさんメイン使いのスーパーマーケットやドラッグストアがあるかと思います。
それは多くの場合”近さ”という利用メリットによります。
が、時にわざわざ遠方のメイン使いでないスーパーマーケットやドラッグストアに出向く事もあるかと思います。
何故ですか?想像してみて下さい。
多くの場合それは「メイン使いの店には無い(”近さ”では譲れない)何らかの利用メリット」を求めてです。
何を利用メリットと感じるかは人それぞれ全く異なりますが、例えばそれを商品で言うならば、個人的お気に入りの「桃屋イカの塩辛」「ちょうしたとろにしん缶詰」「寿がきや味噌煮込みうどん」や、「リステリンオリジナル」「サムライエッジ替刃」なんかを求めてです。
わざわざ出向いたのですから、「それだけ」買って帰って来る事は余りありません。
それなりの買い物をして帰って来ます。
別に悪気があってそうした訳でも無く、あなたのメイン使いの店舗は、その時「それ」が無い事により一回分の客単価を失っています。
ところが遠方のメイン使いでないスーパーマーケットやドラッグストアからも(或いはドン・キホーテからも!)、段々とこういった商品が消えて行きます。
みなさんもそう感じた事はありませんか?
何故「私のお気に入り」に限って、次々と店頭から姿を消して行くのか?と。。。
22商品※から構成される「食用油カテゴリー」を想定してみます。
「市場で大変売れているので、B社のキャノーラ油1000gも導入しましょう!」という提案がメーカーやベンダーからあります。
図の実績を見れば、実に尤もな事に思われます(図は売上金額順)。
売り場スペースには限りがありますので、1商品を導入するのに1商品をカットしなければならないとします。
「売れているので」の論理に従えば「売れていないので」A社のオリーブ&ガーリックオイル70gが棚落ち対象として提案される事となります。
多くの場合お気に入り=偏執的である事を指し、一部の人に限られた利用行動である為「売れない」からです。
※.分かり易い極端な結果が出るよう商品を絞り込んでいます。架空の設定ですが、導入後/導入前を混在させる為、23商品で集計しています。
これで私のお気に入り「A社オリーブ&ガーリックオイル70g」が売り場から失われます。
キャノーラ油なんて、A社のでもB社のでも(私にとっては)どっちでもいいのに。。。orz
「A社オリーブ&ガーリックオイル70g」はこのようなカット提案によって市場データ上の地位を下げ、「B社キャノーラ油1000g」はこのような導入提案によって市場データ上の地位を高めます。
そうなればこのような提案傾向は益々助長され、入手し辛くなる程/熱狂的な支持者程Amazon等で購入するようになる傾向も相まって、ある意味「負のスパイラル」に陥り「棚落ち」に留まらず、場合によっては「廃盤」に至ります。
かなりデフォルメしましたが、このような形でどの店の売り場も似たり寄ったり、体力勝負のつまらない売り場となって行きます。
Tapir_MKのマーケット・セグメンテーションにより、seg_fからまず食油マーケットというものが大きくf2 ≒ 大容量キャノーラ と f1 ≒ その他食油 に別れている事が見て取れます。
この2つの括りは、参加する商品の利用メリット或いは参加する顧客そのものが異なる「異なるマーケット」である事を意味しています。
seg_nは顧客から見た利用メリットの括りで、多くはキャノーラ油に見られるように、「類似用途機能の選択購買範囲」となりますが、ことオリーブオイルやごま油といった商品については嗜好性が極めて高いようで、「類似嗜好顧客の買い回り範囲」のようなそれぞれ異なる一部の人たちの偏執的利用行動の様相を呈しています。
これもseg_n間では買っている顧客そのものが異なるのかもしれません。
いづれにせよこの括りの中で起こっている事は「商品間で顧客が重複(カニバリ/併買)している」という事です。
括りを代表する/最低限代替可能な利用メリットについてはレコメンドが振られています。
こうしてマーケットを俯瞰して見てみると決定的におかしな事は、マーケットf2の商品導入に際して、顧客すら異なるかもしれない別物のマーケットf1から商品をカットしている点です。
更には既にカニバリしているf2_n9に商品を導入し、単一で替えの効かないf1_n6という利用メリットそのものを売り場から失くしている事です。
これは顧客にとって最低限代替可能な、来店/利用の動機そのものを失くす事に通じますので、食油カテゴリーだけの問題ではありません。
マーケットをID-POSから算出された採用順で並び替えると図のようになります。
採用順は顧客が固執する(≒来店/利用の動機となっている)商品程、他の商品との間で併買が起こらない事を利用し、固執する顧客の多さを基本に振られた順番です。
これを見ると新規導入された「B社キャノーラ油1000g」の採用順は最下位、元々同じセグメントに存在していた「A社さらさらキャノーラ油軽やか仕立て900g」の採用順もそれに次ぐものとなっており、採用順1位の「A社キャノーラ油1000g」とのセグメントf2内におけるカニバリが、如何に激しいものかを物語っています。
元々キャノーラ油のセグメントf2に、商品の導入は必要なかったのです。
一方で来店/利用動機と目される「A社オリーブ&ガーリックオイル70g」に目を向けると、食油のPOS実績が上がっている242店舗に対して、当該商品のPOS実績が上がって来ているのが149店舗となっています。
単に売れていないだけという事も考えられますが、実際品揃えされていないのだとしたら、該当する93店舗の商圏の顧客は、当該商品を欲した時、他店を利用している事になります。
「また私のお気に入りが。。。orz」と嘆く消費者を減らす為にも、一社一社、一店舗一店舗が活きる豊潤な日本の流通の為にも、自社の顧客がもたらし続けるアンケート用紙であるID-POSデータを第一に信頼し、吟味して頂く事をおすすめさせて頂きます。
採用順の理屈について簡易には ー
ID-POSのすゝめ → 【続】ID-POSのすゝめ と読み進めてみて下さい。
マーケット・セグメンテーションを含めた理屈の全体像については、やや難しいかもしれませんが ー
Tapir_MKによるマーケティングの教科書 を御覧ください。