” ニーズが見える ” ID-POS分析
Selling(セリング)= モノを売るべく顧客を変えようとする事
Marketing(マーケティング)= ニーズに応えるべく自らを変えようとする事
ここでは、変えないもの、変えるもの、変えられないもの、変えがたいものについてまとめてみたいと思います。
大昔に参加したセミナーでの話で記憶違いがあるかもしれませんが、ハローデイの加治社長が参加者に「会社で一番偉いのは誰ですか?」という質問をしました。
参加者からは口々に「社長!」「会長!?」「株主!」「従業員?」「お客さま??」といった声が飛びましたが、加治社長の答えは「経営理念さま」というものでした。
経営理念は創業者/経営者が
「私が居なくなった後でも従業員に守り続けて欲しい事、守り続ける事で競争を勝ち抜いて行ってもらえるキー概念は何だろう?」
と考え、策定するものであるのと同時に、
「私が道を外しそうになった時、従業員に諌めて欲しい言葉は何だろう?」
という創業者/経営者が、自らに対しても頸木とする上位概念だからこそ一番偉く、故に”さま”付けなのだという事でした。
例えば弊社の経営理念「気高く、強く、一筋に」を、標準化を戦略としている小売業さんに当て嵌めてみるとー
標準化要件に満たない居抜き物件を、最も手強い競合A社が狙っていると知った社長が居ても立っても居られず「A社に出店される位なら、何としてもウチが出店するぞ!」と号令した時、従業員は「社長、その意思決定は未来の従業員に禍根を残さない気高いものと言えるでしょうか?動揺から標準化戦略を乱す弱腰なものではありませんか?戦略として筋が通ったものと言えますか?」と諌めねばならず、社長はそれを受け止め、自問しなくてはなりません。
社長も従業員も等しく従うべきは、経営理念だという事です。
如何に経営者と言えども人間です。
コンパスである経営理念が指し示す”北”を”南”と強弁すれば、従業員全員が間違った場所に辿り着きます。
コンパスの針が指し示す”北”がしょっちゅう変わっていては、本人含め誰も、何処にも辿り着けません。
という事で経営理念は、変わらないが故に離れた場所にいる従業員が、まちまちに同じ場所へと集える磁北のように、おいそれとは「変えないもの」の代表格です。
一方で、コンパスが指し示す通りに真っ直ぐ歩いて行ける程、世の中平坦ではありません(だからこそ必要なのがコンパスです)。
ある従業員の行手には地図に無かった断崖が、別の従業員の行手には濁流が立ち塞がります。
地勢=私たちを取り巻く状況は常に変化しているからです。
私たちに地勢を変える事はできませんから、コンパスを見ながらも越えられそうに無い断崖は迂回し、濁流が治まるのを待ち、越えざるを得ない海峡があれば船を作るといった、それぞれの局面における地勢に則したやり方が必要です。
ビジネスで言えば地勢は、私たちを取り巻く経済状況や、それに伴う市場の価値観、ニーズの変化と言えます。
卑近な例で言えば、新型コロナウィルスという状況が「苦しみたくない」「迷惑をかけたくない」「白い目で見られたくない」といった価値観に触れ、マスクや消毒液等のニーズを生み出しました。
そんな状況を誰が予想できたでしょうか?
「変えるもの」は、磁北でも地勢でも無く、変化する地勢に則して磁北を目指す私たちのやり方です。
前述の通り、まず私たちに状況は変えられません。
中でも経済状況やコロナのように、万人にとって明白なソーシャルな状況の力は強力なものです。
現在、コスモス薬品、ドン・キホーテ、オーケー、ロピア、トライアルといった企業が紙面を賑わしているのは、昨今のソーシャルな状況にこれらの企業がより一層寄り添っている為では無いでしょうか?
如何に財布の紐が固くなったとしても、実用品は消費せずには居られませんから、我が店の来店頻度や客点数はこのような企業へと向かっていて、屋号を問わない顧客一人の来店頻度や客点数にさほどの変わりはないのかもしれません。
となれば人間一人の消費には限度がありますから、そこに来店頻度や客点数を上乗せしようとしても、無理筋というものです。
ことソーシャルな状況に関しては明白故に、より潤沢な資金力を持ち合わせた企業が支配的なプレイヤーとなり勝ちです。
一方で我が店の利用者に目を向けてみれば、以前の記事年代、顧客ランク/生活史の中の状況とニーズ 、顧客PFV ✕ 年代 でも触れた通り、ロイヤル顧客は多くの場合「ロイヤルたらざるを得ない状況に置かれた人たち」、プロスペクティブ顧客は多くの場合「ロイヤルたり得ない状況に置かれた人たち」のようです。
これは世帯構成や居住地、年収のように各々の顧客が置かれたパーソナルな状況の違いによるもので、極端に言えば、買い物難民が価値観の如何によらず、移動販売車やコンビニの「ロイヤルたらざるを得ない」ようなものです。
また、例えば子育てという状況が終われば、二人になった夫婦に「兎に角安くて大量の米と肉」のようなニーズは無くなる為、ロイヤルで無くなったり、利用する店そのものが変わります。
これを私たちは「ランクダウン」や「離反」と呼びますが、多くの場合顧客の置かれたパーソナルな状況とニーズが、ランクもしくは私たちの店にそぐわなくなっただけの話です。
私たちに顧客のパーソナルな状況を変える事は出来ませんが、私たちの店の近隣の、食べ盛りの子どもが居る「ロイヤルたらざるを得ない状況に置かれた人たち」のニーズや、子育てが終わった「ロイヤルたり得ない状況に置かれた人たち」のニーズに寄り添う事ならできます。
パーソナルな状況と言うのは明白で無い為、「顧客育成」「離反防止」と言った”顧客を変える”流通用語が使われている内は、どこの企業にとっても競争に勝つチャンスがあると言えます。
ソーシャル、パーソナル共に同じ状況下にあっても「多少無理をしてでも国産の安心・安全なものを」/「いくら安くても、わざわざ遠くまで買い物に行くのは無駄」といった価値観を持った顧客も居ます(”近く/遠く”はパーソナルな状況です)。
価値観は、「子育て=安心・安全」のように単純には収束せず、本音と建前が真逆となる事も珍しく無い、極めてパーソナルなものです。
私たち売り手の狙いは、買い手の価値観を極力一つに導く事にありますが、それは長年の状況による裏打ちの面でも、多様性の面でも、我が身の頑迷さに鑑みてもw、なかなかに容易ならざる事です。
ここまで見て来たように、ソーシャルな状況 ✕ パーソナルな状況 ✕ 価値観 = ニーズ である事から、ニーズは一つではなく、ソーシャルな状況のみに支配されるものでもありません。
どこの企業であっても、所謂”売れ筋”のPI値が1〜10%程度であるように、ニーズが到底一つに収束しない事は、理論上「ニーズは一つ」を前提としたPOS分析からも容易に想像が付きます。
パーソナルな状況と価値観が人それぞれである事、売り場面積のようにこちらの都合もある事から、100%の顧客のニーズを満たすという事はどこの企業であってもできません。
図は、ベビー・シルバー売り場利用者の約54%がニーズにマッチし、自然減毛しつつも継続利用に入っているのに対して、約46%がニーズにマッチせず一過性もしくは飛び石利用に留まっている様を示しています。
この中には店の”遠さ”がアンマッチだという人(但し会員カードは作っています!)も居る為100%は無理だとしても、競合よりも1%でも多くの顧客のニーズにマッチする売り場が作れれば、競争に勝つチャンスはあります。
決して一つでは無いニーズを、適切な粒度で見える化する事はBiZOOPeで出来ますが、それに加えて何を変えず、何を変え、何が変えらず、何が変えがたいのかという、私たち自身の価値観の革新が必要です。