お客様のニーズが見える ID-POS分析
「品揃えの絞り込み」を行うと、絞り込んだ単品数分の作業が減ります。絞り込み後の単品のフェイシング数が増えるため、作業の頻度も減ります。
単品ベースでの欠品のしにくさや、仕入の増大といったメリットもあります。
品揃えの絞り込みは、「売り手の都合」寄りの施策ですが、現実問題人手が不足して行く中において、「店の利益」を決定付ける重要な施策です。
「豊富な品揃え」は、お客様が小売業に求めるニーズの、トップ5に入って来る要素です。
豊富な品揃えは、「買い手の都合」寄りの施策ですが、現実問題商圏人口が減少して行く中において、「選ばれる店」になる為には重要な施策です。
文字通り捉えれば、品揃えの絞り込みと、豊富な品揃えは、対立する施策です。
対立に思える殆どの事象の背景には、仮定の誤りがあります。
「品揃えの絞り込み VS 豊富な品揃え」の場合、双方の品揃えが、同じものを指す言葉であるという仮定に誤りがあります。
品揃えの絞り込み と 豊富な品揃え は両立する?
売り手が品揃えという言葉を、テクニカルな「単品数」の意味で使っているのに対して、買い手は品揃えという言葉を、「自分のニーズを満たしてくれる単品の数(ワンストップ性)」という違った意味で使っています。
となれば両者は対立するものでは無く、「十分ニーズを満たす単品を取り揃え、余剰な単品については絞り込む」というのが、「品揃えの絞り込み VS 豊富な品揃え」の解となります。
では、余剰な単品とは何でしょうか?
それは、「余剰な選択肢」であるというのが、ここでの論です。
買い物において、例えば松・竹・梅という選択肢から一つを選ぶという行為は、「選ぶ楽しみ」や「自ら決めた」という納得感をお客様にもたらします。
また、「大容量が無いから小容量を2つ買う」といった代替購買によって、販売機会の損失を防ぐという側面も持ち合わせています。
一方で、たった一つの選択肢が、「あって良かった!」という満足に繋がる顕著な例が、コンビニエンスストアの品揃えです。
そもそもニーズがあったとしても、標榜する業態や経済合理性次第で、選択肢数を0にする(ニーズに応えない)という判断も当然ある訳です。
また、心理学の実験(ジャムの法則)では、「選択肢が多すぎると顧客は選ぶことに負担を感じ、結果的に何も買わなくなる確率が高まる」ことも証明されています※。
※.但し、コンビニエンスストアとジャム専門店では、ニーズの解像度が違います。「ジャムが必要」というニーズが、専門性を深めるにつれ、プレザーブ/ゼリー、低果糖果実感/高加糖濃厚のように、相容れない別物のニーズに細分化され、その中にまた選択肢が必要となって行きます。
ジャムの法則 は 選択肢(7±2)の法則
選べる選択肢は、ニーズの大きさに応じて、「あった方が良い」事は確かですが、お客様にとってすら「豊富なほど良い」訳ではありません。
余剰な選択肢の絞り込みは、売り手、買い手の双方にとってWinとなる。
ニーズがあっても、経済合理性に見合わないものは、選択肢数=0のNo Dealとする。
では具体的に、幾つ以上の選択肢を、余剰と判断できるでしょうか?
十分なニーズがある事を前提に、余剰 = 最適選択肢数超 と定義できます。
目安としてジャムの法則では、ジャムというニーズに対する最適選択肢数を、7±2としています。
ジャムの法則が示す7±2という最適選択肢数といえども、これを全てのニーズに割り当てることは、業態、売場面積、経済合理性の観点から不可能です。仮にそれを目指した場合、「多様なニーズに応える」という目的が、「全ての選択肢を画一的に増やす」という手段によって阻害される、本末転倒な結果を招きます。
また、現実の市場に目を向けると、実は大きなニーズほど、1〜3の少ない選択肢から形成されており、「スーパードライ 350ml」のように、1ニーズ=1選択肢というケースも珍しくありません。
これらの理由から、各ニーズに割り当てる選択肢の数は、絞り込み優先で考えるべきです。その上で、ジャムの法則における最適数の下限である「5」を、最大選択肢数の目安とするのが妥当です。
これは、売り場が許容する選択肢の数を、ニーズの大きさに応じて0〜5単品の範囲で柔軟に配分する、ということを意味します。
品揃え、ニーズ、選択肢※と、ここまで概念で話を進めて来ましたが ー
お客様が、選択肢Aと選択肢Bを選択していれば、選択肢数は2で、A/Bというのが一つのニーズ(選択の範囲)です。
お客様が、選択肢A、B、C、D、Eの中から選択していれば、選択肢数は5で、A/B/C/D/Eというのが一つのニーズ(選択の範囲)です。
この「お客様が選択している」を、「平均以上に選択されている」事と定義すれば、ID-POSデータを使って、お客様のニーズも、その中の選択肢数も知る事ができます。
ここでは、BiZOOPe の 分析メニュー ニーズの見える化 を使って、余剰選択肢が顕著に見られた「グミ・小袋キャンディー」というカテゴリーのデータを、実際に見て行きます。
※.この辺りの関係性について興味のある方は、【図解】ニーズとマーケットの関係性 も併せて御覧ください。
「グミ・小袋キャンディー」中のニーズ(選択範囲)を見える化したものが、次の図です。
35あるお客様ニーズ中の選択肢数(図中右端の単品数)が、軒並み1〜5である事が見て取れます。
一方、選択範囲=f4=n15(さけるグミ他、新味:新規性、試行)だけは、選択肢数が19と、5はおろか、お客様が選択可能な上限9さえも越えています。
利用者率2.18%のニーズに対して、選択不可能な19もの選択肢を割いているのですから、これこそが余剰な選択肢です。
選択範囲=f4=n15(さけるグミ他、新味:新規性)中の、19の選択肢の内訳は下図の通りです。
(実際の売り場では、各選択肢がこのように固まっておらず、バラバラに陳列されているでしょうから、お客様の選択における混迷度は、より一層深まります。)
絞り込み不可の、最低品揃えである事示す、重点レコメンド(図中右端)が付いた商品が4と、最大選択肢数5の範囲に収まっている事が分かります。
先程の他のニーズを見ても、選択肢数1〜5の範囲に収まっていますから、余剰な選択肢である14単品をカットする事に、何ら問題はなさそうです(これが不安でしたら、最大選択肢数を9とし、10単品をカットして下さい)。
ニーズの見える化 では、カットしたい単品の数(図の最下段)と、最大選択肢数(図の最上段)を指定できます。
14の余剰な選択肢をカットする事で、カテゴリーの13%の単品が絞り込め、その分を、現時点で売り場に存在しないニーズの拡充や、既存の選択肢のフェイシング数増に充てる事ができます。
その他にも、ニーズそのものとして不要とする利用者率を指定する事(図の中段)もできます。
それはひとえに、お客様のニーズが見えていない為です。
何と何が選択されていて、何と何が選択されていないのか?選択の範囲が見えていなければ、選択肢数も分かりません。
私事の蛇足です。
一昨晩、カミさんに「焼酎買いに行くけど、何か必要なものある?ドラッグストアとミニスーパー、どっち行って欲しい?」と尋ねたところ、「ドラッグストア!」という返答がありました。
丁度車のオートロック用電池が切れたためとのことでした。
また、「ゴーヤチャンプルー作るから、ついでにランチョンミートも買ってきて」というリクエストもありました。
「ランチョンミートは厳しいんじゃない?無かったら、コンビーフか、適当な加工肉見繕って買って来るわ!」と言って出掛けましたが、ドラッグストアにはランチョンミートも電池も無く、「どうせ電池が無いんなら」と、ランチョンミートがありそうなミニスーパーへ、何も買わずに向かいました。
私のニーズの3/3が、ワンストップで揃ったのは、まさかの(?)ミニスーパーの方でした。
車のオートロック用電池 CR2032。選択肢は1つで、代替は不可能 & 切れたら割と「すぐに欲しい」類のニーズ。コンビニにもありそう!?
ランチョンミートの選択肢は、ポーク&チキン、SPAM、減塩SPAMの3つ。ポーク&チキンの存在は、「安さ or ポーク100% 」という、選択への明確な根拠を与えてくれる。私はオリジナルSPAM派。
結果として、後攻のミニスーパーが、私の買い物一回分を総取りした訳ですが、勝敗を分けたのは、「品揃えされている事」を期待していた先攻側に、「品揃えが無かった事」でした。
顧客が「品揃えされている事」すら期待していなかったものを品揃えして、ミニスーパーの雑貨部門に、一体どれだけの利があるというのでしょうか?
少なくとも、「今後有り無しが微妙なものについては、ミニスーパー先攻、ドラッグストア後攻で」というのが今の私の気持ちで、先攻/後攻が入れ替わる事によって「買い物一回分を総取りする確率が変わる」という事が真実です。
「選択肢は絞っても、ニーズは揃える」
丁度記事を書いている最中に、品揃えの真髄を見たような気がしたため、蛇足ながら書かせて頂きました。
因みにドラッグストアもミニスーパーも、私の「いかり豆」というニーズには応えていない為、こちらのニーズは業務スーパーさんに満たして頂いていますw