” ニーズが見える ” ID-POS分析
「自分にとっての利用メリット」が無い店に顧客は来店しません。
(釣りが趣味で無い人が釣具店に来店する事は無い。)
「自分にとっての利用メリット」が一部欠けた売場を持つ店は、
しばしば顧客の来店機会を逸失し、
競合にみすみす来店機会を与えています。
(「そうだ!ビール買いに行こッ!」と考えた時の「そう言えばあの店黒ラベル置いてなかったなぁ〜。遠いけどあっち行こorz」のようなケース。許容可能な代替品(例えば黒ラベル6缶パック)が存在しない場合に発生する。)
リアル店舗の「近さ」は顧客にとって非常に強力な利用メリットと考えられます。
近い=足下商圏であるにも関わらず ー
1)他店の利用メリットが自店の近さを上回り、他店を利用している顧客が居ます。
・利用のし易さ(駐車場、通勤経路上、輸入食材店至近)
・売り場の広さ、明るさ、客層、雰囲気
・接客
・お得度(ポイント、価格)
・鮮度、美味しさ
2)利用メリットの一部欠落から、しばしば他店を利用する顧客が居ます。
・利用メリット欠落(品揃え/欠品。ex.パクチーが無い!)⇨ Tapir
・固有の利用メリット(ex.スガキヤ味噌煮込みうどんがある!) ⇨ Tapir
・部門の強み/弱み(ex.BBQするなら。。。食べ盛りの子供が居る時期は。。。)
・営業時間(ex.深夜にふと。。。)
・飽き(ex.たまにはドンキ。。。)
これらはどちらも完全に防ぐ事は不可能とは言え、特に利用メリット欠落については ”勿体ない” 事です。
足下を盤石にする事は、より遠方の顧客を引き付ける事以上に重要です。
が、どちらにせよ無い物ねだりはできません。
ターゲットマーケットを絞り込むという意味においても、直せるもの/直すべきものと、そうでないものが存在するのはチェーンストアの宿命です。
(例えば「A5ランク和牛を置いて欲しい」という顧客の声を聞いても、A5ランク和牛を買うような顧客は来店しません。全体としてのストアコンセプト=ターゲット・マーケットがあるからです。)
顧客が ”そうである” のは顧客が悪い訳ではありません。
基本は”売り物”の ”在り方” そのものに依拠します。
その為、これを変える(マーケット構造を変える)事は非常に困難です。
まずは、有り難い事に現に利用している顧客、存在しているマーケットの「今あるがままの利用メリット」を認識し、そこに極力抜けを作らない事、更に磨きをかける事が重要であろうと考えられます(例えばカウンセリング化粧品を利用している顧客に対して食品を売り込む前に、対象顧客にとってのカウンセリング化粧品において絶対的なNo.1であり続ける事が重要です。そこにしか足掛かりはありません)。
ともあれマーケット毎にどのような施策を打つのか?どのマーケットで食って行くのか?それを決める為にはマーケットをセグメンテーションし、俯瞰し、理解する他ありません。
顧客PFV(Purchase Feature Value = 購買特徴量)は顧客そのものを区分する年代、ランク等と並ぶ店舗横断型のマーケット・セグメンテーションの一つです。
抽象化された定量的顧客DNAというイメージで作りました。
定量的なセグメンテーションのメリットは ”全員を漏れなく区分、俯瞰できる” ことにあります(定性に近い属性(年代/性別)には”漏れ”や”虚偽”があります)。
マーケットとは ”売り物”(の利用メリット)と、顧客(の価値観/利用メリット認識)との接点です。
顧客の価値観と”売り物”に対する利用メリット認識は、その”利用行動”にこそ現れると仮説しています。
顧客そのものを区分する店舗横断型のマーケット・セグメンテーションですので、屋号そのもの(企業/店舗)が ”売り物” と見做されます(売り物としてのセブンイレブンやファミリーマート)。
▼顧客の価値観と利用メリット認識のあらわれ
商品の場合、選択的利用行動を商品相互で相対的に定量化する事(Tapir)ができますが、企業または店舗についてはそれ(競合店との利用/未利用、同日/非同日利用)ができません。
よって、最小単位の利用行動(出費=ID回数×客単価=ID回数×客点数×点単価)の顧客間における相違からセグメンテーションを行います。
例えば、以下のように仮説されます。
ID回数高:近さに利用メリット
客点数高:まとめ買いに利用メリット
点単価高:高単価カテゴリーに利用メリット(利用メリットに偏り)
13週(約3ヶ月)内の各顧客のID回数、客点数、点単価をクラスター分析(k-means法)に掛け、認識の容易性の為、8つにセグメンテーションしています。
ID回数、客点数、点単価の3つの指標に、それぞれ高低2種類があると仮定した 2×2×2=8セグメントです。
システム的には週が締まる度に13週毎で計算され、時系列でこれを保持しています。
検索時には集計期間のTo側に最も近いPFVが採用されます(その為9セグメント目として”その他”が発生し得る)。
ちなみにこれらの仕様は年代、ランクの各セグメントについても同様です。
※1.「利用メリット認識の相違」である事から、各セグメントの構成人数は当然まちまちです。
※2.あくまでも手が打て、精度を高める為のセグメントです。
個々に異なる顧客をたった8つのペルソナに集約しているのですから、必ずしも全員がID回数高=店から近い訳ではありませんし、当該セグメントの顧客全てが全く同じ趣味・嗜好を持っている訳でもありません。
またID回数は客点数、点単価と異なり、集計期間によって累積変化して行く指標です。
下図は ID回数×客点数×点単価 の内、ID回数と客点数の二次元で切り取った際の顧客の分布グラフです。
何を以て店を利用するメリットとしているのか?が顧客によって異なる事が分かります。
(【仮説】黒点の顧客が反応する政策変化が、黄点の顧客の反応を誘発しない ⇛ この2つのマーケットはセグメンテーションされている。)
顧客PFVを利用する際には各セグメント(上図の黒や黄色)に名前を付けて頂きます。
名前を付ける為に分析をしたり、チームで意見を交わしたりする過程において、自社にとってのマーケットがどのような構造になっているのか?自社にとっての顧客とはおおよそどのような人たちなのか?の理解が深まります。
もしかしたらこの行為自体が、実は最も重要なポイントかもしれません。
下図はPFV名を決める為の分析方法の一例です。
①ID回数を「週1」、「月1」といったような普遍的で分かり易い表現に変換します。
②セグメント内のより多くの顧客が共通して利用しているメリットを明確にする為、主要な利用部門を簡潔に記載します。
③買い物時のカゴの中身として、客点数を「○点」のような分かり易い表記に変換します。
④買い物時のカゴの中身として、特異な点単価については「○倍単価」のような分かり易い表記に変換します。
①〜④を結合して出来た名前から、各セグメントの持つ共通点や相違点を仮説し、最終的に分かりやすい名前に意訳します。
例えば客点数の違いは、ID回数と利用部門が類似していれば世帯人員数の違い、そうで無ければまとめ買いか否かのように仮説する事が出来ます。
※.以下素人の命名例に目くじら立て無いでくださいねw
各セグメントは謂わばペルソナですから、マーケット・ボリュームや期中参入有無等にあまり因われずに、一つ一つのセグメントをあたかも一人の人間のように思いを込めて捉える事が勘どころとなります。
【勘どころ1】悪し様に捉えない
例えば「低頻度顧客」のような悪し様な捉え方をしない事です。
商品視点に慣れていると、ついついこのような発想になりがちですが、少なくとも自らカード会員になり、利用迄してくれた顧客な訳で、低頻度である事にはー
・高頻度部門に利用メリットを感じていない(高頻度部門のミスマッチ = 他店利用。にも関わらず低頻度部門は利用してくれている。)
・家から遠い(にも関わらず何らかの利用メリットがあり利用してくれている)
・共働き等世帯の事情(週末にまとめ買いしたい)
・利用し始めたばかりである
と言ったおいそれとは変われず、知る由もない、こちらの事情も、あちらの事情もある訳です。
現に在る一つ一つのマーケットを、これをヒントに磨いて行かなくてはならない訳ですから「何を利用メリットと思って利用して頂いているのか?」と考える事が大事です。
【勘どころ2】育てるとか、買わせるとかランクアップとか考えすぎない
そもそも顧客は私たちに育てられたりはしませんので、不遜な考えは持たない事です。
どんなに売れる商品でも1日に顧客の10%が利用すれば良い方ですし、商品のクーポンを利用経験者に出した場合ですら利用率は30〜40%と言ったところです。
月2来店客には月2来店客の都合があるので、これを週1よりも劣ると捉えたり、週1になるよう仕向けるのに執心し過ぎない事です。
食品未利用客には食品未利用客の価値観があるので、これに食品を買うよう仕向けるのに執心し過ぎない事です。。
寧ろそれぞれの利用メリットをよりブラッシュアップし続ける事=自らを育てる事で、まず逃げられないようにする事が肝要です。
政策上不要とは言いませんが、少なくとも命名時についてはランクであるとか、ステップ的な思考に因われ過ぎない事です。
【勘どころ3】マーケットへの途中参入を深く考えない
ID回数は利用期間が長くなればなる程大きくなって行く値です。
その為、該当する集計期間内で途中参入して来た顧客が「月1」であるとか「月2」のセグメントに位置づけられる事は当然あります。
が、何をもって途中参入とするのか?という問題もありますし、現に常時そのような利用行動を取っている顧客も存在する訳です。
あたかも一人の人間のように固化して捉える為にも、基本は「そういう利用メリットの享受の仕方である」と捉えてみて下さい。
クラスターを事実と仮説に基づいてマップしてみたマーケット構造が以下になります。
まず大事な事は以下の2点です。
1)現に存在する店舗/売り場から、曲がりなりにも何らかの利用メリットを見出し、表出させている顧客である。
2)多くがそのバックグラウンドから、クラスター間で大きく異なる価値観を持ち、異なる利用メリットを見出している顧客である。
基本的な活用方針は、各マーケット毎の固有の利用メリットを理解、完備し、磨く事です。
一方で、手法は変わらないものの特定のマーケットに特化、集中するというのも一つの戦略です。
図からは、その人数構成比と昨今の人口動態から、小世帯で商圏距離が近いと仮説されるクラスター3と、遠いと仮説されるクラスター4がメインマーケットを構成していると捉えられ、双方で人数構成比の約42%を占めます。
最大の人数構成比約33%を持つ、月1利用のクラスター2は、利用部門からはクラスター4(月2まとめ買い)に、客点数からはクラスター3(週1)に類似している為、双方のいづれかに分化して行く可能性のある、唯一卵のような存在と捉える事が出来ます(当然大世帯である可能性もありますが、確率的には小世帯が多いでしょう)。
クラスター2を惹きつける為には、クラスター2固有の利用メリットは勿論、分化先と目されるクラスター3、4というメインマーケットの利用メリットをブラッシュアップし続ける事が重要となります。
頻繁に買おうが、まとめて買おうが世帯の日常生活に必要なもの自体は変わらない訳で、その意味ではクラスター4を遠距離のまとめ買いと仮説するならば、クラスター3に比較し一般化粧の利用者率にやや欠けるのは「まとめ買いニーズに対する一般化粧の利用メリットが欠けている」のでは無いか?とも考えられます。
顧客PFVの利用方法の一つとして、客層と売り物とのマッチングが考えられます。
例えば、商品をどのようなPFVを持つ顧客層を主眼にアピールするか?です。
下図はBiZOOPeの「商品×顧客セグメント」から抽出したデータを、一般化粧品ID数降順∧クラスター4の合計行の構成比超で並べたものです。
当該セグメントの多くの人たちが、一般化粧品売り場に求めている利用メリットとは何なのか?の参考になります。
(図の例ではエビスプレミアムケア、アース製薬シュミテクトというキーワードが目立ちます。)
各PFV、同様の条件でトップ8の商品を抜き出し比較してみると以下のようになります(同一SKUが2セグメント以上で表出しているものに網掛け)。
一般化粧品においては、左の4セグメントで求める利用メリットがほぼ一致しており、右の4セグメントが各セグメント同士でもここから隔絶されている事が推察されます。
(なんだか一般化粧品で見てしまうと「月2まとめ買い(小世帯)」と「月1プロスペクト(小世帯)」の定義が怪しく思えて来ましたw)
商品とのマッチングをより大きく捉えれば、それは棚割とのマッチング、最終的には店舗とのマッチングに通じます。
究極的には構成客層のパターンに応じて店舗をグループ化(マーケティンググループ)する事で、マーケティンググループを戦略単位とし、標準化政策、改装、出店に活かす事が出来るものと考えられます。
視覚的理解の為、Tapir同様階層型クラスター分析に掛けてみましたが、実務上扱えるセグメント数の上限が決まって来るであろう事から、顧客PFV同様、非階層型のクラスター分析に掛けた方が適しているものと考えられます。