” ニーズが見える ” ID-POS分析
昨今、食品スーパーマーケットやドラッグストアと言った小売チェーンにも大分「マーケティング部」という部署が増えて来ました。
消費者とダイレクトに接点もデータも取れる小売業がマーケティング的になると言う事は、日本の流通にとっても、消費者にとっても大変喜ばしい事です。
大げさに言えば 我が国の生産性ここに有り!です。
ところが最近よく聞くようになって来たのが、
「業務分野が販促部と被って来ている。」
「都合の良いデータ取り屋、帳票作成屋になって来ている。」
という、自らのアイデンティティーを見出だせなくなって来ている マーケティング部の嘆きです。
マーケティングと言うと販促の事と思われ勝ちです。
特になまじ顧客IDが分かるID-POSが絡んで来ると「One To Oneマーケティング」、「ターゲットマーケティング」のように、顧客IDに対して直接的に行う販促こそがマーケティングと捉えられてしまいます。
年代、顧客ランク、リピートと言った「見たことの無いものを見てみたい」というのもまた人のサガでしょう。
メーカーさん、卸さんなんかだと「新しい策を打ち出す事」がマーケティングと捉えられているフシもあります。
とは言え強い権力を持った商品部の業務分野に対し口出しするなんて、なかなか腰が退けてしまいます。
「何か良くわからないけれど 新しい策を打ち出す 為に ID-POSという難しいものを導入したんで、マーケティング部を作ってそこにやらせてみよう!」
てな感じで結局、販促部と業務分野が被って来たり、お茶を濁すような形で体の良い帳票作成屋になったり、重箱の隅を突くような販促企画屋になってしまうというのが事の経緯なんだろうと推察してみたりします。
マーケティングの対象であるマーケットってものがそもそも商品と買い手の組み合わせであるにも関わらず、今までは片手落ちの商品のデータ(POS)しか無かった訳です。
そして我々は、片手落ちの商品のデータ(POS)に躍起になる事に習慣付けされています。
商品だけを見ていれば、当然買い手にとって望ましくない状況は起こり得る訳で、結果としてそれが売り手にとっても望ましく無い状況に結びついているというのが現状です。
こと商品に買い手が絡む場面(店頭、チラシ、クーポン等)については、販促だろうがマーチャンダイジング(MD)だろうが、本来全てが
マーケティング的であるべき
なのです。
その為マーケティング活動とは端的に言って ー
・買い手にとってなるべく望ましい事をし続ける※
商品で言えば、欲しいものがある/見つけ易い・選び易い/(クーポン等で)お得に買える
・買い手にとって望ましくない事をなるべく避け続ける※
商品で言えば、欲しいものがカットされる/見つけ難い・選び難い/余計なお世話な”お得”の押し売り
事だと言えます。
※.買い手の都合だけを聞いていたら、売り手の都合が成り立ちませんので「なるべく」としています。
またマーケットは常に前に進み続けていますので、「続ける」という言い回しをしています。
それが結果として新しい策を打ち出しているようにも見える訳ですが、実際メインは、現に膨大にあるマーケティング的で無い(買い手不在、売り手都合だけの)MD、販促と言った従来業務を、マーケティング的なものに置き換えて行く作業になります。
結局のところ”片手落ち”が買い手にとっても売り手にとっても望ましく無い状況を産んでいる訳ですが、これはマーケットに手を打つ為の方法論である分割(セグメンテーション)にも及んでいます。
商品であればプライスライン、ABC、
買い手であれば年代、ランク、
いづれも属性または成績を利用した分割がよく知られていますが、
前者は「買い手不在の商品の分割」、
後者は「商品不在の買い手の分割」
で、買い手と商品が交わっていない為、とてもマーケットの分割とは言えず、どっちもやっぱり”片手落ち”な訳です。
(ここでは詳細を避けますが、これら分割はいづれも仮説や拡大解釈と言うよりは、「買ってない人に買わせたい(嫌がる買い手は存在しない)」売り手の願望の反映、飛躍です。)
片手落ちを避け「買い手が喜ぶ事をする」「買い手が嫌がる事をしない」のであれば、分割は自ずとー
・喜ぶ買い手と商品との組み合わせに分割する
事(マーケット・セグメンテーション)のみに帰結します。
具体的な手の打ち方については、Tapir_MKによるマーケティングの教科書 に書いてみましたので、興味ある方はよろしかったら御覧ください。
自分にとって利用メリットがあれば利用し、無ければ利用しない
一人の買い手に立ち戻れば当たり前の事なのに、売り手の立場となるとどうにも見えなくなって来る。。。
「買い手が喜ぶ事をする」「買い手が嫌がる事をしない」のであれば、当然売上、粗利はアップします。
そうは言っても商品部も販促部も、メーカーもベンダーも、みんなが等しく売上、粗利と言った商品の数字に追い捲られているのが現状です。
全ての人がマーケティング的であり続ける、気高くあり続けるというのはなかなか容易な事ではありません。
自社を利用する買い手の代弁者として、買い手に関わる全ての商品政策がマーケティング的であるようリードして行く
のがマーケティング部の努めです。
一方で、買い手の都合ばかりを聞いていては、こちらの都合が立ち行きません。
一部の買い手の都合に合わせる事は、その他大勢の買い手の都合への背信にも繋がります。
チェーンストアですから、当然「より多くの買い手にとって」という事が重要になって来ます。
売り手、買い手双方の都合が重なる部分のみに政策をフォーカスさせて行く
のもマーケティング部の努めと言えるでしょう。
まっこと売り手、買い手の双方に対して気高くあるというのは容易ならざる事ですが、消費者とダイレクトに接点もデータも取れる小売業のマーケティング部は「真のマーケティング部」です。
小売のマーケティング部、真のマーケティング部が常識となって行く黎明期に立ち会えている事に感謝して、最後にこの言葉を送ります。
君よ気高くあれ!
がんばれ!小売のマーケティング部
本記事に関しまして後日
「マーケティング部がリードすべきは商品政策のみならず、企業活動全体では無いか?」
「広義にて「商品政策」を使われているように思いますが、こと小売業の皆さんは、商品政策=商品部の仕事となりますので、ちょいと引っ掛かりました」
という素晴らしい洞察を含んだご指摘、
「経営者含め、企業活動全てが顧客ドリブンで動く組織に変革したい」
との熱い想いを頂きました。
ご意見を頂けるなんて「朋あり遠方より来る」ってな感じでなんとも嬉しいものです。
ありがとうございます。
さて、折角頂いた生のご意見をそのまま載せないと勿体ないので、ページ本文に手を加える事はせず、後記として言い訳を書いて行きたいと思いますw
昔のページでは私はよく ”売り物” という言葉を使っていました。
この原稿も実は途中迄 ”商品” では無く ”売り物” で作っていたのですが、ただでさえ難解な文章を書き勝ちな私ですので「それでは敬遠されちゃうかなぁ〜?」「目を寄せるなら卑近な方へと寄せよう」という思いもあり ”商品” としました。
ですから、ここで言う ”商品” は ”単品” の事では無くて ”売り物” の事です(正にご指摘の通り”広義での商品政策”ですが、”商品部”というメジャーな組織の存在を考えればおっしゃる通りの捉え方をされてしまうでしょう)。
本当は ”来店” という言葉も、単品の利用、カテゴリーの利用等と変わらず、店舗の ”利用” としたいのですが、”来店” の方が刺激も強く、分かり易い方が多いようです(”売り手”、”買い手”も途中から対になるよう敢えてそう書いてるので「変な言い回しだなぁ〜」と思う人もいらっしゃるでしょうねw そうそう、これもよく出て来る ”利用メリット” が ”利用目的” や ”利用価値” じゃ無いのも、”デメリット” という対義語の存在が故です)。
さて、”売り物” と ”利用” ですが、なぜこの言葉かと言えば、
単品 も カテゴリー(棚) も 部門(売場)も 店舗 も 企業(屋号) も(チラシもクーポンもetc,etc)
買い手の価値観と接する(コミュニケーションのある/コミュニケーションを取るべき)”売り物” であり、
買い手の ”利用” の動機付けとなるものだからです。
あらためて、
マーケットとは ”売り物” を ”利用” する事で得られるメリットと、買い手の価値観との接点
です。
まず ”売り物” を売り手がどう定義するか次第で、〇〇マーケット というものが変わって行く訳です。
よって、
”企業(スーパー〇〇)” を ”利用” する事で得られるメリットと、買い手の価値観との接点
というのも当然あり得る定義です。
(こと企業という事になると、買い手=株主 という定義、解釈もあり得ますねw)
よって言い換えるならば
自社を利用する買い手の代弁者として、買い手に関わる全ての売り物に関する政策がマーケティング的であるようリードして行く
売り手、買い手双方の都合が重なる部分のみに政策をフォーカスさせて行く
がマーケティング部の努めとなります。
売り手、買い手と共に売り手の都合、買い手の都合も最近のマイトレンドですねw
一辺言葉を総ざらいして定義し直さないといけないかもしれません。
と言う事で追記でした。
ありがとうございました。