お客様ニーズが見える ID-POS分析。
あなたは今、この記事の目次を見て「これを読む時間もないほど忙しい」と感じたかもしれません。その忙しさこそが、生産性向上を目指す上で解決すべき、最大の矛盾です。
多くの企業が追い求める「生産性」は、しばしば不必要なモノや手間を生み出す速度にすり替わってしまっています。その結果、あなたの会社には利益に繋がらないムダな業務が蔓延し、利益を生むための時間的な余裕(余力)が失われています。
ご安心ください。本稿は、あなたの努力を否定するものではありません。
むしろ、この「余力のなさ」こそが、ムダを徹底的に排除し、そのすべてを「真に価値を生む一握りの活動」に全振りする、超一流の「生産性の哲学」を組織に導入する、最大のチャンスなのです。
もちろん、私たちが超一流のプロと全く同じになる必要はありません。しかし、彼らが実践するこの哲学から、私たちの組織における「余力」の真の価値と、それを生み出す「やめるべきこと」を学ぶことはできます。
まず、私たちは立ち止まって問い直す必要があります。あなたの会社を立ち往生させている「仮定の誤り」とは何か?
このシンプルな問いかけが、やがてあなたの組織に大きな時間の余裕をもたらし、競合に差をつけ、お金を生み出すスピードにアクセルを踏み出す状態へシフトするための、最も確実な道筋となることをお約束します。
(本稿では平易性のために一貫して、「お金」や「儲け」という言葉を使いますが、これは顧客や社会のニーズに応えた結果、得られるものであることをご理解ください。)
以前、品揃えの絞り込み VS 豊富な品揃え の冒頭でも書かせていただいたように、対立に思える殆どの事象の背景には、仮定の誤り(あるいは言葉の定義の不一致)があります。
「品揃え」のケースでは、その「仮定の誤り」は売り手(「SKU」)と買い手(「ニーズ」)という立場の違いから生まれていました。それに対し、「生産性」という言葉がもたらす「仮定の誤り」は、物的生産性と付加価値生産性という二面性が、漠然と都合の良いように使われていることに起因します。この二つの生産性を簡単に言ってしまえば、前者が「モノを生み出すスピード」、後者が「お金を生み出すスピード」です。
近年「生産性」という言葉がかまびすしく叫ばれていますが、多くの企業が生産性という言葉を「モノを生み出すスピード」寄りに仮定しているようです。
不良在庫も生み出されたモノです。
お金を稼ぐ事を生業としている私達にとって重要なのは、あくまでも「お金を生み出すスピード」です。
次の図のAさんとBさんは、同じ生業を持つものとします。
Aさんは精力的にテキパキと働き、紙の資料をはじめとしたモノを生み出し続けています。Bさんはソファに座ってスマホを眺めています。
二人の前には山一つ分の同量のコインが置かれています。
これは二人の「お金を生み出すスピード」が同じである事※を示しています。
精力的にテキパキと働くAさん
スマホを眺めるBさん
※.モノを生み出すには経費が掛かります。また、多くのモノは在庫の増加、要らぬ炎上リスクの発生に繋がります。お金=儲けですので、実際には既にこの時点でBさんの方が生産的です。
次の図のBさんの前には、コインの山が四つ置かれています。
これは、スマホを眺めるBさんの「お金を生み出すスピード」が、精力的にテキパキと働いているAさんの四倍である事を示しています。
精力的にテキパキと働くAさん
スマホを眺めるBさん
勤労、それも目に見えるそれを美徳※と見る向きには、楽して儲けているように見えるBさんは受け入れ難いかもしれませんが、生産性を「お金を生み出すスピード」と定義した場合、その評価はプロセス(労働)ではなく結果(儲け)で決まります。ですから、単純にその定義から生産性を図示すれば、必然的にこの図のようになります。
実際、世界的な成果を挙げている『超一流のプロフェッショナル』の姿は、このBさん的な生産性の極端な例を鮮明に示しています。彼らが徹底しているのは、余力をムダな作業に一切使わず、そのすべてを「真に価値を生む一握りの活動」に全振りすることです。この「真に価値を生む活動」には、回復(睡眠など)といった生産性への投資だけが含まれており、それが彼らの「生産性の哲学」なのです。
あなたとあなたの組織は、この究極の哲学から何を学び、実践できるでしょうか?
※.顧客に貢献する気高さこそが美徳であって、忙しい事が美徳な訳ではありません。
少子化、ワークライフバランス、AI等、私たちを取り巻く世の中の流れ自体が、大なり小なりBさん的な生産性を志向していますし、選べるのであれば、あなた自身もBさんのように働きたいのではないでしょうか?
誤解を恐れずに言うならば、生産性を高めるという事は、あなたとあなたのチームが「如何に楽して儲ける状態に近付けるか」です。
図ではBさんが「楽して儲けている」ように見えますが、Bさんがこのような状態になれた裏には、Aさんには無い(場合によっては既存の市場に留まらない)「アイデア」とその生産があったはずです。また、仕事のお金は市場からしかもたらされませんので、そこには確実にAさん以上の市場からの評価があります。
ここまでの生産性の定義上、それが運であったのか、天賦の才であったのか、脳みそから汗をかくようにして絞り出したものなのかは、関係ありません。
しかし多くの場合、市場に評価されるアイデアを生み出し続けることは、それ自体が極めて困難な生産活動です。
いずれにせよ、Bさんが一つのアイデアにかまけ、余力を新たなアイデアの創造に使わなければ、いずれAさんのように勤勉な競合に模倣され、過当競争に陥ってしまうことでしょう。
過当競争、すなわち生み出すモノの価値が、市場から見て競争相手と大差ない、もしくは真似がし易い安直なものの場合、モノを生み出すスピードが(利益率の低下により)お金を生み出すスピードに近づき、(付加価値の競争よりも)物的生産性の競争が優勢を占めるようになります。
簡単に言ってしまえばこれは、物的生産性 ≒ 付加価値生産性という状況ですから、生産性という言葉を明確に区別できていない企業は過当競争下にあります。
そしてその根底には、過当競争から抜け出せないアイデアの欠如、もっと言えばビジネスモデルの浅薄さがあります。
過当競争に追われる事となったBさん
過当競争下でモノを生み出す事に追われるばかりでは、市場から見て競争相手との間に差を生み出す、競争相手にとって真似がし難いアイデアはいつまで経っても生まれません。過当競争を脱するアイデアを生み出すためには、大きな余力が必要なのです。
その意味では、生産性を高める事の本質は「余力を生み出す事」※と言えます。
※.解説は避けますが、TOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)の観点からすれば、物的生産性にすら余力は必要です。
「余力を生み出す事が本質」といっても、日々の「モノを生み出す事」に追われている現場では、その「余力」をどうやって最初に生み出せばよいのか?「言うは易し」ではないか、という反論もあるかと思います。
しかし、余力を生み出す方法自体は、驚くほど単純です。
まずは、あなたの会社、もしくはあなた個人の仕事を棚卸しして、大雑把に次の図の通り「お金を生み出す仕事」と、「法令を遵守するための仕事」、「どちらにも関係ない仕事」の3つに仕訳してみることです※。
※.具体的には、例えば「会議」がどれに分類されるのか?と考えるのでは無く、現に存在する幾つかの会議を「お金を生み出す会議」、「法令を遵守するための会議」、「どちらにも関係ない会議」に仕訳して下さい。
法人に必要な仕事の三分類
法令を遵守しつつ、お金を生み出すのが法人である以上、答えは明確です。
すなわち、「どちらにも関係ない仕事」を『やめる』ことです。次いで「法令遵守」への過剰な反応が無いかを確認し、それが認められれば、それもやめる対象となります。
「どちらにも関係ない仕事」は全て「やめる」べきではあるのですが、優先順位を付けるとするならば、 無理 > 無駄 の順です(無理を通せば人は辞めるか誤魔化します。誤魔化しを監視すれば無駄な仕事が増えます)。
たったそれだけでも、企業にはずいぶんな余力が生まれるはずです。
「人間は機嫌よく働いている時が最も生産性が高い」というのはよく言われる言葉です。売る人が売ることに、作る人が作ることに集中できれば、お金を生み出すスピードがより一層速くなるであろうことは言うまでもありません。
「お金を生み出す仕事」、「法令を遵守するための仕事」、「どちらにも関係ない仕事」を仕訳すること無く効率化を進めれば、やめるべき事を効率化し、コストをかけて存続させ続けるという茶番になるのですから、目も当てられません。
例えば、かつて隆盛を誇ったチェーンストアを思い浮かべてみてください。規模を拡大して仕入れ量を増やし、原価を下げることで「圧倒的な低価格で提供できる」事がチェーンストアのビジネスモデルのはずです。しかし、日本最大級のチェーンであっても「圧倒的という程安くない」という肌感覚を持ちませんでしたか?それは、前図でいうところの「どちらにも関係ない仕事」が肥大する事で、規模のメリットに対して、規模のデメリットが比例して増えてしまったからに他ならないのではないでしょうか?
私たちが目にして来た時代の寵児とも言える企業の凋落の原因の一端は、まさにここにあるのかもしれません。
完全に客観的な棚卸しをしていただければ実感できるかと思いますが、現に「どちらにも関係ない仕事」は存在しています。なぜそのような仕事が存在できるのかと言えば、それが「必要」だと信じられてきたからです。しかし、それこそが「仮定の誤り」なのです。
多くの場合、こうした「仮定の誤り」は、企業の成功体験に基づいた「フィロソフィー」と密接に紐付いています。チェーンストアで言えば、「価格破壊」「ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア」「ワンストップショッピング」「単品管理」「エブリディ・ロープライス」といった、仕訳の目すらも曇らせる企業の代名詞、必殺技たる自負を持ったフィロソフィーです。これらの強力なフィロソフィーが、いつしか思考を差し挟む余地のない組織の行動規範を醸成し、「仮定の誤り」を強固に支えているのです。
そして更にたちが悪いのは、そのような行動規範を持った、前図のAさんのように勤勉な社員がどの組織にも存在し、そのような社員ほど上層部から評価され、影響力を持つ立場になることです。その結果、彼らは、フィロソフィーをより徹底すべく、「手段が目的化している」ことに気付かないまま、「どちらにも関係ない仕事」をどんどん増やして行くという事態を招きます。そして、この「無理/無駄」な仕事の要求こそが、優秀な社員を「辞める」か「誤魔化す」かの道の選択へと追い込み、組織から「お金を生み出す力」を奪い去るのです。
そういった根深いフィロソフィーの少ない中小企業にこそ大手を出し抜くチャンスはあるはずですが、こういった“代名詞”、“必殺技”の形だけを模倣してしまい、みすみすそのチャンスを逃してしまっているケースも多く見受けられます(個人的には、例えば中小企業が在庫評価の方法を、税務に適い簡便な売価還元法から、極論監査法人の意向に過ぎない移動平均法に変えることが、「お金を生み出すスピード」にどの位影響しているのかを問いたいものです)。
往々にして最大の制約条件、本当の「言うは易し」はここにこそあります※。
※.ボトルネックの探索と特定という意味では、驚くほど簡単とも言えます。
成功者のフィロソフィーは、かつては「お金を生み出すアイデア」であったのかもしれません。
しかし、もしもそのフィロソフィーが、今現在、従業員の余力を奪い、「お金を生み出すスピード」の足枷となっていたならば、それこそが数々の「どちらにも関係ない仕事」の根っこ、「お金を生み出す仕事」「顧客貢献」への最大の制約条件です。
では、その「フィロソフィー」があなたの組織にどのような痕跡を残しているのか、客観的に見てみましょう。これらの痕跡を、本稿では冒頭から一貫して、利益を生まずに余力を奪うムダな「モノ」として、「不良在庫」を生産し続ける事と同じだと捉えています。
価値を生まない情報共有の肥大化: 意思決定に不要な「一応参加しておいた方がいい人」が多すぎる会議、またはメールのCCやチャットグループへの不必要な全体共有。(日常で最も多く遭遇する、質と量のムダ)
目的を失った会議の常態化: 議論自体が新しい価値を生んでいない数字合わせの調整会議や、形式的な情報報告に終始する会議。(ゼロサムの調整作業に費やされる時間)
グループウェアの個人スケジュールがギッシリ: 業務の成果とは無関係に、自身が多忙であることを見せるための予定や、余計な仕事の割り込みを防ぐための自己防衛的な予定でスケジュールが埋め尽くされている。(「忙しいこと=生産的」という誤ったパラダイム)
形式のための過剰な書類作成と報告: Excel提出物の多さは、ビジネスモデルがシンプルでなく、明確に定まっていない乱雑な状態を示唆。過度に細かい書類やレポートは、本当に見られているか定かではないにもかかわらず作成が義務付けられ、作成者と閲覧者の双方が不毛な時間を浪費している。(不明瞭なビジネスモデルと無責任な書類の生産)
自前主義と過剰な資産所有: 外部の効率的な共有サービスやアウトソーシングを避け、機器や情報システム、在庫などを自前で過剰に保有し、管理コストと社員の余力を無駄に消費している。(「持ちたがり」が生む構造的なムダ)
過剰な承認フロー: 承認者が多すぎる、または承認フローが複雑すぎ、決裁に時間がかかる。(決裁スピードを殺す、組織の「自己保身」)
マニュアル・ルールブックの肥大化と過度なポリシー: 例外処理が許されない硬直したプロセスになっている。過度に厳格なセキュリティポリシーなどは、守るべきものとそうでないものを区別せず、本来の業務のスピードと余力を奪っている。(硬直したプロセスとルールのムダ)
ミスの増加と自己防衛的なチェック作業: 余力のない状態でのミスの多発が、過剰チェックを生み出し、さらに余力を奪ってミスを誘発している。(「忙しさ」を加速させる悪循環の入口)
「受注ヒーロー」の弊害: 自己顕示的な動機や短期的な実績(受注)を優先し、「お客様が言っているから」等と、現場の手が届かぬ第三者へ安易に責任転嫁し、無理な要求や非効率な条件を飲むことで、製造・提供プロセス全体に非効率と過剰な負荷(忙しさ)を残す。(自己顕示と短期的な成果による、組織全体への負荷の転嫁)
内向きな評価: 目標設定が「売上(お金を生み出す結果)」ではなく、「〇〇の実施件数」など「手段」の達成度になっている。(「手段の目的化」の最たる原因)
見栄えのための活動とフリーライド: 顧客貢献に直結しない対外的な見栄えを重視したイベントや活動にリソースを投入。あるいは、業界の共通資産への貢献を怠り、自社の独善的な利益を追求している。(見栄と独善のムダ)
教育研修への依存・丸投げ: ビジネスモデルの失敗や、余力のなさから来るミスの増加といった構造的な課題を、個人の成長や責任に委ねて教育研修に丸投げしている。この研修参加が、余力を奪い、かえってミスを増やす原因となっている。(構造的な失敗を個人責任に転嫁)
離職者の多さ: 「無理」な業務が常態化し人が辞めることで、残された社員の負荷とミスの増加という悪循環を生み、組織の余力を根幹から奪っている。(最終的な人的コストと組織崩壊)
働く仲間のみなさまへ
私たちは何のために働いているのか?
「仮定の誤り」から抜け出すことで得られる大切な余力を、再び13のリストにあるような「どちらにも関係ない仕事」に消費しないよう、共に注意深くありましょう。その余力は、単なる「空いた時間」ではありません。超一流のプロの極限まで突き詰めた哲学が示すように、余力とは、最高の集中力と結果を生むための、組織における最も貴重な「リソース(資源)」なのです。
この余力を、競合に差をつけ、お金を生み出すスピードにアクセルを踏み出すことへと思う存分向けましょう。
『忙しい』『難しい』『人がいない』といった制約条件を取り払うための最初のミッションは、あなた自身で、次の行動を決めることから始まります。
私たちが提供する小売業さま向けID-POS意思決定支援クラウドサービスBiZOOPeは、「市場のニーズに応える」事で競争相手との間に差を生み出す、まさに「お金を生み出す」ことに特化したツールです。
『忙しい』『難しい』『人がいない』という理由で、ID-POS分析をできないと考える企業には、到底実行不可能な「競争相手にとって真似がし難い」という、うってつけの特性も備えています(「市場のニーズに応える」事が「競争相手にとって真似がし難い」とは、小売業にとって皮肉な事ですが…)。
余力を生み出すアイデアである「本稿」と、お金を生み出すアイデアである「BiZOOPe」の組み合わせによる生産性向上という私たちのご提案に「仮定の誤り」は無いでしょうか?もしよろしければ、ぜひ皆様の職場で“査読”していただき、共に次のミッションへと軽やかに移行していきましょう!