やりがいのない「忙しさ」を捨て、「商い」に調和を生む
高い/安いといった顧客の認知は、他店や例年との比較による相対的なものです。
また、顧客は自分が関心があるモノについては、高い/安いと認知しますが、関心がないモノについては、文字通り無関心であり、認知しません。
一方で、誰がどの商品に関心があるかは、実に十人十色です。
多くの顧客が共通して関心を持つものが、俗に言う「売れ筋」ですから、これは高い/安いの比較対象にされやすい商品です。
一方で如何な「売れ筋」であっても、単品レベルで「共通した関心」を持つ人は10%程度に過ぎず、その関心のバラバラさ具合が伺えます。しかも、10%中の50%超の顧客が、年一回しかその商品を買わない程度の関心しかないのです。
実際調べてみると、顧客のカゴの中の10品中、「売れ筋」と言えるような商品は、2〜3品しか含まれていません。
そう考えると「売れ筋」こそ、最大公約数的「ついで買い」なのかもしれません。
このように顧客のカゴの中身とその関心は、決して売れ筋一辺倒で均一なものではなく、実に「まだら」です。ここに小売業の、単品個々に独立して考えることのできない「値入は経営」の難しさがあります。
安さを認知させながら、バスケット全体としてどう粗利を稼ぐか?
小売業の売価政策は安さ一辺倒ではなく、この「まだらなネットワーク」の中に、グラデーションを描く必要があるのです。
ここではこの「まだらなネットワーク」を可視化し、買い物のネットワークの「ハブ」と「ポート」をあぶり出す、BiZOOPe の 『ニーズの見える化(シン・Tapir−1.0) 』を使った、売価設定/値決めの考え方について記します。
顧客はそれぞれ別の目的をもって売り場を訪れます。それが図の「目的範囲(くらしのスタイル)」で、他との非併買(無関心)の卓越から、この範囲が計算されています。
同じような目的をもった顧客の中でも「どの中から選択するか?」は異なります。それが図の「選択範囲(選択肢の束)」で、具体的には選択肢相互の併買が、平均以上の範囲です(関心の集中する束)。
各部門の各カテゴリーにこのような範囲/束があり、顧客はその束の組み合わせによって、自身の買い物のネットワークを形成しています。どんな束を組み合わせるかは千変万化ですが、各カテゴリーの中にこのような「選択肢の束」があることは、明確です。
※.図は「AIエージェント」⇨「目的範囲・選択範囲のニーズ要約」から、ニーズ名を推論、要約済のもの。表外のものも含めて7つの目的範囲と、その配下の147の選択範囲から形成されています(このカテゴリーの総SKU数は391)。
「選択範囲」は、買い物ネットワークの「ハブ」と言えるものですが、その中でも最も多くの顧客が流入する「ポート」があります。それは確率的に、そのハブを通る最も多くの人に「安いものがある」と認識させ得るポートであり、そのハブのポート群の中で、最も代替性の高いポートでもあります。
各部門、各カテゴリーがこのようなポートを押さえておけば、顧客はその買い物の中で、ほぼ必ずいずれかのポートを通りますので、そのような商品に「重点レコメンド」を振っています(ネットワークの確率論)。
「目的範囲」というネットワークを代表するポートには1st、「選択範囲」というハブを代表するポートには2ndという重点レコメンドが振られています。
図の列見出し「採用順」をクリックして昇順に並び替えると、各ポートがそのネットワークにおける重要度順に並び替わり、表の上の方に重点レコメンドが付いた商品が固まります。
採用順はその、他の選択肢との間の非代替性(そこしか通らない)と、そこに流入する人の多さから計算されています。
よって、単なる売れ筋順や人数順ではなく、買い物のネットワークにとって重要な、文字通り「まだら」な商品の順位を形成します。
ご覧の通りの「まだらさ」ですが、さしもの『ニーズの見える化 』でも、「マーケットを1つ」と見た時の最多数利用商品である「採用順1位」には必ず、「マーケットを1つ」としか見ていない他店同様の、所謂「売れ筋商品」が選抜されて来ます。
よって採用順が若い商品、特に採用順1位の商品については、値入に依らず「他店価格に合わせる」ことを考えても良いかもしれません。
一方でそれ以降の採用順の商品については、他店の価格調査員が「なぜこれをこの価格で?」という商品が出てきますが、そここそが狙い目です。
彼らには「買い物ネットワーク」の「ハブ」も「ポート」も見えていないのですから。
以上のことから、顧客のまだらな買い物ネットワークに対して、同じくまだらな重点レコメンド1stは「激安で客寄せ」、2ndは「来店動機が安い」、レコメンドなしは「普通=粗利ミックス」といった、グラデーションを付けた価格政策で対応して行きます。
突然ですが、私たち人間の「認知能力」は、売価の末尾数値によって「安い」と感じてしまう程、あるいは意識せずにカゴに入れてしまう程、自分が考えている以上に脆弱なものです。
そうであるならば、身を削る以前に極力認知のハック(認知の手品)に努めたいものです。
この例では、売り場の末尾数値をすべて「8」で揃える認知ハックを適用しています。
また、ルールとして「税抜価格」、「値入マイナスはなし」を前提条件とします。
※.認知ハックについて興味のある方は、【考察!売価設定】棚札ハックと、スーパー&ドラッグの「値決めは経営」 をご覧ください。
重点レコメンドによる値入グラデーションの考え方については、以下の表のとおりです。
そう考えると、ハブのポート(品揃え)を「重点レコメンド」だけに絞り込んで仕入を増やし、原価低減を図った方が良いのではないか?とお考えになられる方もいらっしゃると思いますが、以下の3つの事由から「選択範囲(ニーズ)」中の選択肢数は、最低限「2」(重点レコメンドの有無で1SKUずつ)を確保した方がベターです。
顧客に買い物における、「選択」という行為を最低限担保するため
2つの選択肢が相互に、欠品時の「バッファ」として機能するため
本稿解説の通り、「粗利ミックス」として機能させるため
他店と相対的に比較不可能なものについては、「その店でしか手に入らない」のですから、余程脚端な価格でない限り「プライスレス」ですし、来店動機となり得るものです。
分析メニュー『ニーズの見える化 』の、以降で使った設定の早見表です。
冒頭の設定から、顧客接点を「プライスライン」に、オプション>プライスラインを「1円単位」としたものになります。
分析条件についてはID-POS分析の勘所 に準じます。
※.網掛けは特段の意図の無い限り、デフォルトから変更する必要のない設定です。
下図は「珍味・豆菓子」の価格に対する顧客ニーズを表すものです。
図中の選択範囲f2_n18に顕著なように、「選択肢の束」はプライスラインやプライスゾーンを為すわけではありません。
これは顧客が何よりも第一に、「商品」を選択しているためです。
とは言え、列見出し「採用順」で昇順に並び替えれば、顧客にとっての優先的「プライスポイント」が分かりますので、売価設定/値決めの参考にしていただけるかもしれません。
以上、売価設定(値入)の技術と実務についてでした。