” ニーズが見える ” ID-POS分析
ID-POSの教科書 をリニューアルした際に”点”の顧客分割の例として年代、顧客ランクを挙げましたが、データの見方を書いていなかった為、教えて欲しいというご要望を頂きました。
企業がお金を儲け続ける事が究極の目的である為、明示的で無い限りデータには企業計を用い、徒然なるままに書いてみたいと思います。
※.以降のデータにおいて年代未登録顧客は合計に対して計上されていますが、表示上は非表示とさせて頂いています。
年代の見方で面白いのは、それを生活史的に解釈する見方です。
図は前年代よりも構成比が大きい場合を青フォント、小さい場合を赤フォントとし、平均を超える構成比を太字にしてあります。
2019年のデータである事もあり当時40代の団塊Jr.が構成比のピークとなりますが、一般的なスーパーマーケットやドラッグストアの利用者が歳を経る毎に徐々に増えて行き、徐々にピークアウトして行くのは、人口動態とフォーマットの両面で妥当な事のように思われます。
図ではピークアウトして尚50代、60代の構成比が平均を上回っていますので、マス政策の場合、お店は自然と平均超の40〜60代のニーズに寄ったものとなります。
仮にそれが中間の50代のニーズに最も近しいものであったとすると、ピーク年代の40代含め、年代が50代から離れれば離れる程、自分たちのニーズから外れた店に見えてしまいます。
これがマス政策の弱点ではありますが、顧客を絞り込まない分、マイルドな政策に落ち着きます。
ここでは先の年代を引き継いだまま生活史的に顧客ランクを見て行きます。同じく2019年のデータを使用しています。
先の利用ID数のピークは40代でしたが、ロイヤル顧客が占める割合のピークは、一般的に40代より可処分所得が少ないであろう30代である事が分かります。
ここを境に一般的なスーパーマーケットやドラッグストアに向けた個人消費は減少に向かうという事です。
確かに我が身に振り返ってみれば、30代のゴミ出し時には二袋がパンパンだったものが、子ども全員が巣立った50代の今ではスカスカの一袋です。
30代の私は可処分所得に関わらずロイヤルたらざるを得ない状況にあり、今の私は可処分所得に関わらずロイヤルたり得ない状況にあります(プロスペクティブ?期待しないで!w)。
可処分所得含め、折々の私的状況に最も適ったお店にお世話になって来ましたので、前図こそ一つのお店の中での顧客の成長記録のように見えますが、30代時の利用店舗から見れば、勝手にロイヤル顧客に成長し、特段不満がある訳でも無く40代で離反顧客としてランク外に退場しています。
案外個々の顧客とはそういうもので、生活史に関わらず10年来のお付き合いという顧客の方が稀なのかもしれません(その前に”売り物”の方が変わってしまう可能性が高いですし、データが無いので検証のしようもありませんが、今のところ年率約10%で顧客は失われていますので、単純換算すれば10年で100%です)。
そう考えると顧客育成や離反防止よりも、生活史的にロイヤルたらざるを得ない状況下にある30代を、常時獲得して来ちゃった方が良いのでは?という発想が浮かんで来ます。
ID-POS分析の禁忌「自分がそうだからと言って他人もそうだと思ってはいけない」の通り、30代全員が結婚して子を持つ訳では無い上、時流が変化する中それだけがロイヤルたらざるを得ない唯一の状況ではありませんし、20代、40代にも同じ状況にある人は居ます。
” 30代 = ロイヤルたらざるを得ない状況にある”を真とするならば、顧客は併買をしますから、ロイヤル以外の30代は他店のロイヤルか、掛け持ちでロイヤル的消費をしている顧客です。
年代や顧客ランクは個々の顧客が直面している状況やニーズそのものではありません。
実際のところ「30代をどうするか?」「ロイヤルをどうするか?」よりも、「顧客が生活史の中で直面するであろう主たる状況を理解し、如何にその状況を楽にし、ニーズに応えるか?」「どのマーケットをどうするか?」が必要とされる発想、マーケティング発想なのでしょう。
とは言え年代やランクがこのように顧客の生活史、折々の置かれた状況をデフォルメし、思いに至らせてくれる事は確かです。
思いをPOPに乗せ、売り場演出を主利用年代に合わせる事もできるでしょう。
顧客が直面する状況を改善しニーズに応えようとした政策の結果、現に30代のロイヤル顧客が増えたのであれば、それは仮説を強化します。
ロイヤルたらざるを得ないような状況やニーズが、年代やランクからの類推では無く、ダイレクトに知れればそれに越した事はありません。
それもマーケットサイズの飛び切り大きな状況やニーズを幾つか見繕えれば最高です。
何でもかんでも最後はTapir推しなのがこのホームページの悪い癖なのですが、多くの顧客が置かれた状況とニーズが、Tapirならこのように見えますよという話で〆させて頂きます。
図は30代のロイヤル顧客が特徴的に利用している部門「ベビー・シルバー」の小分類をTapirの分析※にかけたものです。seg_fが顧客の置かれた状況、seg_nがニーズ、小分類が具体的なニーズで、中でもレコメンドが付いた小分類が各状況とニーズを代表するものです。
※.”点”では無く”面”の分割、顧客分割では無くマーケット分割。
年代を付加する事で、状況をより生々しく感じ取る事もできます。
いづれかの状況(seg_f = f1 or f2 or f3)において顧客が自店を選ばざるを得ない程に特化していたならば、或いは状況やニーズを代表する小分類が他に目を瞑ってでも利用したくなるような内容であったならば、最低限状況とニーズに沿って売り場がゾーニングされていたならば、年代もランクも横串にして、該当する状況に直面する顧客に寄り添った売り場となります。
さて、どれだけ寄り添ったとしても状況が変わればニーズも変わる為、子育て/介護が終わった人たちを、ベビー・シルバーの売り場に留めておく事は、常識的にはできません。
出来るのは、新たにその状況と出会う顧客に寄り添い続ける事だけです。
当たり前の事ですが、これはよりコモディティーな部門や、店舗そのものにとっても決して例外ではありません。
顧客の生活史の中には子育て/介護が終わったら?の他にも、世帯人数が変わったら?嗜好が変わったら?収入が変わったら?と私たちのコントロール下にない私的状況の変化、ニーズの変化が必ずあります。
多くの人の生活史に訪れるであろう折々の状況に寄り添い、その状況に身をおいた際のニーズを的確に理解した売り場を、各部門備える事が大事です。
まとめます。
それぞれ違う人生を歩んでいる顧客を類型化する事で一般的な生活史を垣間見せてくれるのが顧客分割です。
単一の接点=”点”を分割する事で、その”点”に関する拡大解釈を行います。
人生の折々で顧客が直面する状況やニーズを類型化するのがマーケット・セグメンテーションです。
相互に関係する複数の接点間の関係=”場”を分割する事で、その”場”に関する拡大解釈を行います。