” ニーズが見える ” ID-POS分析
お客さまから「顧客の利用カテゴリ数を増やしたい」というお題を頂きましたが、前回記事(LTV(ライフタイムバリュー)ライフタイムと政策の研究)から個人的にずっと引っ掛かり続けていたのが、店舗利用/売り場利用の”崖”の存在です。
以降簡単の為、カテゴリを「売り場」に置き換えて、崖と売り場の横断利用について考察を進めさせて頂きます。
「ある月のベビー・シルバー売り場利用者」という母集団があった時、流入が無いという性質上、育児/介護の終了や引っ越し等の流出によって、母集団は必ず減耗して行きます。
時系列でゆるやかに減耗が進んで行く事が想像されますが、現実には図のように店舗利用にも売り場利用にも、利用翌月にいきなり不自然な落ち込みが存在しており、それを”崖”と呼んでいます。
どの月、どの売り場利用者を母集団としても、利用翌月には必ず崖が現れます。
崖以降はほぼ線形に近い減耗が見られる為、これを自然減耗と捉える事ができます。
崖が存在し無ければ、崖の直上から自然減耗がスタートしますので、崖の改善こそがスーパー、ドラッグが売上を飛躍的に上げる為の鍵ではないか?と考えています。
※.詳細はLTV(ライフタイムバリュー)ライフタイムと政策の研究 をご参照下さい。
では、何故崖が存在するのでしょうか?
基本的には流入して来た新規の利用者を、店舗/売り場がキープ出来ていない為だと考えられます。
新規に利用したものの店舗が自分のニーズにマッチせず、ほぼ未利用化する顧客が自然減耗分※1も含めて毎月約13%、売り場が自分のニーズにマッチせず、ほぼ未利用化する顧客が自然減耗分※1も含めて毎月約33%発生しています。
ベビー・シルバーで言えば、新たに子育て/介護を始めた人達のニーズを売り場が受け止めきれていない = 市場の変化に売り場がついて行けていないという事です。
崖から落ちなかった人=ニーズにマッチしキープできた人の割合をニーズマッチ率とするならば、図の100%−13%=87%が店舗のニーズマッチ率、店舗の継続利用者に占める売り場の継続利用者の割合※2 = 54% ÷87%=62%が売り場のニーズマッチ率です。
※1.このグラフの場合、店舗で約1%、売り場で約3%が自然減耗にあたります。
※2.店舗の未利用化が必ずしも当該売り場由来であるとは限らない為。
ニーズにマッチする確率が低い売り場の横断利用をお勧めして、政策の歩留まりはどうなのか?利用売り場数が増えても、利用したという事実だけ残して翌月には崖から落ちてしまっているのでは無いか?この疑問が今回考察のきっかけです。
まずは顧客に横断利用を勧めるにあたって、どの売り場がお勧めに適しているのか、各売り場のニーズマッチ率を計算してみます。
今回は売り場横断という事で、売り場特性によるID回数(利用頻度)の差を吸収する為に、崖の前後を全ての売り場を1度は利用するスパン(3ヶ月)で揃えてみました。
当初3ヶ月内に売り場を一度でも利用した顧客が、そこに少しでもニーズを感じたならば、次の3ヶ月内にも一度位は利用する筈だという寸法です。
※.図は全店集計ですが、個店で分析してみると店舗のニーズマッチ率が50%台になってしまいました。チェーン内での相互利用がかなりありそうですので、このような分析は個店よりもドミナント単位で行ったほうが良いかもしれません。ドミナントの定義についてはID-POSでドミナント戦略? をご参照下さい。
店舗のニーズマッチ率は売り場計で85%(赤フォント)※でした。
その下の各売り場利用者を母集団とした店舗のニーズマッチ率も軒並み89%以上であり、当初の売り場にニーズアンマッチがあったとしても、別の売り場にニーズを認め、3ヶ月に一度以上の店舗利用を続ける顧客は意外に多いという事です。
※.全ての顧客ニーズに応える事は不可能ですし、競合もある中、自然減耗を含んでの85%は、ニーズマッチ率の一つの目安になると言えそうですが、集計スパンが1ヶ月の場合は80%となります。業態や売り場が本来どの位の頻度で利用されるべきかによって、集計スパンと基準を変えた方がベターです。
図では売り場のニーズマッチ率が店舗のニーズマッチ率以上の場合を”◯”、店舗全体のニーズマッチ率である85%以上の場合を”△”、いづれでも無い場合を”✕”で評価してみました。
軒並みID回数が低い売り場に厳しい評価となりましたが、利用頻度も含めて幅広い未利用者に自信を持って横断利用をお勧めできそうな売り場は◯印の日雑、一般食品という事になります。
一般食品売り場のニーズマッチ率90%は全売り場中トップですが、あくまでも一般食品売り場の利用者にとってのマッチ率です。
店舗利用者の中には一般食品売り場にニーズを感じず、敢えて利用を避けている顧客も居る筈ですから、未利用者のニーズの90%にマッチする訳ではありません。
しかし目的は売り場の崖の改善では無く、顧客の利用売り場数を増やす事にありますから、現状の売り場をそのままお勧めして利用してくれそうな未利用者に対して、利用をお勧めしたい訳です。
そこでニーズマッチ率が近くなりそうな売り場利用者を探るべく、各売り場を相互の利用/未利用の傾向から親和性の高い来店目的となっているグループと、その中でも特に買い回られているグループにTapirを使って分けてみました。
図からは顧客の来店目的がざっくりと f1=薬粧系と f2=食品系に分かれている事が分かります(当然全員の来店目的が完全に二分される訳では無く、双方に来店目的がある人は、双方にID数がカウントされています)。
顧客の来店目的、ニーズが異なるのですから、一般食品であれば同じ来店目的のグループf2内の未利用者に利用をお勧めした方が、親和性は高いと言えます。
日雑であれば更に平均以上に買い回りされているグループであるf1_n1内の未利用者に利用をお勧めした方が、親和性は高いと言えます。
関連順は特にグループ内で、隣り合っているもの同士程併買されている事を示す数値ですので、グループ内で隣り合っている売り場の利用者にお勧めした方が、親和性は高くなります。
歩留まりを考え、ニーズ充足率の高い◯の売り場の利用をお勧めするものとすれば、ターゲットは以下となります。
【日雑をお勧めする場合】
酒・みりん利用者 < 買い回りグループf1_n1利用者 < 来店目的グループf1利用者
【一般食品をお勧めする場合】
来店目的グループf2利用者※
※.日配食品、一般食品、ベビー・シルバーについては、買い回らずに単独利用する顧客も多い、独立性の高い売り場と考えられます。とは言えこれらの売り場は同一来店目的グループではある為、個人的には食品スーパーは、ベビーを強化しても良いのでは無いか?という印象を受けました。
横断利用が無い原因がニーズのアンマッチでは無く、目的とする売り場同士や、買い回られるべき売り場同士が離れている事で、気付きにくい/億劫だといったケースも考えられますので、マーチャンダイジング的には売り場を来店目的や買い回りに合わせてゾーニングしたり、関連順で並べるというのも手です。
その際にはニーズマッチ率の高い売り場をマグネットに用います。
当初より各売り場がそれぞれに高いニーズマッチ率を持っていれば、お勧めする迄も無く、顧客の横断利用売り場数も多くなっていた気もしますが、業態としての各売り場の整合性、売り場面積のような制約条件もありますから、特にニーズマッチ率を高めるべき重点売り場を知っておく必要があります。
Tapirのレコメンドは、来店目的の柱となっている売り場に1st、買い回りの柱となっている売り場に2ndを振りますので、来店、買い回りの柱でありながら、ニーズに対して応え切れていない売り場が、他の売り場の利用をも左右する重点売り場と考えられます。
今回は化粧品売り場とベビー・シルバー売り場が重点売り場と判定されました。
中でも利用ID数が多く、f1_n2という買い回りグループ全体に影響を及ぼす化粧品売り場は、最重点売り場と言えます(売り手視点では高粗利の売り場がグループ内に含まれているという意味でも)。
参考までに重点売り場に対し、現状比でどの位品揃えを増やせば良いのか、或いはコストを掛ければ良いのかの目安として、売り場のニーズマッチ率が店舗のニーズマッチ率と同等(◯)となる倍率を計算してみたのが図の現状比注力倍率です。
化粧品売り場で現状の1.1倍、ベビー・シルバー売り場で現状の1.4倍というのが注力の目安となります(売り場面積についてはフェイシング数や商品サイズの違いがありますから、この限りではありません)。
図の売り場の利用ID数は約46%の顧客の毎月の流入、流出があって維持されています。
この流入出の主たる原因はニーズのアンマッチにあると考えられます。
流出した顧客の状況・ニーズと、継続利用している顧客の状況・ニーズは明らかに異なります。
強い小売業と、弱い小売業の差は、このニーズアンマッチの歩留まりの差にあると考えられます。
ニーズアンマッチの歩留まりを解消する事で、売り場を利用するID数は大きく跳ね上がる事が予想されます。
⇨ 売り場は市場のニーズにできるだけ応えなくてはなりません。
私たちはつい何時もと同じような顧客が、何時もと同じように買い物をしている定常的な店内をイメージし勝ちですが、グラフの左端で育児/介護を開始し流入した顧客と、グラフの右端で育児/介護を開始し流入した顧客では異なる状況・ニーズを持っています。
グラフの左端で流入し、今尚育児/介護を継続している顧客でも、当時置かれた状況・ニーズと現在の状況・ニーズは異なっている筈です。
流出か継続かの判断は、正に顧客が”今”売り場を見渡した瞬間に行われている事なのです。
⇨ 売り場は変化して行く”今”この瞬間の市場ニーズにできるだけ応え続けて行かなくてはなりません。
ID-POS分析ではロイヤル化、若年層の利用増、売り場を越えてプラス一品、リピートと、ともすれば顧客を変える事に目を向けてしまい勝ちですが、それらは各売り場がニーズに応え続けた結果得られるものであるというのが基本的な考え方では無いかと私は思います。
強いて変えるべきは顧客では無く売り場であり、その前に顧客を変えようと考えてしまい勝ちな私たち自身の価値観です。
安心して下さい。
ID-POSデータを持たない企業は、売り場の顧客のニーズすら分かっていないでしょうし、ID-POSデータはあっても自らの価値観を変えない企業は、顧客を変える事に執心し続ける事でしょうから。
BiZOOPeを携えて、気高く、強く、一筋に。