” ニーズが見える ” ID-POS分析
年代、ランク、トライアル/リピート、ブランドスイッチ、併買と言ったID-POSの分析は全て顧客分割を利用しています。
ここでは所々でPOSとの比較を交えながら、まず顧客分割を可能としているID-POSの売上方程式について解説した後、 ”点”の分割 、 ”線”の分割 といった顧客分割の違いと、簡単な用途について解説して行きます。
最後までお読み頂く事で、それらの帰結としてまだ余り知られていない ”場”の分割 に至る迄がご理解頂ける趣向となっています。(2024年10月18日全面改訂)
分析、分割以前のより初歩的な情報が必要な方は、必要に応じて下記リンク先をご覧ください。
POSの売上方程式
売上を増やす為には、その根源となる量を増やす必要があります。データの粒度次第ではありますが、POS分析で得られる量には売上、点数と、レシート枚数を勘定する事によって得られる客数の最大3つがあります。
それらを組み合わせる事で、図のような平均値を伴った式を得る事ができます。
売上 = 点単価 ✕ 客点数 ✕ 客数
この式からは私たちが奪い合っている根源となる量、戦う河岸を変えるのでも無い限り唯一減らしてはならない量は客数であり、根本的に客数を増やさない限り売上は増えないという事が分かります。
残りの平均値は顧客の買い方を表しますので、政策の結果としてどのような買い方の顧客が増えた/減ったのかを類推する事ができます。
ID-POSの売上方程式
精算時に会員カードをスキャンして顧客IDをレシート明細に付加する事で、第四の量であるID数を得る事が出来ます。
従来からの量である売上、点数、客数と組み合わせると、図のような平均値を伴った式が得られます。
売上 = 点単価 ✕ 客点数 ✕ ID回数 ✕ ID数
この式からは私たちが奪い合っている根源となる量、戦う河岸を変えるのでも無い限り唯一減らしてはならない量はID数であり、根本的にID数を増やさない限り客数も、売上も増えないという事が分かります。
方程式そのものをこれ以上分解する事は不可能な為、ID数は真の根源量と言えます。
ID数が分かる事がID-POSが決定的にPOSに勝るメリットの一つです。
※.ID数の重要性について疑義を感じる方は、ID-POSの基本指標:ID数とID回数 もご覧ください。
新たに算出されたID回数(客数 ÷ ID数)という平均値は第三の買い方であり、利用頻度にあたります。
例えばPOS分析の平均単価=ケース買い、客点数=まとめ買いとするならば、POS分析に欠けていたID回数=頻度買いという3つの買い方を網羅できるのがID-POS分析です。
要は顧客の買い方(平均値)に介入するのでは無く、それぞれの買い方の顧客の満足度を高める事によって、あるいは特定の買い方の顧客にとって満足度No.1の存在になる事によって、顧客そのものを増やすべきだという事です。
これがID数を重視すべき理由であり、顧客分割を行う理由です。
先にID-POSの方程式そのものをこれ以上分解する事は不可能と書きましたが、どの売上方程式も店舗で分割したり、部門で分割したり、単品で分割して用いる事はできます。日や曜日、プライスライン等で分割する場合もあります。
これら分割のキーは広義の商品(売りもの)ですから、これらを一括りに商品分割と呼びます。
それもあり以降本項では、日も店も部門も単品もまとめて商品と書かせて頂きます。
ID-POSでは顧客IDによって、商品分割に加えて顧客分割が可能となります。
顧客分割には現状大きく、”点”の分割と、”線”の分割があります。
”点”の分割は、個々の商品と顧客との接点を分割するもので、多くは顧客を分割するものです。
”線”の分割は、顧客によって異なる二つの商品間との関係=”線”を分割するもので、顧客が分割を選択するものです。
”点”の分割には、属性分割、ランク分割、利用行動分割(比較対象黙示)があります。
属性分割
属性分割は、顧客マスタに付随する年代や性別で顧客を分割する方法です。
例えば年代分析の場合、50代且つその他という顧客は存在しない為、各年代のID数の総和は、合計行のID数に一致します。
BiZOOPe|Monkey(顧客セグメント×KPI)の年代分割の例。年代は個人情報保護委員会の例示に則っています。
ランク分割
ランク分割は企業に対する貢献度で顧客を分割する方法です。
ランク分けにおいてロイヤル且つランク外という顧客は存在しない為、各ランクのID数の総和は合計行のID数に一致します。
BiZOOPe|Monkey(顧客セグメント×KPI)のランク分割の例。13週集計によるMFランク。
※.年代、ランクに興味のある方は 年代、顧客ランク/生活史の中の状況とニーズ もどうぞ。
利用行動分割(比較対象黙示)
代表的な分析がトライアル/リピートです。
図では月単位で単品の購入者を再購入、初購入、未購入の3つの利用行動に分割していますが、再購入かつ未購入という顧客は存在しない為、月毎の各利用行動のID数の総和は合計行である購入者のID数に一致します。
ID-POSが決定的にPOSに勝るメリットのもう一つは利用行動が分かる事であり、顧客の実際の利用行動に応じた手を打つ事ができます。
BiZOOPe|Lion(リピート推移)の集計結果。
再購入、初購入、未購入は顧客が選択した利用行動ですが、この分析の目的は各商品のトライアルを増やす/リピートを増やすといった”点”の中で完結しています。
初購入のままの顧客や未購入となった顧客のその後の選択 = 行き先の”点”を明示する事、点と点を結んで利用行動を”線”として捉える事は、これらの分析の主題の外にあります。
まとめ:”点”の分割
商品の顧客分割は”点”の世界の分割で、対象とする商品単体の政策に用いられます。
何人に売れたか?=ID数が、商品の特徴や重点的に手を打つべき分割を際立たせます。
利用行動分割(比較対象明示)
顧客の選択が向かった対象を”線”で結んで明示する分析の一つがブランドスイッチ分析で、併買分析の亜種にあたります。
簡単の為、ここでは原種である併買分析を例に解説します。
POS分析では併買の内、レシート内単品の同時併買しか掴めませんでしたが、ID-POS分析では併買=双方利用、非併買=片方未利用という本質的な利用行動を網羅する事ができます。
BiZOOPe|Anemonefish(商品併買)による、商品(自) = 明治R-1と比較対象(商品(相))の併買分析結果。
図の「森永アロエヨーグルト」の行に着目してみると、自+相はR-1(自)とアロエヨーグルト(相)の二つの商品からなるマーケットへの参加者で、以降の列はその内訳です。
自顧客中非併買の31,644人は、アロエヨーグルトと接点を持た無い非選択利用顧客です。
双方の共通顧客は同時に買った事のある顧客と、非同時に買った事のある選択利用顧客に分かれます(選択利用顧客の最終利用が自/相のどちらだったか?がブランドスイッチ分析です)。
相顧客中非併買の2,057人は、R-1と接点を持た無い、非選択利用顧客です。
同時併買政策を採るのであれば、同時併買ID数が多く、非同時併買ID数よりも同時併買ID数の多い自+相の組み合わせを選びます。
組み合わせを選んだら、自の非併買ID数と相の非併買ID数を比較します。政策展開場所及びターゲットとして想起する顧客は、この非併買ID数の多い方となります。
まとめ:”線”の分割
比較対象との関係性を加える事で、二つの商品間に”線”の世界が生まれました。
これによってID-POSはクロスMDのような、売り場政策にも使えるようになります。
POS分析に比較し、全ての利用行動を網羅できますので、より具体的な政策立案が可能です。
”点”の分割と”線”の分割、ここまでが多くのID-POS分析の現状の到達点です。
”点”の分割にはクーポン販促位しか打つ手が無いように思われます。単品で言ってしまえば一品政策ですし、顧客分割できる事が却って政策の矮小化を助長しかねません。
”線”の分割に至ってはじめて売り場政策に適用できるようになりますが、これも単品で言ってしまえば二品政策ですし、単品に限定すればPOS分析でも”線”が引けない訳ではありません。
これがID-POSがしょぼく思えてしまう原因、POSで充分では?と思えてしまう原因なのですが、実はこの”線”の発見だけは小売業の分析の歴史上、革命的な出来事なのです。
私たちが現実的に取り扱う事の多いマーケットは、”点” や ”線”を超え、複数の商品が顧客を取り囲んだ”面”、文字通り売り”場”です。
”場”と言ってもその基本単位は図のように二商品間を結ぶ”線”に過ぎません。
ここまで読んで頂いた方にとってこの”線”は、併買分析で既知のものです。
図の商品間を結ぶ”線”は、商品同士の関係性次第で長さが変わって来る筈です。
改めて”線”の分割を振り返ってみましょう。
マーケット内において選択的利用顧客が多い二品の組み合わせ程、ライフスタイルや利用メリットとしての顧客から見た場合の関係性は相対的により近い筈です。
逆に言えば、非選択的利用顧客が多い二品の組み合わせ程、ライフスタイルや利用メリットとしての顧客から見た場合の関係性が相対的により遠い筈です。
となれば商品間の”線”の長さは、非選択的利用顧客の構成比から得る事ができます。
ここに至って私たちは史上はじめて自分たちの売り場を、顧客が関わり、相互作用のある”場”として記述できるようになったのです。
驚くべき事にPOS分析であろうが、ID-POS分析であろうが私たちは今まで自分たちの売り場の政策を、”点”の組み合わせで行っていた事になります。
会員比率が高くても、年代登録率が高くても、しょぼい政策に意味はありません。
たとえ理解が難しくても、勝ち残って行くためには売り場をちゃんと”場”として捉えた真っ当な仕事をする必要があります。
1)売上の根源量であるID数が分かる事
2)顧客の利用行動から売り場を”場”として扱える事
それが私たちがID-POSを仕事に使うべきたった2つのシンプルな理由です。
【参考】
そもそもこのホームページ自体が、あの手この手で この”場”に関する啓蒙を図っているものですので、全てをご覧頂きたい位なのですが、特に容易なものとして以下を”場”の分割の参考として挙げさせて頂きます。
日清orマルちゃん?うどんorそば?:Tapirの原理と見方
以上、長文に最後までお付き合い頂きありがとうございました。
お役に立てれば幸いです。