” ニーズが見える ” ID-POS分析
「そうであって欲しい」という売り手の儚い願望なのかもしれませんが、表題の通り、私はID-POSというものを小売の死活問題と認識しています。
ID-POSの提案でお断りを受ける際には大体、”難しい”、”忙しい”、”人が居ない”と断られます。
”難しい”、”忙しい” 、”人が居ない” が ”死活” を上回っちゃうんだ!と、何とも滑稽な気もしますが、私のヘタクソな説明のせいかもしれません。。。
商品政策上の問題と言うよりも、ストレートにコレ、経営課題なんですよ!とお伝えした方が、もしかしたら伝わるのかもなぁ?と考え、恐れながら書いてみます。
マーケットドリブン経営は「買っていない人に買わせる」という流通業積年の呪縛から離れ、現に今買い手との間に存在する接点をこそ大切にしようという経営です。
下図はベン図という思考モデルです。
相手と自分がいる状況において ー
1)自分の都合・願望・メリットを顧みず、相手の都合・願望・メリットだけを叶えていたら、自分は必ず滅びます(Win-Lose)。
2)相手の都合・願望・メリットを顧みず、自分の都合・願望・メリットを押し通していれば、相手が自分から離れて行く事で互いの円の重なり(接点、コミュニケーション)を失い、最終的には自分の滅びにも繋がります(Lose−Win)。
3)日和見主義的に双方をつまみ食いしながら行き来するのも、結局やってる事は1)と2)ですから、最終結果は変わりません。
4)お互いの都合・願望・メリットが重なる円同士の重なり(接点、コミュニケーション)のみに焦点を合わせる事が、永続する確実な成功へと繋がります(Win-Win)。
理論上、本当の”勝ち”はここにしか無いという事です。
これを前提に双方の都合・願望・メリットを、対比する形で客観的に書き出して行き、
1)現に双方の都合・願望・メリットが重なる部分に何があるのか?
2)自分の都合・願望・メリット中、相手の円に寄せられる(重なる面積を広くする)ものは無いか?
を思考する為のツールがこのベン図です。
ちなみに2つの円が一切重ならない=一切の関係を見出だせないにも関わらず、無理に関係しようとした場合、Lose−Loseの関係になってしまいます。その際に本来選択すべきアクションはNo Deal(取引なし)です。
このベン図を小売業のケースに当て嵌め、相手=買い手、自分=売り手と定義してみると、この円の重なる部分は正にマーケットそのものになります。
マーケットは売り手(商品)だけでも、買い手(顧客)だけでも成立せず、双方が寄り集まる事ではじめて成立する接点、コミュニケーションスペース/コミュニケーションツールだからです。
前出のベン図に小売経営を当てはめてみると、以下のようになります。
相手優先 ⇨ 顧客ドリブン経営
自分優先 ⇨ 商品ドリブン経営
関係・接点優先 ⇨ マーケットドリブン経営
ここ迄の論法に従えば、本当の”勝ち”はマーケットドリブン経営にしか無い、買い手の円と売り手の円の重なる面積が最も広い企業が小売の覇者!という事ですが、御社の経営はどれに当て嵌まりそうですか?
御社の競合が徹底してマーケットドリブンな経営をはじめたら、驚異じゃありませんか?
ここから ”商品” という言葉を使いはじめました。以降の説明ではほぼ商品=単品として扱いますが、マーケットの定義上買い手とコミュニケーションを持つものは全て”商品”です。
ご自身が携わる業務範囲、管理単位次第で、読み替えられるところがあれば、カテゴリー、部門、店員、店舗、企業(屋号)、チラシ、クーポン、アプリ、ネットスーパーのように読み替えても理解してみて下さい(ここ迄の文章の”売り手”をそう読み替えて頂いても結構です)。
”顧客”という言葉についても、徐々に混じえて行きます。
また、”小売業”についても以降から、私どもの”買い手”である「商品数、顧客数が多く」「比較的頻度の高い商品を扱う」「セルフサービス」「マスメリットを狙う」食品スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンターといった業態のチェーンストアさまを指すものとします。
マーケットドリブンという経営ロジックがあれば、それを持たない相手に勝てます。
ロジックに敗北があるとすれば、通常それはそれ以前の仮定や前提条件の誤り、思い込みに起因します。
小売業には沢山の商品があります。
そこで商品ドリブンな企業では管理の為「2割の商品が8割の売上を作っている」というニッパチの法則に従い2割の商品を重点的に管理します。
小売業には沢山の買い手がやって来ます。
そこで顧客ドリブンな政策をつまみ食いしようとすると、管理の為「2割の顧客が8割の売上を作っている」というニッパチの法則に従い2割の顧客を重点的に管理する事になります。
論理上、みんな大事 = みんな大事じゃ無い ですので、当然そういった管理になります。
しかしこのようなやり方では、下図のように重点顧客と重点商品のミスマッチを引き起こし得ます。
先程のベン図で言うところの2つの円は、少なくとも下図の重点顧客と重点商品の間では重なっていません(No Deal)。
何かしらの仮定、前提条件が間違っているからこのような事が起こります。
・商品は商品、顧客は顧客で管理(何を管理すべきか?)
・重点の閾値=売上(何をもって重点とするか?)
あたりにヒントがありそうです。
上図から接点思考で考察して行ってみましょう。
【考察:非重点顧客の視点から】
図では4人の非重点顧客は、重点商品しか買っていません。
重点商品が売場からカットされたら、この4人は店舗/売場を利用しなくなる可能性があります。
その意味で、この商品は確かに重点商品です。
が「8割の売上を作っている」からでは無く、4人の顧客との間に「他では替えの効かない接点を持っている」から重点なのです。
商品と違い顧客は、競合と奪い合う対象そのものであり、多ければ多い程良い訳です。
【考察:重点顧客の視点から】
図では重点顧客は非重点商品しか買っていません。
重点顧客にとっては、非重点商品との間に「重点商品では替えの効かない接点」があるからです。
となると同じ文法からすれば、非重点商品も重点顧客が買っているから重点商品 ⇨ みんな大事=重点なんて存在しないとなってしまいます。
顧客と違い商品は、買い手の利用/来店さえ減らなければ、売り手としては少なければ少ない程良いものです。
そこで売り手として考えるのは「非重点商品は、4品がきっちり揃っていないと重点顧客の利用/来店を減らしてしまうものなのか?」という事です。
重点顧客にとって実は一品あれば替えが効くのならば、その一品が重点商品、二品で賄えるのであれば、その二品が重点商品という事になります。
いづれにせよ「他では替えの効かない接点を持っている」ことが重点の定義となりそうです。
経営は精神と技術から構成されます。
精神(ロジック)は正しいつもりでも、仮定や前提条件を間違えば、間違った答えしか得られません。
これが経営の誤謬です。
この場合、買い手を管理可能という仮定、重点=売上という前提条件が間違っています。
(当然顧客台帳は管理可能ですよw)
結局のところ、買い手は売場に商品そのものでは無く、それを利用する事で自分が得られるメリットを買いに来ています。
よって管理すべきは顧客そのものでも、商品そのものでも無く、顧客群と商品群との間にある接点=利用メリットにあります。
顧客は多ければ多い程良い ので
・”売れ筋”で無かったとしても、利用メリットそのものの欠落は極力避けた方がいい
・売場に存在し無かった利用メリットを追加すれば、より一層の利用が期待できる(品揃えの豊富さとは利用メリットの豊富さ)
商品は少なければ少ない程良い ので
・経済合理性に合わせ、小さな利用メリットについては最低限代替可能な重点商品のみを残す
結局のところ私たち売り手が本当の意味で管理可能なのは商品だけですし、私たちの競争力はあくまでもマス、セルフサービス、標準化にあります。
重要な事は、それらを買い手との接点を起点として動かす事=マーケットドリブン只一点にあります。
マーケットドリブン経営の考え方をより具体的に表したものが下図になります。
買い手が買いに来ている利用メリットを構成する商品の内、最も代替可能な商品こそが最重要顧客接点であり、新しいパラダイムの下での重点商品です。
言い換えればこれらは極力全店が備えるべき/カットできない最低品揃えであり、最も欠品をケアしなければならない商品であり、チラシやクーポンと言った販促、棚割りやチラシ紙面のマグネットに好適な商品と言えます。
コントロールは常に利用メリットというOSを介して行います。
(図の紫のマル。)
例えば単品クーポンを出すのであれば、年代やランクという商品と繋がりの無いものでは無く、その単品が所属する利用メリットと繋がりのある顧客に対してクーポン発行を行います。
単品の陳列を行うのであれば、利用メリット毎でゾーニングを行います。
ここまではマーケットドリブン経営の主に精神面についてお話して来ました。
が、そこに技術(データやツール)の面が無ければ、この精神を具現化する事はできません。
POS分析、POSデータにはそもそも顧客IDがありませんので、幾らマーケットドリブンな精神、お題目を持ったところで、技術的な意味でのマーケットドリブン経営はどう足掻いても不可能です。
だからこそ、ID-POSは死活問題 なのです。
ところが逆もまた然りで、単にID-POS分析、ID-POSデータという技術を持っただけでは、顧客ID、商品CDという2つのキーとなるコードを持ったID-POSデータは、顧客ドリブンにも、POS同様商品ドリブンにも使えてしまいます。
それをどう使うのか?それを我々と顧客の間の”関係”の為に使う!という確固たる精神が無ければ、商品ドリブン以上に振り幅が大きく、どっちつかずの数字遊びになりがちなのがID-POSとも言えます。
POSであろうが、ID-POSであろうが、ここで起こる躓きを簡単に言ってしまえば、これは「買っていない人に買わせる」という流通業積年の呪縛、商品ドリブンな一方的願望に根ざしています。
POSでは、牛乳のように単品で10%の人が買っていれば「売れ筋」です。
ところがこの10%という数字は昔から大して変わっていません。
残り90%の人たちは理由こそ異なれ、古今東西極普通に買わないのです。
「売れ筋」で無い商品なら、尚更多くの人が接点を持っていません。
つまり「買っていない人に買わせたい」という売り手の願望は、ほとんど暖簾に腕押しなのです。
しかし何の接点も無いにもかかわらず「90%の未開のマーケット」という観念は、未だ売り手の多くを魅了してやみません。
レガシーなID-POS分析においてもこの様相は全く変わっていません。
図の「50代男性」のようにターゲットを矮小なものとしているだけで、その中には「買っていない人に買わせたい」という願望が変わらず息づいています。
「商品Aを買う人の10%が商品Bも買っている」⇨「商品Bを買っていない商品Aの90%の顧客に商品Bを買わせたい」等々、ほとんど全てが同じ文脈から説明できてしまいます。
たちが悪い事にクーポンやアプリによる直接的なターゲティング・アプローチが可能となる事から、多くの人がweb広告で経験済みのように、より一層の不快感、「使えない」感が助長されます。
ID-POS最大のメリットは単に、誰が、何と接点があるのか/ないのかが分かる事です。
喜ぶ人に喜ぶ事をし、嫌がる人に嫌がる事をしなければ当然 商売繁盛!って思いませんか?
「そもそも買ってくれる人にクーポンなんて勿体無いじゃあないか!」
っていう「釣った魚に餌はやらない」発想、
「それじゃあ 買っていない人には永遠に買ってもらえないじゃあないか!」
っていう考えが頭をよぎりましたか?
それが今はたった一つであったとしても、何よりも現に存在する接点を、他店に取られない確実な絆とする事以外、この先接点を増やしていく現実的な足がかりはありません。
その接点が素晴らしいからこそ、互いの接点が1つ、2つと増えて行きー
「今までこの店では買っていなかったものも、便利だからこの店で済ませちゃおうか」
となって行きます※。
この辺りのお話については、また別稿で深掘りしてみたいと思います。
改めて、マーケットドリブン経営 は「買っていない人に買わせる」という流通業積年の呪縛から離れ、現に今買い手との間に存在する接点をこそ大切にしようという経営です。
※.その時「済ませられる」品揃え、棚割りが重要になって来ますが、それらを含めてマーケットドリブン経営の技術的側面について興味のある方はTapir_MKによるマーケティングの教科書を併せてご覧下さい。
「ID-POSは死活問題」と言いながら、その実「BiZOOPeは死活問題」に落とし込んでいるという”私”という売り手の儚い願望でしたw
どうぞどこかでご縁頂けましたら幸いです。