” ニーズが見える ” ID-POS分析
ID-POSと言うと販促と思われがちですが、そこに良い店が無ければ販促で呼び込んでも、ともすれば逆効果になり得ます。
良い店は良い品揃えからはじまりますが、認知されなければそれは存在しないも同然です。
その為ここまで、フロアレイアウト、ゴンドラレイアウト、エンド陳列 、商品カット/絞り込みと最低品揃え、新商品の投入/開発とID-POSの売場への活用方法(インストアMD)をまず最初に連載して来ました。
今回はその総仕上げ、インストアMDの要として、ID-POSによる見つけやすく、選びやすい、あれもこれもと思わず手に取ってしまう 棚割(プラノグラム)について真剣に考えてみたいと思います。
これ迄も、これからも用いるフィロソフィー、エッセンスはほぼ同じであり、それを異なる政策へと適用しただけのものです。
今回考察の対象は、ここまでも取り上げて来た「珍味・豆菓子」とさせて頂きます。
ここまでこの売場を「2本パターン」として来ましたが、ここでは考察の都合上「3本パターン」とさせて下さいorz
利用メニュー:BiZOOPe の Tapir_MK(テンポラリーTapirにおいても利用可能なメニュー)
期間:2018年5月28日 〜 26週間
(実運用ではカテゴリー特性に合わせて直近/昨年展開時期の26週)
店舗:静岡地区の複数店舗
(実運用では編集元とする珍味・豆菓子の最大パターン採用店とする場合が多い)
商品:デモデータから「一般食品 > 菓子 > 珍味・豆菓子」配下の単品
(実運用では編集元とする珍味・豆菓子の最大パターンに陳列された商品のファイルを読み込ませる)
表示:一部の列を追加/削除/非表示しています。
表の主要な項目について説明します。
以下、この表を「明細表」と呼称します。
(表をクリックで開きます)
【seg_f】
セグメントfar(遠い)の略で、顧客にとっては漠然とした売場の利用目的となる塊です。
棚割的には「ゴンドラ(台)が分かれても良い位異なっている=当然ゾーンは分けるべき」、顧客的には「利用時の利用目的が異なる」もしくは「利用顧客が異なる」と解釈されます。
その為この単位でゾーニングを行う事で遠目に自分にとっての利用目的が目に入り易い/買い逃しの少ない売場が出来上がります。
【seg_n】
セグメントnear(近い)の略で、顧客にとってはより具体的な利用目的、選択の単位を指します。
この塊中の単品同士は「利用目的が近い=代替可能である」転じて「カニバリゼーション/ブランドスイッチが起こる間柄である」とも解釈されます。
その為この単位でゾーニングを行う事で棚前に来た顧客が選びやすい/手に取りやすい売場が出来上がります。
【並び順】
ざっくりと「より数字が近いもの程、顧客にとっての利用メリットが近い/商品同士の関連性が高い」事を表す指標です。
その為おおよそこの指標の昇順/降順で陳列を行う事で「あれもこれも」と関連する商品が目に入り易い売場が出来上がります。
【採用順】
商品を採用すべき順番です。
重複なく、より多くの顧客の価値観に響くように順番が振られています。
採用順の小さいもの程、最小パターンから積極的に採用すべき商品です。
【レコメンド】
seg_fの利用メリットを代表する商品に「1st」、seg_nの利用メリットを代表する商品に「2nd」と振られます。
特に1stレコメンド商品については、売場を代表する利用目的である為、ゴールデンゾーン等多くの人の目に入り易いマグネットとして配置すべき商品と言えます。
これらの算出ロジックについて詳しくはこちらをご覧ください。
棚割(プラノグラム)はID-POSには含まれない以下のような不確定な情報を含みます。
・段数等の棚(ゴンドラ)情報そのもの。
・主たる通路との位置関係によって左右の優位地が変わるといった売場における俯瞰的情報。
・大きい/重いものを下段に、小さい/軽いものを上段に置きたい、圧縮率といった上下とサイズ、重量に関わる商品情報。
・ゴールデンゾーンの位置と、そこに売れ筋を置きたいか、新商品を置きたいかといった考え方。
・色を揃えたい。天を揃えたいといった視覚的/情緒的要望と情報。
・顧客のニーズの単位(例えばテイスト別)と荷姿、発注単位といった品出し効率に関わる単位との乖離。
・最大パターンから最小パターンを生成できる(ストアコンセプトが同じ)場合と、そうで無い(ストアコンセプトが違う)場合の存在。
その為ここでは、ID-POSはあくまで棚割ソフトに情報を渡す役割とし、分析者は棚割ソフト上でビジュアルにID-POSから与えられた情報を解釈、棚割を改変して行くものとして考えて行きます(ID-POSの与える情報のみに縛られすぎないようにして下さい)。
生憎私の手元に自由に使える棚割ソフトとデータセットが無い為、ここでは便宜上以下のレギュレーションを前提に考察を進めて行きます。
・下図の通り7段 ✕ 7列 ✕ 3台の売場を想定し、商品個々の重量・サイズ等は考慮せずに各コマに商品を当て嵌めて行く。
・優位地は左から順番(台1 > 台2 > 台3)とする。
・最大パターン(3本パターン)から最小パターンを生成する(基本は前回/前年実施モデルの最大パターンをベースに棚割を作成して行く)事とする。
・顧客の目線については台単位で移って行くもの&バーチカルでは無くホライゾンと仮説。
自動棚割も視野に、明細表の「並び順」に基づき以下のようなベクトルで商品を段上に配置して行く事としました。
また簡単の為マグネットとレコメンドとの関連付けについては意識せず、優位地である左の台の左上(1台目7段1列)から順にこのベクトルに沿って商品を配置してしまう事を方針としました。
棚割ソフト上で編集する最大パターンの棚割を開いたら、Tapir_MK明細表の商品コードとseg_fコードを抜き出した下記サンプルのようなファイルを棚割ソフトに読み込ませ、棚割に色分け(ハイライト分析)を行います。
同じ色=同じseg_fの商品同士が近くに固まるよう棚割ソフト上で商品を動かす事により、顧客にとっての売場の利用目的が集積される為、遠目にも「見つけやすい/買い逃しの少ない」売場となります。
定義上seg_f 同士は「台が別でも良い位離れている」ので、同じ色が固まる事だけを意識して、いい感じになるよう陳列してもらえればそれで結構ですが、そこは「真剣に考えてみよう」ですので、重箱の隅を突いてみますw
【自動棚割的にやるならば】
Tapir_MK明細表でより利用ID数の多いseg_fを優位地に置き、そこから「並び順」の昇順または降順で、前出の商品配置ベクトルのように商品を棚板上に這わせて行きます。
今回は優位地を単に左(台1)としており、明細表を見ると f7の利用ID数 > f1の利用ID数 である為、棚の左上(1台目7段1列)から「並び順」降順に商品を這わせて行くと、以下のようになります。
棚割を既存棚割からでは無く1から作る場合、このように「並び順」の昇順/降順に並べて行くだけで、seg_fによるゾーニングも、この後のseg_nによるゾーニングも完成した状態になっています。
【余談】並び順を読み込んで、陳列を並び替えてくれたり、ハイライトの単位で丸っとドラッグ&ドロップで場所移動できる棚割ソフトがあると便利なんですけどねぇ。。。どこかの棚割ソフト屋さん!作りませんか?(何ならAPI作りますw)
次に、Tapir_MK明細表の商品コードとseg_nコードを抜き出した下記サンプルのようなファイルを棚割ソフトに読み込ませ、棚割に色分け(ハイライト分析)を行います。
この前に定義したseg_fによるゾーニングの範囲内で、同じ色=同じseg_nの商品同士が近くに固まるよう棚割ソフト上で商品を動かす事により、顧客にとっての商品の選択単位が集積される為、顧客が棚前に来た際に「選びやすい/手に取りやすい」売場となります。
ここまでをガイドラインとしつつ、あとは商品カット/絞り込みと最低品揃えで述べた考え方でカット商品を台から外して頂いたり、新商品の投入/開発で述べた考え方で新商品を台に加えて頂いたりしながら、商品の位置やフェイシング数を自由に調整して頂ければ最大パターンの完成です。
が、そこは「真剣に考えてみよう」ですので、自動棚割も視野に入れつつ まだまだ重箱の隅を突いて行きたいと思いますw
【自動棚割的にやるならば】
同じく「並び順」に従って、商品を棚板上に這わせて行きます。
並び順=関連順 ですので、これに従う事でゾーニング効果だけでは無くより「あれもこれも」と手に取り易い売場の効果が期待されます。
下図ではseg_fを太枠、その中のseg_nを交互の色違いで表現してみました。
やはりハイライトの単位でドラッグ&ドロップで場所移動できる棚割ソフトがあれば便利ですねぇ。。。どこかの棚割ソフト屋さん!作りませんか?(しつこいw)
フロアレイアウトの考察中に編み出したスペース構成比を計算し、フェイシング数を計算してみました。
商品カット/絞り込みと最低品揃えで迷走していた加重平均値でレコメンドされる商品については、最終販売日が直近の「ワンチャンあるかも?」商品についてのみ強制的にフェイシング数=1を与える事にしています。
その上でフェイシング数=0となってしまう商品についてはカット候補商品と見做す事が出来ます(商品カット/絞り込みと最低品揃えにおける採用順に基づくカット候補と言うよりは、スペース制約に基づくカット候補の考え方となります)。
ついでに SKU数÷最大パターンの本数 と 採用順 との比較からパターン(何本パターン以上で陳列すべきか?)を算出しておきました。
(表をクリックで開きます)
商品コードと上で加工した明細表の「スペース指数(含、トレンド)」を抜き出した下記サンプルのようなファイルを棚割ソフトに読み込ませ、棚割に色分け(ハイライト分析)を行います。
※.実際にはスペース指数そのものでは無く、SKU数とスペース構成比から再計算した数値を採用しています。
これによって同じ色で色分けされた商品について該当するフェイシング数を与える事を検討したり、カットを検討したりできるようになります(少なくともスペース指数の大きい商品により大きいフェイシング数を与える参考になる)。
※.ここまでのいづれの数値もそうですが、この数値では商品サイズ、段の数/幅/高さ等考慮していない為、あくまでもハイライト分析で判断を行う為の参考値です。
同じく商品コードと上で加工した明細表の「パターン(本数)」を抜き出した下記サンプルのようなファイルを棚割ソフトに読み込ませ、棚割に色分け(ハイライト分析)を行います。
ここでは最大パターンを3本パターンとしていますので、最大パターンを作り終えたらそれをベースとし、 パターン(本数)=3 で色分けされた商品を台から外す事で2本パターンを、次いでパターン(本数)=2 で色分けされた商品を台から外す事で1本パターンを作成して行く事が出来ます。
このパターン(本数)は採用順に基づき振られていますので、最大パターンから最小パターンに至る迄、売場の利用目的の骨格を為す商品を極力備えた集客力ある棚割を作成する事が可能です。
※.ここまでのいづれの数値もそうですが、この数値では意思決定の結果、最終的にどの商品に実際何フェイシングが与えられたのか?どの商品がカットされたのか?新商品がどれだけ採用されたのか?を知る前に、採用順とSKU数から単純計算された数値である為、あくまでもハイライト分析で判断を行う為の参考値です。
人々は何でも自動化したがりますが、なかなかそういう訳にも行きません。
そこには自分の都合と相手の都合があるからです。
昔ながらの「お客さまは神さまです」で行けば、相手は八百万とは行かずとも、チェーンなら年間百万超、1店舗のスーパーでも1日二千の神さまですから、如何に神さまと言えども、とても全員の都合を聞いてられないでしょう=実行不可能。
Tapir_MKでは、これら神さまの趣味嗜好を幾つかのタイプにクラスタリングし、万事多数決で採用順やレコメンドを振っていますので、相手の都合をベースとしつつ、経済合理性(確率論)と民主主義(多数決)によって、これをお互いの都合に変換しています=実行可能。
しかし、当然ID-POSに従えないお店の都合もあるでしょう。
私の今までの経験から具体的に言えば以下のようなものです。
・カレールー売場:顧客の利用行動に従えば「辛さ別」売場であったが、品出し作業の効率上の問題から「ブランド別」売場とした(詳細失念したがホームセンターの低回転カテゴリーでも店頭在庫との関係で類似のケースがあった)。
・ペットフード売場:集客のキーとなるカテゴリーであったが、メーカー提供の販促キットでガッチリ囲われており、条件面も相俟って手を付ける事すらできなかった。
ここではID-POSの結果に従う事を「顧客視点」と呼んだりしていますが、相手の都合ばかりを聞く事(Win-Lose)が結局、商品価格が上がったり、お店自体が無くなってしまう事に繋がってしまうとは、当の相手であるお釈迦様でも気がつくまいです(Lose-Lose)。
逆(Lose-Win)もまた然りです。
大切な事は、双方の都合に等しく適う面積(Win-Win)を増やす事、どちらにも極力負け(Lose)を作らない事です。
一部顧客が望んだ品揃えだとしても、お店の経済合理性に適わないのであれば(経済合理性の図り方にもよりますが)、それは品揃えすべきではありません(No Deal=取引なし)。
棚割(プラノグラム)において、この考えはおよそ以下の二点に集約されるかと思います。
【一点目】
よく「並び順には従わなくてはダメですか?」といったような問い合わせをベンダーさんから受けますが、そんな事はありません。
ID-POS(≒相手の都合)はあなたの意思決定をより良いものとする為のガイドラインに過ぎません。
是非八百万の神とのPDCAを楽しんで下さい。
【二点目】
但し従わない理由が「色が揃わないんで」、「天が揃わないんで」と言った、思い込みに基づく前提条件(≒自分の都合)である事が疑われる場合には、極力ID-POS通りに試してみて下さい。
相手は八百万ですので多勢に無勢、変わってもらう事はほとんど期待できません。
自分が歩み寄れるよう変わって行くしか無いのですから(偉そうにスミマセンorz)。