” ニーズが見える ” ID-POS分析
D=デジタル技術による
X=変革
既存業務のデジタル技術への移行(Transfer)では無く、デジタル技術による変革(Transformation※)です。
重要なのは「何の為に変革するのか(目的)」と、その為に「何を変革するのか」「何に変革するのか」であり、デジタルは手段に過ぎません。
※.英語圏では Trans を X と表記する。
企業の市場における競争優位性を確保し続ける為にです。
言い換えれば、私が居なくなっても、わが社が今日から将来にわたって、変わらず市場から収益を得続ける事ができるようにする為です。
DXの対象としては業務プロセス、商品、サービス、顧客体験、ビジネスモデル、企業文化などが挙げられますが、まず何から変革すべきでしょうか。
市場における競争優位性を確保し続ける為であるにも関わらず、一般に何を変革するかは、市場のニーズや優先順位とは無関係に企業の価値観と優先順位に基づいて決められており、それがDXが競争優位性では無く、システム導入止まりになりがちな要因でもあります。
まず変革すべきは、企業の価値観と優先順位です。
私が居なくなった時、後進には何に従って欲しいのか?何に従えば、時は移り変わっても収益を得続けて貰えるのか?と問えば自明です。
市場における競争優位性を確保し続ける為には、企業の価値観と優先順位を時と共に常に変化して行く市場のニーズと優先順位に沿ったものに※変革する必要があります。
市場ニーズの理解度、解像度の差こそが、競争優位性の差であるという事であり、これは企業の競争優位性の為の変革であるのと同時に、顧客の為の変革でもあります。
※.「ニーズの先を行く」事も大事ですがニーズとその優先順位を理解してこそ、その先が読めます。
沿うべき市場のニーズと優先順位が理解できていない場合ー
市場に求められていない業務をデジタルで効率化する※1
市場に1番求められている非デジタルなニーズに投資せず、510番目※2に求められているデジタルニーズに投資する
と言った事が起こり、DXは寧ろ市場競争力の後退に繋がります。
※1.一番の効率化は、「今までそうして来たから」のように必要と思い込んで来た業務、背伸びし過ぎて実効性に乏しい業務等を片っ端から見つけ出し、 止める事にあります。
※2.DX=ローマ数字の510。
一方で市場のニーズとその優先順位を克明に理解している企業はほとんどありません。
もしも市場のニーズとその優先順位をデジタルで見える化でき、それを目の当たりにした企業の価値観と優先順位が動くのであれば、それこそがDXの最優先事項と言えます。
企業の市場における競争優位性を確保し続ける為に
まずは企業の価値観と優先順位を
時と共に常に変化して行く市場のニーズと優先順位に沿ったものへと
デジタル技術で変革する
市場の顧客の約96%が、アンケートにも答えないサイレント・マジョリティ※と言われる存在です。
物言わぬ大多数の顧客の声なき声を、一体どのように汲み上げたら良いのでしょうか。
※.サイレント・マジョリティのニーズの把握はマーケティングの命題でもあります。
サイレント・マジョリティ/ノイジー・マイノリティを問わず、利用者の100%から発信されている唯一のデータがPOSデータです。
POSデータに顧客IDが付けば、図のようにおよそ顧客が
”いつ” をニーズとしているのか?
”どこ” をニーズとしているのか?
”何” をニーズとしているのか?
が分かります。
その人の置かれた状況や、その人の持つ価値観が、一切の虚飾や誇張無く、自然と滲み出してしまうのが選択です。
ニーズの違いと、類似ニーズを持つ人の多さから、統計処理によりニーズに優先順位を振る事ができます。
100%には遠く及びませんが、アンケートもPOSデータに倣った設計とする事で、同じようにニーズを扱う事ができます。
デジタルでニーズが分かると言っても、企業の価値観と優先順位が変わらなければ、何の変革ももたらしません。
ここでは物言わぬ大多数の顧客が売り場から長年何を訴え続けて来たのかを、POSデータとアンケートそれぞれ一例づつ見える化してみます。
これを目の当たりにする事で、あなたの心が動いてくれる事を切に願います。
先の寸法で 顧客は”いつ” と ”いつ” を選んでいるのか、365日を統計処理に掛け、見える化したものが次の図です。
以降”いつ” (期間)に限らず、”どこ” で(店舗) ”何” を(商品)においても全く同じような集計、考え方をする事ができます。
※.図は365日中からの一部抜粋。
他の日を選んだ人が少ないという事は、そのような日が多くの顧客にとって目的化しているという事です。
図からは、多くの顧客にとって曜日が目的化している事が克明に見て取れます。
これは同時に「仕事の都合でその曜日にしか利用できない」といった、顧客が否応なく置かれた状況、或いは「ポイント2倍のお得な曜日に利用したい/混むから利用したくない」といった顧客が持つ価値観が滲み出たものです。
その中でも選んだ人が多いという事は、この場合ニーズであった期間=ニーズで無くなり始める未利用化の周期を表します(平均13週)。
未利用化を防ぐのに最も適した日が、目的範囲中で最も多くの人に選択された1st=最重点日と、選択範囲中で最も多くの人に選択された2nd=重点日です。
日にちが離れており、これらの日だけでニーズをカバーし切れない場合、3rd=対策必要日がレコメンドされます。
従来通りニーズを一つと見て優先順位1位を決めた時、その時点では他にどんなニーズが存在するかは不明ですので、本来優先順位2位以下を決める事はできません。
ニーズを二つに分けたとき、はじめて1位が存在しない方のニーズから優先順位2位を決める事ができます。
このようにニーズを1→2→・・・→365と一つずつ細分化しながら365位迄一つづつ振って行った、市場にとっての優先順位が図の採用順です。
【ニーズに沿う】
個々の顧客の置かれた状況や価値観に合わせ、顧客ニーズに出来るだけ寄り沿おうとするのであれば、優先順位は図の通り採用順の昇順です。
重点日が網羅され、各曜日の利用者に適切な周期で満遍なく満足してもらえそうな事が見て取れます。
【既存の価値観、優先順位に沿う】
既存の優先順位の基本は、ニーズを個々に関連性の無い”点”として扱い、大なり小なり企業に有利な量の多さで並び替えたものです。
図は365日の利用者数の降順ですが、ほぼ水曜日(ポイント2倍デー)の利用者だけが優遇され、f4という市場のニーズにしか沿っていない事が分かります。
水曜日以外の利用者は、競合に対してノーガード状態で晒されているとも言えます。
この2つは全く異なる判断基準です。
「そんな馬鹿げた判断はしないよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現にこれは水曜日をポイント2倍デー=重点曜日に設定した企業の判断がもたらした結果です。
また、より複雑な顧客接点(例えば単品)の場合においても、一部の利用者に偏った「馬鹿げた判断はしない」と言い切れるでしょうか。
企業が顧客が置かれた状況や価値観では無く、自身の置かれた状況、価値観で事業を進めて来た事は明白です(精神的には顧客を思っていたとしても)。
勿論、買い手の都合があれば売り手の都合もある為、何でもかんでも買い手の都合だけに沿う必要はありませんが、先のどちらの優先順位に沿った企業が「市場における競争優位性を確保し続ける」かを想像してみて下さい。
”いつ” (期間)に限らず、”どこ” で(店舗) ”何” を(商品)についても、顧客が置かれている状況や価値観では無く、企業の置かれた状況、価値観によって判断が成されて来た事は同様です。
これらの見える化については、ID-POSバイヤー業務大全 を併せてご覧下さい。
アンケートは「あなたが食品スーパーを選ぶ/使い分ける理由」、設問項目は「その店を選ぶ事であなたが得られるメリット」となっています。
顧客ID付きPOSデータと同様に、回答者がアンケートのどの設問項目とどの設問項目を選んでいるのかを統計処理に掛け、見える化したものが次の図です。
目的範囲は状況/価値観に対応した、顧客が食品スーパーという業態に望んでいる理想です。
一方で選択範囲内の利用メリット同士は店の使い分けにおいて天秤に掛けられ勝ちなもの同士です。
図のf1_n1というニーズを見れば、安心・安全なのに、見切り・値引きが多く、欠品も少ないなんて理想的な望みではありますが、実態は、安全・安心 or 見切り・値引きが多い or 欠品が少ないを天秤に掛け、賢く店を使い分けている人が多いという事を意味しています。
天秤に掛けられるメリットの中でも最も重要なのが、目的範囲中で最も多くの回答者が惹かれるメリットである1st=最重点利用メリットと、選択範囲中で最も多くの回答者が惹かれるメリットである2nd=重点利用メリットです。
図のf1_n1で言えば、安心・安全が圧倒的でありさえすれば、見切り・値引きの多さ、欠品の少なさは「それなり」でさえあれば、十分競争力になるという事です。
【ニーズに沿う】
個々の回答者の置かれた状況や価値観に合わせ、回答者のニーズに寄り沿うのであれば、優先順位は図の通り採用順の昇順です。
”近さ”という抗い難いメリットがあってすら、駐車場が停めにくかったり、トイレが汚かったら、”近さ”を選ばない回答者が居るという事です(相互に逆も然りです)。
これらは”近さ”という全ての企業が等しく持つ最大の競争力を、最も損ねない為の要素です。
【既存の価値観、優先順位に沿う】
既存の優先順位の基本は回答者数の降順で、今回のようなアンケートの結果は常に「近くて、安くて、新鮮」となります。
「ニーズに沿う」の観点から見れば、「近くて、安くて、新鮮」のいづれもが目的範囲=f3の中にあり、それを望む回答者の数も多い為、No.1戦略を採れる企業であれば、f3というニーズだけに絞って、徹底的に戦うという事も考えられます※。
※.ニーズの見える化は、No.1戦略を採るニーズを選べるという事でもあります。
デジタル投資と直接的に関連する利用メリットの中で、回答者にとって優先順位が高いのはPOSレジ関連のように見受けられます。
ニーズに沿った場合のみネットスーパー、チェックアウト手段といった少数派のニーズが滲出しています。
それを将来のメイン客層のニーズと捉えれば、多数派の声一辺倒の投資は、将来の市場競争力の低下に繋がります。
顧客の声なき声をPOSレジから直接吸い上げる事が出来、直接顧客にアンケートを取る事もできる小売業は、マーケティングの最前線に位置しています。
とりわけ顧客を取り巻く状況や価値観の変化が少ない短期の中で、選択というサイレント・マジョリティからの意思表示を受け取る事のできる食品スーパーやドラッグストアは、マーケティング業であると言えます。
市場もニーズも多様化している現在、現に自店を利用してくれている顧客のニーズの代弁者である小売業のDXは、流通業界DXの一丁目一番地です。
顧客ニーズを競合よりも克明に理解し競争優位性を確保し続ける事は勿論、自店の顧客ニーズの一番の理解者、製配への代弁者へと変革して行って頂ける事を心より願います。