ニーズが見える ID-POS分析
前回記事BiZOOPeにおけるトライアル/リピートの見方と扱い のつづきです。
メーカーが売り場でできる ”三方よし” なトライアル政策/リピート政策とは何なのでしょうか?
答えは ”ニーズ” が教えてくれる筈です
宣伝も兼ねエンハンス予定のシン・Tapir-1.0 ※を使います。
前回記事同様「全店」「おむつ」という条件を、前回記事最後で挙げたリピート推移と同様の6ヶ月間で集計し、ニーズを見える化してみます。
前回記事で着目した「花王メリーズパンツL44枚」に引き続き着目し、目的範囲、選択範囲、関連順の三項目で考察して行きます。
着目する商品が変われば考察もまた変わって来ます。データも古いものですので、ケーススタディとしてご覧下さい。
※.現段階で未リリースですので、BiZOOPeユーザさまはTapir_MK をお使い下さい。分析メニューに関するロジックや使い方の詳細については、ここでは割愛します。
「その範囲内を選択肢としている人たちは、その範囲外を選択肢とする人が少ない」事を示すのが目的範囲で、「それらは選ぶが他からは選ばない」事から目的化された顧客ニーズ※と捉えられます。
非同時の併買率から計算されています。
※.ランチェスター戦略で言うところのNo.1戦略を採るニッチなマーケット・セグメントであったり、顧客のライフスタイルの一端でもあります。
図を見ると「花王メリーズパンツL44枚」を含む「メリーズ」ブランドで、独立した目的範囲 f11が形成されています。
この事から「メリーズ」はその利用者の多くにとって目的化しており、おむつマーケットの中に他とはセグメントされた「メリーズというニーズ」が存在している事が分かります。
目的化されたニーズ = 確立されたブランド である為、ひとまずは他ブランドを過度に意識する事無く、よりきめ細やかに利用者のニーズに応え、ブランドとして成長して行けば良いという判断ができます※。
明らかに目的化されている訳ですから、売り場政策的にはゾーニング/コーナー化し一箇所に陳列した方が、顧客にとって見つけ易く選び易い売り場になります。
※.そうで無い場合でも同一目的範囲下の、顧客から見た”足下の敵”が明らかになりますから、それに打ち勝ち、ブランドを確立して行く戦略を採ります。
「その範囲内で選択している人たちが、平均以上に多い」事を示すのが選択範囲で、顧客ニーズそのものです。
やはり非同時併買率から計算されています。
まず大きくは「パンツタイプ(f11_n41、f11_n42)」というニーズと「テープタイプ(f11_n43、f11_n44)」というニーズがある事が見て取れます。
また、集計期間である6ヶ月の間に赤ちゃんの成長と共に「新生児用からSサイズへ(f11_n44)」「MサイズからLサイズへ(f11_n43)」「Lサイズからビッグサイズへ(f11_n41)」とスイッチ※1して行く人が一定数現れる為、それが伺える選択範囲となっています。
一般的なトライアル/リピート分析では「新生児用に未利用者が発生」と「Sサイズにトライアルが発生」を個々の単品に起こった別の事象として観測しますが、図からは新生児用からSへとブランドとしてのリピートを繋いで行く事、スムーズなブランド内スイッチこそが肝要と見て取れます。
一方で「SサイズからMサイズへ」と「MサイズからLサイズへ」の選択範囲が分断されているのは、主に単独で選択範囲f11_n42を形成している「パンツM」によるものと推察されます。
パンツタイプという選択肢にはじめて向き合う親が置かれた状況と、価値観※2に寄り添った商品開発/販促政策に留意する必要がありそうです。
※1.スイッチ = 非同時併買
※2.ニーズ = 状況 ✕ 価値観
関連順は(特に同一選択範囲内において)隣り合っている選択肢同士程その関連性が高い (非同時併買率が高い)事を意味しています。
基本的にはパンツの中でのM→L→ビッグ、テープの中での新生児→S→M→Lという、共に関連順降順の関連性がある事が分かります。
「パンツM」については、先の通り単独で選択範囲f11_n42 を形成している事から、「テープS」から「パンツM」に行かない人、「パンツM」から「テープL」に回帰する人が一定数居る事が分かります。
この状況をまとめてみたものが次の図です。
※.パンツタイプに新生児用、Sサイズが無い事、テープタイプにビッグサイズが無い事を、論を簡単にする為に避けつつも、薄っすら図示だけはしておきます。
客点数も利用頻度も含まない利用者率は、通常の商品ライフタイムで考えれば 新生児>S>M>L>ビッグ となる筈です。
最も長いライフタイムを期待できる新生児用の利用者率が、1.35%と最も「間口が狭い」事が気になりましたが、おむつはサイズで使用期間が異なる商品です。
各月齢の赤ちゃんを持つ親が同程度数居ると仮定すれば、利用者率はおおよそおむつの使用期間に比例する筈です。
試算してみると図のように、相対的には新生児用の「間口が狭い」訳でも無さそうです。
一方で図の ”利用者率/試用期間” は新生児用の0.68%を皮切りに、通常の商品ライフタイムと同様 S>M>L>XLと確実に減毛して行っている訳ですから、やはり新生児用という間口が大きければ大きい程良さそうです。
単に「売れる商品」を基準とした小売視点※では、相対的に売れていない新生児用のような”ブランドの間口”を狭め、結果としてブランド全体から得られた筈のライフタイムバリューを損なっている可能性があります。
ここにメーカーの、おむつ利用者を想う視点が必要です。
※.今回のケースで言えば利用者率最高(5.23%)の「パンツL」への、価格対応や販促の偏重が予想されます。
以上をまとめると、今回のメーカーとしての売り場政策は以下三点にまとめられます。
①ブランドが確立されている場合、ゾーニング/コーナー化を図る(顧客にとって見つけ易く選び易い)
ブランドが確立されていない場合、”足下の敵”にターゲットを絞って、それに打ち勝ちブランドを確立して行く戦略を採る
②売上に関わらず、新生児用のようにライフタイムが長く、ブランドへの流入間口を広げる役割を持つ商品への積極的なトライアル政策を図る(結果として小売の利にもなる)
③ライフタイムを極力全うしてもらえるよう、ブランド内リピート=ブランド内スイッチがスムーズに運ぶ商品開発/販促政策を打つ
中でもパンツタイプという選択肢にはじめて向き合う親の置かれた状況と、価値観に寄り添った政策に留意する
(その為にもやはりSサイズとMサイズは近くに陳列され、日頃からSサイズを利用する親にメッセージが届いている事が望ましい)
以上、顧客にしてもらうばかりで無く、応える事で ”三方よし” となる、メーカーの売り場政策についての考察でした。