売り場利用者の ”ニーズが見える” ID-POS分析
文字通り” 併せ売る” という事で、正確には同時併売と言います。
商品Aと商品Bのように2つ以上の商品を隣接して陳列し、例えばメニュー提案のような形で売り込みます。
併売政策はクロスMD(クロスマーチャンダイジング)とも呼ばれます。お得を訴求するバンドル/ミックスマッチとは異なり、売り場部門や用途・機能を文字通りクロスさせる事で利用を喚起し、客点数にプラス一品上乗せする政策意図を持ちます。
商品Aと商品Bのような商品の組み合わせ、中でも顕著なそれをレシート明細データの中から探し出して来る分析がバスケット分析と呼ばれる分析で、文字通りバスケット=カゴの中身の分析です。
バスケット分析において二つの商品の組み合わせが、特異に同時に売れる事を示す指標が併売率、リフト値です。
図のように商品Aまたは商品Bを含む20枚のレシートがあり、内1枚が双方を含む同時併売レシートだったとします(解説の為図に不自然な点がありますがご容赦下さい)。
すると商品Aを含む全レシート9枚中1枚=11%に商品Bが含まれ、商品Bを含む全レシート12枚中1枚 = 8%に商品Aが含まれる計算となります。
商品A、商品Bどちらの視点から見るかによって数値が異なりますが、これが併売率です。
さて、この時図外に商品Aも商品Bも含まないレシートが200枚あり、総レシート枚数が220枚だったとします。
総レシート枚数中商品Aは 9÷220=4%、商品Bは 12÷220=5% に含まれる確率となります(購買率)。
商品Aを含むレシート中に商品Bが含まれる確率11%の方が、普通のレシート中に商品Bが含まれる確率5%の2倍となります。
商品Bを含むレシート中に商品Aが含まれる確率8%の方が、普通のレシート中に商品Aが含まれる確率4%の2倍となります(併売率と異なり、数値構造上どちらの商品の視点から見ても同値となります)。
擬人化して言うならば「商品Aを買う人が商品Bを買う確率は、一般の人が商品Bを買う確率の2倍も高い」「商品Bを買う人が商品Aを買う確率は、一般の人が商品Aを買う確率の2倍も高い」と言うことになります。
これをリフト値と呼び、1倍を超えていれば商品Aと商品Bとの間に一般超の購買関係がある事を示しています。
【商品選定】
併売率もリフト値も、売れていない商品同士の組み合わせ程大きくなる事がままあります。
その組み合わせでは政策ボリュームが期待できませんので、まず一般の購買率が高い事を前提に、リフト値1超の商品の組み合わせを選定するようにして下さい。
ついつい「ビールとおむつ」のような当たり前では無い組み合わせを追い求めたくなりますが、ボリュームにフォーカスした当たり前に思える組み合わせを選定した方が、一般的に好結果を望めます。
【政策展開場所と訴求】
先程からの商品Aと商品Bの組み合わせで考えてみると、クロスMD政策は商品Aの売り場で展開した方が併売率11%と確率に期待できます。
確率は8%と低いですが、商品Bの売り場で展開した方が、図のように非同時併売レシート枚数の多さから、政策ボリュームが期待できます。
どちらの期待も拡大解釈、政策次第である事に変わりはありませんので、展開場所にはボリュームが期待できる商品Bの売り場を選びます(双方で展開できれば良いですが、現場の売り場維持負担にも配慮して下さい)。
この場合、商品Bを手に取る顧客はその利用価値については既知の顧客ですから、そこに未知の商品Aを加える事で商品Bの利用価値が如何に高まるかを訴求する事がセオリーです。
以上、併売についてでしたが、レシートに顧客IDが付いた場合、併買が分かります。
カゴの中の二商品を知るのが併売ですが、カゴという枠を越え商品間での顧客の利用行動全般(含、同時利用)を知るのが併買です。
顧客の利用行動ですので、”併せ売り”では無く”併せ買い”になります。また商品に限らずカテゴリー間、日にち間、曜日間、店舗間等でも併買を知る事ができます。
興味がある方は引き続き以下でその違いの詳細をご覧下さい。
レシートに顧客IDが付く事で、一枚一枚別物に見えていたレシートが線で繋がって、顧客の利用行動が見えて来ます。
図はこれまでの図に顧客IDを加えたもので、下段が全て10/23の買い物、上段が全て10/30の買い物、下段と上段の縦列が同一顧客のレシートとなるように作られています(顧客03〜顧客09迄が10/23と10/30を併買している顧客)。単純化の為ですので「週一しか営業して無いの?」という突っ込みは無しでお願いします。
【併売との違い1】レシート枚数では無く、顧客ID数を勘定する。
顧客IDが付く事で、図のレシート2、3のような一人の顧客による同日併買が分かります。ただでさえ発生確率の低い同時併買ですので、買い忘れ等も考慮すれば、クロスMD政策は同日併買の多さで考察した方がベターです(同日併買中、バスケットが別れていない亜種が同時併買という考え方)。
レシート4とレシート12、レシート5とレシート13のように、同日では無くバスケットを超えて非同日で併せ買われている商品の組み合わせも分かります。これを一般的には期間併買、厳密には非同日併買と呼びます。
【併売との違い2】同時併買だけで無く、同日併買、期間併買(非同日併買)という併せ買いの存在が分かる。
同じ併買でも同日併買は、一度の買い物で肉と野菜が同時にカゴの中に入るように「商品Aと商品Bの利用価値は異なっている」という顧客の認識から発生する併買、期間併買はメーカー違いの類似商品同士のように「商品Aと商品Bの利用価値は似ている」という顧客の認識から発生する併買ですので、真逆の利用行動です。
一方で期間併買はシャンプーとリンスのように利用価値が異なるものでありながら、家庭内在庫の消費タイミングによって同日に収束し切れなかった併買である可能性を残します(回転の遅い商品同士を短期で集計した場合程可能性高)。
よって商品Aと商品BのクロスMD政策はまず併買者数が平均超である事を前提に、発生確率がより低い同日併買者数が、期間併買者数に対して平均超の割合を占めていれば本来のメニュー提案的な政策、そうでなければ「中華調味フェア」のように類似利用価値/類似ライフスタイルの集積によるミックスマッチライクな政策となります。
いづれにしてもこの場合の政策は、顧客に商品A+商品Bのような小さなポップアップマーケットを提示する事でマーケットの存在を垣間見せ、ニーズに気付いてもらうといったものになります。
政策の展開場所は、図を見れば訴求対象である商品Aの非併買者、商品Bの非併買者のどちらも4人ですので、併売の分析結果とは違いどちらでも展開可能という事になります(強いて言えばレシート枚数の多さから売り場への訪問頻度に期待できる商品Bの売り場での展開となります)。
【併売との違い3】同日併買と期間併買(非同日併買)の割合によって向いている政策が異なる事が分かる。
クロスMDのような華々しい政策の影にすっかり隠れてしまっていますが、併買が分かるという事は、非併買が分かるという事です。
図のように二つの商品があった場合、例外無くその過半は非併買者ですので、売り場における本来の主役は非併買者です。
頑なに一つの商品を利用する顧客05〜09の利用態度が示しているものは何でしょうか?
実は私たち自身にもそういった側面があるのですが「それじゃ無きゃ嫌だ」「他を以て替え難い」という利用態度ですので、そのような利用態度を示す顧客が多く居る商品をカットした場合、売り場の利用目的、場合によっては来店動機を損なう可能性が高くなります。
【併売との違い4】それぞれの商品の非併買者が分かる。
このように併買の世界では同時併買だけで無く同日併買、期間併買、非併買と、二商品間で行われている顧客の利用行動全てを網羅する事が出来ます。
必然的に併買者率は併売率のように見る商品の視点によって変わるものでは無く、売り場から切り出して来た商品A+商品Bという局所マーケットへの参加者が示す利用態度の構成比となります。
【併売との違い5】併売率の分母はそれぞれの商品のレシート枚数。併買者率の分母は両商品いづれかの利用ID数(マーケット構成比)。
よって、図中のいづれの併買者率も分母をマーケット参加者全員(12人)とした以下のようなマーケット内訳となります。
併買者率 = 4人 ÷ 12人 = 33%
内、同日併買者率 = 2人 ÷ 12人 = 17%
期間併買者率 = 2人 ÷ 12人 = 17%
非併買者率 = 8人 ÷ 12人 = 67%
内、商品A非併買 = 4人 ÷ 12人 =33%
商品B非併買 = 4人 ÷ 12人 =33%
ポイントはこの中で商品Aと商品Bの利用価値を近いと考えているのは、期間併買者の17%だけだと言うことです。
100% − 17% = 83%の顧客は商品Aと商品Bの利用価値を遠いと考えています。
この83%が商品Aと商品Bの間の、顧客から見た距離です。
商品Aと商品Bに限らず、売り場の全ての商品間にこのような距離が存在します。
【併売との違い6】商品間の距離が分かる。
売り場は文字通り商品相互が影響し合う場=面であるにも関わらず、私たちはこれを金額/点数/粗利といった商品個別の力、点の集まりとして捉えて来ました。
売り場において商品相互が影響し合っている事に着目し、これを同時併売という点と点が引き合う力、線※として捉えるようになったのが併売です。
商品間の見かけ上の力の源泉を顧客に求める事で、線の長さ=距離※が算出できるようになったのが併買です。
全ての点と点を距離で結べば面=売り場が見えて来ます。
買い物は選択/非選択の連続であり、売り場は巨大な併買の塊ですので、併買を用いる事でバイヤー業務のパフォーマンスを大幅にアップする事ができます。
ID-POSバイヤー業務大全2024<顧客が選ぶ”いつといつ”、”どことどこ”、”何と何”
※.商品同士が引き合う力を”近さ”のように捉え勝ちですが、売り場の現実から見てもカレーとじゃがいもは磁石のN極とS極のように異質であり、引力が強い(片方が売れればもう片方も売れる=非選択的)が故に売り場は離れていても良く、ジャワカレー中辛とゴールデンカレー中辛は磁石の同極同士のように同質であり、斥力が強い(片方が売れるともう片方は売れない=選択的)が故に近くに陳列されています。