売り場利用者の ”ニーズが見える” ID-POS分析
シン・Tapir−1.0操作説明原稿へのご質問 ID-POS分析の集計期間 に引き続き、「どうせなら店舗の選択についても書いてよ」とリクエストを頂いた為、書いてみます。
分析結果が綺麗に出る企業とそうで無い企業との差は、店舗選択にあります。
ID-POS分析の中核には、併買という顧客の利用行動があります。
クロスMDやマーケットバスケット分析と呼ばれる併買分析は勿論、ブランドスイッチ分析、リピート分析も併買の一形態です。
ここでは1対1の商品という併買分析の最小エレメントを例に、店舗の選択について考えて行きましょう。
非同時に併買を行った人は0人ですので、「選択的利用」はされていない = 両者へのニーズは別用途である と捉える事ができます。
この併買分析を、選択店舗 = 清須店+長野店 で行ってみます。
長野店に「つけてみそかけてみそ」は品揃えされていないと仮定すれば、図の長野店の24名は「選びたくても選べない」物理的に併買が不可能な人たちという事になります。
物理的に併買が不可能にも関わらず、それを「つけてみそかけてみそ」+「田楽みそ」というマーケット(自+相)への参加者 = 構成比の分母 とするのは如何なものでしょうか?
その結果、例えば同時併買率が2.0% → 1.4%に減少しています。
これが、店舗選択の分析結果への影響を端的に表したもので、結果が綺麗では無い例です。
結論から言ってしまえば、ID-POS分析における理想的な店舗選択とは「選びたくても選べない」人がなるべく出ないような店舗選択だという事です。
以降についてはそれに対する ”注意書き” です。
前図は端的な例として挙げたものですので「個店で分析しちゃ駄目なの?「選びたくても選べない」人が絶対に出ないでしょ?」と思われるかもしれません。
駄目では無いのですが、「確かに同時に買う人が多い」「確かに両者へのニーズは別用途らしい」という ”確からしさ” を担保する為には、分析対象とする店舗数(マーケット参加者数)がもっと欲しい※ところです(それがチェーンストアのメリットでもあります)。
また個店対応は店舗数が増えれば増える程難しく、寧ろなるべく多くの店舗を一括りに分析する事で、共通政策を打って行きたいところです(標準化)。
※.期間を長く採る事でマーケット参加者数を増やすのがNGなのは、前回記事 実はドン深!ID-POS分析の集計期間 で述べた通りです。
一方で前図で長野店に「つけてみそかけてみそ」は品揃えされていないものと仮定しましたが、実際問題「選べなかった/選ばなかった」をデータから判別するのは困難です※。
その為前図のような2店舗の選択は「全店」のような大きな店舗選択の中に隠れているだけで、一般に行われている選択です。
※.現状品揃えを時系列で正確に管理し続ける事が困難な事が主たる要因です。
エリア的要因で品揃えがされていないとすれば、それは売り手の判断とは言え「両者へのニーズは別用途である」※「同時に併買する人(できる人)は少ない」という事ですし、分析結果もそれと合致しますので「間違い」ではありません。
クロスMDの相手としては同時併買率が落ちる為、政策上の「間違い」を生む事も余りありません。
少ない人数、限られた時間の中で成果を出して行く為には、(特に標準化が徹底されていない企業において)このような店舗選択を「正しくない」とは言い切れません。
ここでの一つの結論は「店舗選択はエリア単位で行った方が良い」というものですが、以降も含めて ”厳密には” と捉えて頂いて良いかと思います。
※.特に店舗のマーケット・セグメンテーションでは地理的に「選びたくても選べない」事が寧ろ活きてきます。
近しいニーズを持つ人が多いであろう同一エリアであっても、棚割が3本パターンの店では選択できる商品同士が、1本パターンの店では選択できなかったりします※。
エリア違いで「選べない」事はまだしも、棚割パターンの違いで「選べない」事は、明らかに顧客の望んだ事ではありません。
複数パターンがある場合、パターン毎に分析して行くのは骨ですから、店舗選択はエリア内の最大パターン採用店舗群を選び、その結果から得た政策を、それ以下のパターンにも適用して行くのがベターです。
※.密なドミナントが形成されていれば、店舗間での併買がこれを多少和らげます。
明らかに顧客の望んだ事では無いと言いながら、逆に最大パターン採用店と最小パターン採用店では、顧客のお店に対する業態認識そのものが異なっている場合があります。
業態認識が異なるという事は、そこに求めているニーズも異なるという事です。
ID-POS分析の主題は顧客のニーズですので、店舗選択には顧客から見た業態認識※という視点も必要です。
※.同じ企業、同じ坪数の食品スーパーマーケットという業態であっても、単独店とSC内のアンカー店に求められるニーズは大きく異なります。顧客から見た業態認識は、以前の記事スーパーマーケット 生鮮三品のID-POS分析 中の海あり県のマーケット構造と海なし県のマーケット構造のように、マーケット構造の差異からある程度掴む事ができます。
エリア毎、業態毎の最大パターン採用店舗群をリスト化しておけば、BiZOOPeのファイル読込により、店舗の選択を楽にできます。
とは言えエリアは否応無く存在するものですし、これからもどんどん増やして行くものです。
店舗の指定パターンを エリア数 ✕ 業態数 ✕ 棚割パターン数 とすれば、エリア標準化によって業態数、棚割パターン数を絞り込んで行かなければ、出店エリア数に比例して管理精度が落ちて行く事は火を見るよりも明らかです。
各エリアに対して業態数も棚割パターン数も等しく1だった場合、店舗選択は「エリアを選ぶ」一択になります。
ID-POSの分析結果が綺麗に出るか出ないかは、店舗選択 = 標準化の深耕度と整理の差によります。
それが分析精度の差、ひいては政策精度の差にも繋がります。
その為、分析時に「選びたくても選べない」人が出ないような店舗選択を難なく行える企業 は 成長性のある企業 です。
以上、店舗選択の理想から、標準化の重要性へと辿り着いた、ID-POS分析の店舗選択についてでした。
※.余談ながら ー エリア差を吸収する品揃えによって、標準化するエリアを他社より広域に設定できる事が、最近勢いのある大型店のメリットなのかな?と思ったりしました。