「欠品を防ぐ」という売り手の至上命題において、発注や在庫管理における統計理論にはしばしば「μ(平均)+2σ(標準偏差)」という式が顔を覗かせる。しかし、ある商品の上振れ(μ+2σ)が発生している背後では、確率的に別の商品の下振れ(μ−2σ)が発生しているはずである。それにもかかわらず、すべての商品を「独立した個」と見なし、一律に平均を上回る「μ+2σ」を適用して陳列量を決めれば、売り場が在庫過多となるのは自明の理である。
さらに、この過剰に安全な在庫を「奥行き」で吸収しようとしても、現場の実務と顧客認知の観点からは致命的な矛盾が生じる。どれほど奥行きにμ+2σの十分な在庫を持っていようとも、現場で「前出し」作業が行われなければ、顧客からは一番手前にある商品しか見えないからだ。前出しがされていなければ、奥に10個の在庫があろうが1個しか無かろうが、顧客の認知上は同じことである。過剰な奥行きはその分の「前出し作業」の手間を現場に強いるだけであり、確率論だけでなく認知と実務の観点から言っても、全商品への一律な「μ+2σ」適用は、余剰が過ぎると言わざるを得ない。
BiZOOPeの理論は、この「過剰な安全在庫」のジレンマに対して、「個の確率論」から「群(ニーズ)の確率論」への転換とも言える回答を用意している。 第一に、陳列総数や奥行きの計算において「Roundup(切り上げ)」処理を適用することで、各商品に最低限の物理的なバッファを持たせており、これが欠品への第一の防波堤となる。第二の防波堤は物理量ではなく「代替性のネットワーク」にある。
3.2で述べた「選択範囲(ニーズ)」でのゾーニングにより、売り場は基本的に「買い手にとって代替可能な商品の束(群)」として構成される。経験則的に言えば、この選択範囲の束は「突出した大きな需要を持つ1つのトップSKU」と「それを補完するその他の複数SKU」によって構成されていることが多い。(カテゴリーの特性によっては、選択範囲が必ずしも代替品の束とならない場合や、選択範囲が1SKUのみで構成される例外もあるが、多くの場合において)頭一つ抜けた売れ筋の1つのSKUがμ+2σの異常需要に見舞われて一時的に欠品したとしても、同じ選択範囲の隣には、μ−2σ方向の余力を持った複数のSKUが束となって買い手を待ち受けている可能性が極めて高いのである。
すなわち、ID-POSが導き出す「選択範囲」による棚割とは、安全在庫を単品ごとに抱え込むのではなく、ニーズという「群」全体でリスクを分散し、共有(シェア)し合うポートフォリオなのだ。 過剰な体積(在庫)やその前出し作業に頼らずとも、特定の単品の欠品を「ニーズの欠品(買いたいものが何もない状態)」にはさせない。売り場全体としての機会損失は、この代替のネットワークによって吸収されるのである。