やりがいのない「忙しさ」を捨て、「商い」に調和を生む
メーカーが自ら「ライバル」と認知している商品と、顧客がそう認知している商品が、異なる場合があります。
ライバル関係というものを明確に定義するならば、偶発的な流入出ではなく、定常的かつ明確に「顧客が他と比較し、平均以上に選択している」関係にある商品同士のことと言えます。
本来ライバル関係に無いものに「ブランドスイッチ」を仕掛けても「のれんに腕押し」ですから、ブランドスイッチにあたっては、「仮想敵」をしっかりと認知しておく必要があります。
特にNo.1以外、殆どの相対的弱者においては、ブランドを挙げての破れかぶれの総攻撃ではなく、地道で緻密な「各個撃破」こそが必要とされる戦略です。
ですから尚更、撃破すべき各個の「個」とは何なのか?を明確に認知しておく必要があります。
例えば下図において「選択範囲」は、「顧客が他と比較し、平均以上に選択している」関係、すなわちライバル関係にある商品同士の範囲(顧客ニーズ)を指しています。
ここで一旦「サントリー」の立場からデータを見てみれば、「ペプシゼロ」のライバルが「コカ・コーラゼロ」であったり(選択範囲=f1_n6)、「デカビタパワー」のライバルが「ドデカミン」であったり(選択範囲=f1_n5)するのは分かりやすいでしょうが、「天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー」や「やさしいルイボス」のライバルが、「ストレートティー」や「無糖紅茶」だというのは、想定外の事でしょう。
しかし実際、多くの顧客はそのように動いているのです。
※.図は「AIエージェント」⇨「目的範囲・選択範囲のニーズ要約」から、ニーズ名を推論、要約済のもの。
ここではID-POSによる、メーカーのブランドスイッチ政策について記して行きます。
既出の分析画面、BiZOOPe の 『ニーズの見える化(シン・Tapir−1.0) 』を使った解説にはなりますが、BiZOOPeをお使いでないみなさまにも、ID-POS分析の基本的な考え方、ランチェスター戦略の商品マーケティングへの具体的活用方法として、大いに参考にしていただけるものと思います。
ブランドスイッチの位置付けとは、「マーケットリーダー」を目指すNo.1戦略の道程です。
既にしてマーケットリーダーとなっている選択肢には、下図列見出し「重点レコメンド」に1st、または2ndというレコメンドが振られています。
「選択範囲」は、範囲内の選択肢間で併買が平均以上に卓越した、謂わば「ブランドスイッチの戦場(局地戦)」です。一方で顧客の目から見れば、これらは自分のくらしの中における「選択肢の束」に過ぎません。2ndレコメンドは、その中でも顧客からNo.1の支持を集めている選択肢、「ニーズリーダー」です。
「目的範囲」は、その範囲内の選択肢と、範囲外の選択肢との間で非併買が卓越した塊であり、範囲外から侵攻される恐れのほとんどない、謂わば海を隔てた大陸(セグメントされたマーケット)です。冒頭に挙げた言葉を借りれば、「のれんに腕押し」となるか、ならないかの境界線とも言えます。
これも顧客の目から見れば、これはそれぞれに異なる「ライフスタイル」「売り場を利用する目的」であり、例えば目的範囲=f1であれば「喉潤す定番飲料:手軽にリフレッシュ」というものです(AIによる推論)。1stレコメンドは、その中でも顧客からNo.1の支持を集めている選択肢、「ライフスタイルリーダー」であり、マーケットが他とは隔絶されていることを考えれば、「マーケットリーダー」です。
そして、残りすべての重点レコメンド「なし」が、それらリーダーの背中を追いかける「フォロワー」です。
※.図は「AIエージェント」⇨「目的範囲・選択範囲のニーズ要約」から、ニーズ名を推論、要約済のもの。
自身の目的に応じて売り場を分かれて行き、自身のニーズに沿って、選択肢の束の中から今日の選択を拾い上げる。この帳票全体は、謂わば「お買い物地図」のようなものです。
物騒な喩えで恐縮ですが、この「お買い物地図」ように、実はマーケットすなわち戦場は分かれていることを認知し、そのメリットすなわち局地戦のメリットを活かすこと。
それこそが、「マーケティング」です。
このように『ニーズの見える化 』があぶり出す「お買い物地図」=「戦況マップ」ですが、戦況をただ眺めているだけでは何も生み出しません。
「局地戦のメリットを活かすって言ったって、どうやって活かせば良いのさ?」
ということで、ここでは局地戦戦略の代名詞である「ランチェスター戦略」と、「戦況マップ」に基づくブランドスイッチ戦略を、以下の表に符合させてみました。
元々が戦争における戦略のマーケティングへの適用故、わかりやすさのために以降もこの物騒で不躾なメタファーを使い続けることをお許しください。
言葉の定義だけでは実感が湧きませんから、実際のデータを順を追ってランチェスター戦略に符合させながら、一緒に思考してみましょう。
実感が湧くように、ここでは自分が「サントリーの営業マン」になったつもりで、次の図の目的範囲 = f1に絞って見て行きます。
「目的範囲f1」というマーケット中、サントリー製品は1つのニーズリーダー(ペプシゼロ生)しか持っていません。
そのニーズリーダーにしても、直下の敵「コカ・コーラゼロ」の兵力 = ID数は11,009人、√3倍して24,808人ですから、自身の兵力16,028人は、ランチェスター戦略に照らして、「絶対的安全圏」とは言えません。
マーケットへの足掛かりとして、まずはこの牙城を確固たるものとするというのが、本来第一の考え方です。
一方で他のサントリー製品も、各「選択範囲」のNo.1商品に対して、決して√3倍の絶望的な開きをつけられているわけではありません。逆転の仕様があるということです。よってここでは「データ上の面白さ」という視点だけで、戦場を「選択範囲f1_n1」に絞って見て行きたいと思います。
※.図は再掲です。読みやすさのため、以降も繰り返し再掲して行きます。
弱者の悪い癖の一つに、「敵いっこない」と「戦いを避ける」というものがあります。
一方で顧客は事実「選択」をしているのですから、戦いを避け遠くに陳列していれば、顧客に「新たな選択」の審判を受けることも叶いません。
よって例えば棚割であれば、「選択範囲」内の選択肢を、同じ場所に集めてゾーニングする必要があります。
対戦相手とともにリングに上がらなければ戦いは始まりませんし、パンチを繰り出さなければ、勝利は得られないのです。
図の列見出し「関連順」で見た時に、「天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー」と関連性の高い上下の敵は、列見出し「利用者率」で見れば、いずれも兵力(ID数)上位の敵あり、兵力的に「直下の敵」はいない状況です。
それでも最初の対戦相手として、いきなりニーズリーダーである「ストレートティー」を指名するよりは、「直上の敵」である「無糖紅茶」の各個撃破を目指した方が、まだ武器効率(コスト)が小さく済みます。
しかも運の良い事に、自社商品である「やさしいルイボス」も、「無糖紅茶」と関連性が高く、「直上の敵」としています。
両者の敵対関係を個別に見れば一対一ではあるものの、これはつまり
ハサミ討ちの形になるな…
ここで筆者であれば、三商品のコーナー化を提案します。勿論、逆にハサミ討ちにされないために、ニーズリーダーである「ストレートティー」は除きます(少なくともコーナーPOPの範囲から)。
目的は、共通する「直上の敵」の、挟撃による各個撃破です。
陳列の際の並びは顧客、特に「無糖紅茶」の顧客に真剣に悩んでもらうために、「関連順」に則って左右または上下に、隣り合わせて並べます。
バイヤーへの提案は、AIによる「ニーズ要約」を見ながらー
「御社の売り場には、気軽に冷えた定番商品を手にとり、リフレッシュしたい顧客層がいます。」
「中でも無糖紅茶を好むような顧客が、気分転換のためか、時にルイボスティーやフレーバー付きミネラルウォーターを選択しているという興味深い傾向が見られました。」
「健康志向でノンカフェインへの関心も進むこの市場を広げるために、コーナー化して売り場を訪れる顧客にリフレッシュ提案をしてみませんか?」
のようにします。
コーナーPOPも同じく「ニーズ要約」を参考にー
「あなたのリフレッシュ、冷えてます」
「今日の気分はノンカフェイン?カフェイン?それとも果実のしあわせフレーバー?」
のようにします(カフェインを否定する事なく、ノンカフェインを「選択肢」の一つとして受け入れやすいように仕向ける提案)。
この戦いの雌雄を決するのは、あくまでも顧客だからです。
「無糖紅茶」の兵力=利用ID数は、12,963人です。
「天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー」の兵力=利用ID数は、11,387人です。
「無糖紅茶」に勝つために必要とされる武器効率は、(12,963 ÷ 11,387)² = 約1.3倍 です。
それに対して「やさしいルイボス」の兵力=利用ID数は、11,114人です。
「無糖紅茶」に勝つために必要とされる武器効率は、(12,963 ÷ 11,114)² = 約1.4倍 です。
価格を 1/1.4 = 約74% として武器効率にするのは厳しいですが、例えばフェイシング数を倍にするのであれば、造作もありません。このように武器効率は、様々な側面から捉えることができます。
筆者なら、最大フェイシング数のキャップを5とし、まず最優位地に自社商品で最もID数の多い「天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー」を4フェイシング置き、その隣に「無糖紅茶」を3フェイシング、その隣に「やさしいルイボス」を5フェイシング置きます。
武器効率の具体的な数字を示すためにこうしてみましたが、こういった物理的に目につき易い戦術では、「エゴイスティックに過ぎる」とお感じになられるかもしれません。
物理的に目につきにくい戦術に「クーポン」があります。
その際も、フェイシング数に「エゴイスティック」な差は付けずに、コーナー化だけは実施します。
実は「天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー」と「やさしいルイボス」のID数の総和(兵力)は、21,952人(両者の間にも併買者は居るため、単純和にはなりません)と、「無糖紅茶」の12,963人を上回りますので、一対一には反しますが、便宜上これで良しとしておきましょう。
その代わり、それに併せて「次回以降のご利用で『天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー』または『やさしいルイボス』お買い上げのお客さまに10ptプレゼント」のようなクーポンを、「選択範囲f1_n1の利用者全員」(クーポンの場合は「ストレートティー」の利用者も含めます)に、発券します。
通常の買い物の中で、相手に自然につくポイントが2ptだとするならば、10ptはその5倍の武器効率に相当します。
※.クーポンは客単価はそのままに、利用者の来店頻度を上げる、「小売よし」な政策でもあります。クーポンについて詳しくは、ターゲット顧客選定の技術と実務をご覧ください。
ここまで不躾にも顧客を「兵力」に例えて来ましたが、そのままの例えを続けるならば、彼らは各商品の「正規兵」ではなく、謂わば「傭兵」です。
データから言って、SKUレベルではどこまで行っても50%超が、年に一度しかその商品を買わない「傭兵」だと見てもらって間違いありません。
コーナー化の目的は、このようにどちらも「傭兵」である利用者、すなわち併買をする存在に「『天然水きりっと果実オレンジ&マンゴー』や『やさしいルイボス』も、選択肢として『アリ』だな」、あるいは「リフレッシュにはやっぱコレだよな」と感じてもらうことです。
そしてクーポンの目的は、それを盤石なものとするために、一回こっきりの傭兵(トライアラー)から「無意識の併買者」(リピーター)へ、無意識の併買者から「積極的併買者」になってもらうことです。
遠回りなようですが原則は「蟻の穴から堤も崩れる」です。
ブランドスイッチのように、「もっと儲けたい」という「自身のエゴ」を通すために「小売のエゴ」と調整をはかることも、「もっと儲けたい」という「小売のエゴ」を通すために、「自身のエゴ」に調整を加えることも、これまで何度もあったことでしょう。
そこに妥協ではなく「調和」をもたらすのは、従来そこに不在であった「顧客のエゴ」です。
競合はさておき「三方よし」。それが畢竟エゴイスティックな者同士が織りなす政策を、調和へと導く「鍵」です。
「お買い物地図」に基づく陳列にクーポン、このように今まで秘匿され続けて来た「悪魔的ガイドライン」の存在を知っているかいないかは、手前味噌ながら、今後メーカー間の大きな競争力の差に繋がると言えるでしょう。
以上、ブランドスイッチの技術と実務についてでした。