売り場利用者の ”ニーズが見える” ID-POS分析
前回 シン・Tapir−1.0のマニュアル原稿 を先行公開したところ「なぜID-POS分析の集計期間の基本は直近13週なんですか?」という質問を頂きました。
ありがとうございます。ナイス質問です!
単純なようでいて実はドン深な、ID-POS分析の集計期間の真理を、改めて一緒に見て行きましょう。
POS分析における売上方程式の最明細は、売上 = 客数 ✕ 客点数 ✕ 点単価 です。
各指標は図のように1週集計であっても52週集計であっても、平均で±5%※未満の差異しかありません(以降含め全てドラッグストア17店舗集計)。
ほとんど違わないのですから、POS分析における集計期間の長さは、ある程度「お好みで」という事になります。
どのような集計期間を採っても常にそうだという事は、ほとんど「そういうもの」だという事です。
・一人の顧客は平均230円程度の品を、一度の買い物で7〜8点カゴの中に入れるものだ
・17店舗あればレシートは、毎週27,000枚程度発生するものだ
「そういうもの」は「そういうもの」なのですから、改善の糸口はありません。
唯一差異が±3%※を超えた”客数”には、何か改善の糸口が隠されているかもしれません。
※.対比における目安として、±3%以内:差異なし ±5%以上:差異あり ±10%以上:大きな差異あり
私たちが生み出したいのは、競合との”差異”ないしは”大きな差異”です。
ID−POS分析における売上方程式の最明細は、その”客数”をPOS分析から一段階分解した 売上 = ID数 ✕ ID回数 ✕ 客点数 ✕ 点単価 です。
ID数とID回数(客数÷ID数)の週平均は、図のように集計期間が長くなればなる程小さくなって行き、1週集計と52週集計では似ても似つかない値を示します。
1週集計の、週平均18,325人が1.45回来店するというのは「そういうもの」のような気がしますが、52週集計の週平均1,594人が0.34回来店するというのは、「そういうもの」から大きくかけ離れています。
まずID数※1は52週中毎週利用しても、どこか1週しか利用しなくても、利用回数に依らず「一人は一人」でカウントされる指標です。
毎週毎週18,325人が新たに流入して来る訳では無いので、集計期間が長くなればなる程1週平均は小さくなります。
ID回数※1は、顧客の流入して来た週によって残存利用期間が短くなる為、やはり1週平均は小さくなります。
52週のID回数をざっと 52週 ÷ 2 ✕ 1.45回 = 37.7回 とすれば、1週平均は 37.7回 ÷ 52週 ≒ 0.73回 です。
ところが図の1週平均は0.34回ですから、想定される1週平均0.73回の半分未満である事が分かります。
これは 0.34回 ÷ 0.73回 ≒ 47%の顧客が1.45回未満、すなわちほとんど1回の利用で(カード会員にも関わらず)未利用化している為で、「そういうもの」では済まされない、改善の大きな糸口になり得ます。
ID数、ID回数という週平均する事自体がナンセンス※2な根源指標を持つID-POS分析には、集計期間の設定が必須なのです。
※1.ID数とID回数については ID-POSの基本指標:ID数とID回数 を御覧ください。
※2.これに対してPOS分析は、ヒトの動きを畳み込んで、発生する紙の枚数 ⇨ モノの動き に変換していますので、週平均が一定します。私たちが実際に手に取り、動かせるのはモノですが、向き合うべきなのは主体であるヒトです。
図は本当に約47%の顧客がほぼ1回の利用で未利用化しているのか?を知る為に、BiZOOPeの分析メニュー リピート推移(店舗)の分析結果を加工したものです。
集計期間の1週目利用者のID数を母集団として固定※1し、利用者と未利用者が、母集団を分母とした構成比の推移で表されています。
2週目にして本当に母集団の46.6%が一気に未利用化し、それが殆どそのまま減耗して行っています。
店が利用1週目にしてあっという間に見切られてしまう勝負の早さには驚かされますが、ここではそこに詳しくは触れません※2。
2週目以降の未利用化については”一気に”という事は無く、ゆるやかに減耗(図の範囲で平均-0.1%)して行っていますので、「そういうもの(自然減耗)」なのかもしれません。
34週目からは、利用者の構成比が定常的に50%を割り続けます。
マス・マーチャンダイジング、標準化の観点から言えば、Fromに指定した最過去週の利用者の、過半数の利用行動が得られるのは、最長で33週集計迄だという事です。
店は多数派の為にありますが、毎週一瞬にして未利用化して行く46.6%の顧客を、放っておいて良いものでしょうか? 53.4%の残存顧客を大事にして行くだけの店で良いのでしょうか?
※1.2週目以降の新規流入はありません。
※2.興味のある方は【仕事のあり方】販促部の役割、商品部の役割 を御覧ください。
次の図に追加した「VS 2週目」は、一旦2週目で起こった46.6%の未利用化の事は忘れ、2週目時点の利用者と未利用者の構成比に対して、以降の週の構成比が何%にあたるかを計算したものです。
利用者の構成比が100%を超える週がある事から、14週目迄は、一度未利用化した人の復活があり得るという事が分かります。
復活 = 2回以上利用 = リピート、ブランドスイッチ、併買等、多くのID-POS分析に使われている利用行動です。
一旦未利用化した人の2回以上利用という利用行動が得られるのは、最長で14週集計迄だという事です。
勝負は1週目でほとんどつき、リベンジできる期間も14週しかありません。勝率は5割台です。
53.4%の継続利用者は、「そこにニーズがある」からこそ継続利用している訳ですが、毎週46.6%も発生し続けている未利用化を少しでも解消して行く為には、未利用化した人たちのニーズを知る必要があります。
未利用者の復活は「そこにニーズが全く無い」訳では無い事を示唆する希望です。
そのニーズを認識できるようにする為には、集計を14週以内に留める事で、それを希釈※3し過ぎてしまわないようにする必要があります(その意味でも利用回数によらないID数という指標は極めて重要です)。
BiZOOPeが 商品実績 = 現状の量 以上に ニーズ欠落が無い事 を重視し、集計期間の基本を13週※4としているのは、未利用者を含んだ現状の2倍近い大きさの市場を、チェーンストアが”本来戦うべき市場”※5と見ているからです。
※3.ロイヤル顧客等顧客を絞り込んだ分析・売り場作りをした場合、希釈どころでは無く、未利用化はより一層激しいものとなります。
※4.14週としていないのは、13週=約3ヶ月であり、その倍の26週=約半年、その倍の53週=約1年と扱い易い為です。
※5.ロイヤル顧客向け売り場、コア年代層想定売り場等、ID-POS分析で市場を絞り込んだ”セコい”売り場程、単純に53.4%の顧客を市場としているPOS分析の売り場にも劣ります。
ニーズは顧客の選択という2回以上の利用行動から明らかにする事ができます(トップページ 選択は口ほどに物を言う 参照の事)。
2回以上の利用には相応の期間が必要ですが、利用と利用の間が離れれば離れる程、それぞれの利用時点に顧客が置かれていた状況と価値観※1に大きな違い※2が生じます。
図のようなジャムの選択をする人が多ければ、「500gジャム」というニーズがあると考えられますが、図のような車の選択をする人が多かったとして、果たしてこれは「4WD」というニーズなのでしょうか?それとも「アウトドア」というニーズなのでしょうか?
そういうニーズが確かにあったとしても、余りに長い集計期間は、ニーズ認識も、それに基づく政策も、大味なものとします。
未利用化した人たちから見れば、店舗ですら13週内で2回も利用されていないのですから、「13週内に普通2回は入り用であろう」と想定※3されるカテゴリーが、ID-POS分析には向いています。
※1.極端に言えば米不足下かそうで無いか、コロナ下かそうで無いか、子供が独立する前かそうで無いか等。
※2.蛇足ながら、多くの顧客の置かれた状況がガラッと変わる節目である3月と4月を、跨いで集計しない方が良いのでは?と思ったりもします。
※3.想定が2回であれば、実績数値(ID回数)は必ずそれを下回ります。それを改善して行くのが目的ですので、「想定」で結構です。
前図のようにジムニーに乗っている人に、レヴォーグ用のスタッドレスタイヤをおすすめしても、まず響く事は無いでしょう。
それに対して500gブルーベリージャムを買った人に500gいちごジャムをおすすめすれば、高確率で響きます。
但しそれは500gブルーベリージャムを買ったのが、ある程度直近であった場合です。
顧客が置かれているのは、ジムニーに乗っていて、500gジャムを必要としているという今の状況であり、私たちが日々売り場で向き合っているのは、去年あったニーズでは無く、今ここにあるニーズです。
その為、直近での集計は必須です。
一つは【離反を防ぐマーケティングカレンダー】期間のマーケット・セグメンテーション でも明らかにした通り、顧客が曜日を利用目的、選択対象としているからです。
各曜日利用者の選択の機会ができるだけ均等になるよう、週での集計をお勧めしています。
もう一つは直近性の為です。
月の場合どうしても締め日が気になってしまいますが、週であればBiZOOPeでは「直近日迄の13週間」という指定が可能です。
如何だったでしょうか?
「ID-POS分析の集計期間の基本は直近13週です」とサラッと言っていますが、その裏は屁理屈まみれでしたw
それは私たちが向き合っている数字が、モノ由来のものでは無く、ヒト由来のものだからです。
黒かちょーの戯言(閲覧注意w)
ついこの間「シン・Tapir−1.0 のように”答え”を教えてくれるものがあると、バイヤーの”考える力”が失われてしまうので、POS分析で十分」と言われましたorz
答えが分かって、売上が上がり、顧客が喜ぶ事を拒む理由が何処にあるのでしょうか?
私は売り手ですので出来るだけ簡単に見せようとはしますが、集計期間一つをとってすら、真に理解しようとした時に、これ程顧客を考えなければならない事が、一体POS分析の何処にあると言うのでしょうか?